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第18話初めての磯外村

よろしくお願いします。


ボーゲルに置いてけぼりにされ、僕たちだけで漁村の視察をする事になった訳だが……



「視察てどうすればいいんだ?」


「視察? 分かんない……」


ヒナが可愛らしく首を傾げている中、僕は相棒のリュックからお財布を取り出した。



「……軍資金は5万3千円。帰省するからと多目に持ってきておいて正解だったな」



これだけ有れば3日間の宿代と食事代ぐらいならなんとかなりそうだ。


実は黒石家の当主候補のみに配られるブラックカードもあるのだが、怖くて使えない……


それに携帯も繋がらないこの村でカードが使えるとは思えない。



(夏場だからいざとなれば野宿という手もあるしな)


段取りはない。イチ高校生でしかない僕に出来る事は限られている。



「よし、一先ず村の中を見て回ろう」


「うん!」


ヒナの元気の良い返事と共にぼちぼちと歩き出した2人。ヒナの手を繋ぎながらゆっくり進んでいく。


この村は今時珍しい事に半径6km四方の小さな村を、高さ10m程の鋼鉄製のバリケードでぐるりと囲こまれているのだ。



「昔はこういう村もあっただしいけど、今時は珍しいな……」


村の入り口には門の様な作りのゲートがあり、そこには鋼鉄製の頑強そうな扉が有った。


今は僕たちを歓迎するかの様に開いている扉だが、こんな小さな村にはいささか不釣り合いだ。


この村に鉄道の駅はない。あるのはバス乗り場と外来者用の駐車場のみ。


ゲートの前にはバス乗り場が有り、その前に緩やかなスロープがある。そこにはバリアフリーの手摺も備え付けられている。


その手すりの先には町の案内図の看板があり、お年寄りへの配慮が伺える。その前にはロータリーがあり、車がこの村の交通手段だと分かる。



この磯外村は人口1000人程の小さな村で、漁業が主な産業だ。


村内には小さな病院もあり、町の中央にあるスーパー宮川は皆の憩いの場所だ。


今では過疎が進んで子供なぞほとんど見かけないが、生徒が3人だけのちいさな小学校もある。



そんな磯外村に入ってすぐに僕たちは異変に気付いた。


なぜかこの村には人が1人も居ないのだ……


歩けど歩けど人の影すら見当たらない、それに河川敷から不快な匂いも流れてくる。



「人が1人も居ないなんて、これはどういう事なんだ? それにこの匂い……鼻が曲がりそうだ」


村の只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、僕の手を握るヒナの手に力がこもる。


早々に河川敷の近くから離れる僕たち、住宅地なら人が居るかもしれないと向かうことにした。



だがたどり着いた其処でもやはり人の姿は見受けられない……


家の中に居るのではないかと呼び鈴を鳴らしてみるも、建物の中にも人の居る気配は皆無だ。



ひょっとしたら小学校か役場なりに、何らかの理由で避難している可能性もある。僕らは村の案内看板を見て道順を確認すると行く事にした。


先に役場を見て来たが、少々室内が荒れている程度で人の姿はなかった。


次に向かったのは小学校。村の中心にあったので比較的楽に見つける事ができた。



「ここが小学校か……」



小学校の入り口にたどり着くと敷地内を見渡す。やはり誰も見当たらず、校内へ入って見る事に。


「ヒナは僕から離れないでね」


「……うん」


人がいるかも知れない校内で手を繋いでいるのもアレなので今は離しているのだが、そのせいかヒナの機嫌が少し悪い……


ヒナは僕の横にくると付かず離れずの距離で僕に着いてくる。



校舎自体には異変は見られない。なので外にある体育館の様子をみて回る事にした。



その体育館でここに来て初となる手掛かりが見つかる。


体育館には何かと争っていたのか、外からの侵入を防ぐ様にバリケードが所々に設置されていたのだ。

  

「バリケードか…… 一体この村の村民に何があったというんだ……」


きっと村民達は、何かから身を守るためこの体育館内に立て篭もっていたのだろう。


ならば残っている者も居るかもしれないと期待がもてたが、体育館の裏手に回ってその予想が絶望的であると悟った。


体育館の裏手には大きな穴が空いており、中には人っこ1人も、血の跡さえも残されていなかったのだ。



この状況に軽く絶望を感じた僕たち。


ヒナを見れば疲れたような顔をして俯いている。歩かせ過ぎたと反省して背中に彼女を背負い、今夜の宿になりそうな場所を探す事にした。


能力のおかげで人1人くらいなら背負っていても何の問題もなく動ける。



「疲れただろ、ごめんなヒナ」


「大丈夫だよ、私、まだ歩けるよ」



ヒナはそう言っているが強がりだと分かるので、そのまま移動だ。


僕たちはスーパー宮川で缶詰とカップラーメンを頂戴して宿代になりそうな建物を探す事にした。


ヒナが欲しがっていたのでバニラアイスもついでにいただいておいた。ああもちろんお金は置いてきたぞ。


スーパー宮川のお惣菜コーナーのお惣菜の賞味期限が6月6日だった事から、この前後に村の住民が消えたということになる。


(今から2ヶ月前か……一体何があったというんだ?……)



空模様も怪しくなって来た、一雨きそうなそんな予感がする。


あの体育館の事もある、なるべく頑丈そうで安全な建物を探すことにした。



「おっ、この家なんか良さそうだぞ」


「四角いね」


僕たちは村でも比較的新しいコンクリート打ちっぱなしの家屋を見つけた。そして家の2階部屋を今夜の宿に借りる事にしたのだ。


この不足の事態に何が起こるか分からない。そこでこの家にあったゴルフクラブを護身用に借りる。


時刻は午後6時、まだ辺りは明るいが黄昏時特有の赤焼けが村を染めていく様は、凶兆とも取れる異様さだ。



そして、村に闇が訪れると共に奴等が動き出した。

ありがとうございました。

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