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164話 飛昇


「ワッツ?!」


刻羽童子からの突然の決闘の申し出に大口を開いて驚くボブ。


「オイラと戦ってくれボブ殿!」


千姫を賭けてというのは単なる口実に過ぎない。


真剣な眼差しで迫る刻羽童子。彼なりのケジメのつもりなのだろう、彼は本気だ。


そんな刻羽童子の目を見てボブは返事を返す。


「…… 分かりま〜シた。刻羽、貴方とォ戦いましょう」


「ぼ、ボブ!?」


ボブの肯定の返事に驚いた千姫が声を上げる。


「彼は本気で〜ス、その気持ちをォ無下にはァ出来ませ〜ン。花子はァ脇で見ていてくださ〜イ」


どうやらボブも本気で刻羽童子の相手をする様だ。

短い間とはいえ彼等と過ごした数日で彼のひととなりは分かっている。


あの目をした時の彼は本気だ。だからボブも本気で相手をするつもりだ。


先のボーゲル戦や巨大なトカゲ(ドラゴン……)との戦いで、死んでパワーアップしている今のボブの強さは、刻羽童子を遥かに凌駕する。


その事に刻羽童子とボブ自身も気付いているが、それでもボブは彼の思いに応えたいのだ。


彼等は戦いの余波で辺りに被害が及ばない様に山の奥に向かう。



「ボブ殿、最初から全力で行かせていただく!」


戦いの余波に巻き込まれない様に千姫は離れた場所で【絶対世界】の結界を張って身を守っている。


ならば初っ端から全力とばかりに刻羽童子は、【風装.花月】を纏うとボブ目掛けてブースターを全開にする。


ド〜ン! という爆音と共に音速を超えた刻羽童子は、その速度のままにボブにパンチを放っていく。


その刻羽童子の全パワーが乗ったパンチを真正面から受け止めようとするボブ。


今のボブなら刻羽童子のスピードを見切りその姿を捉える事は可能。


彼にひなたの【パーフェクト.カウンター】の様な器用な事は出来ない。そのため真正面からのぶつかり合いしか選択肢はない。


「グッ!」


「ガハッ!」


タイミングは同時、互いの拳がそれぞれの頬にクリーンヒットする。


ぶつかり合った衝撃波と共に互いに吹き飛んでいく。


ボブの今の攻撃力は、全ブースターを全開にさせて最大パワーの刻羽童子と同等か。


「ま、待ち構えていて全力のオイラと同等なんて、ふざけるにも程がある」


「なかなかいいパンチで〜ス。だがァ戦いはァこれからで〜ス!!」


それなりのダメージは負っている2人だが、負けて成るものかと立ち上がり、先程と同じ様に再びぶつかり合う。


強大な力のぶつかり合いで彼等の周りの地形が更地へと変化する。


激突するその度に吹き飛ばされダメージを蓄積させて行く2人。


「ボ、ボブ……」


千姫もこの戦いの行く末を見届ける所存だ。


そして何度か目のぶつかり合いを経てついに勝敗が決した。


同時にぶつかり合った両者だったが、刻羽童子が立ち上がってくる事は無かったのだ。


彼は大の字に仰向けで寝転がり空を見ていた。体力的にもダメージ的にも限界な彼にはもはや立ち上がるだけの余力も残っていないのだ。


最後はやはり自力で勝るボブの勝利だった。


「…… 素晴らしい勝負で〜シた。刻羽、貴方ァの事は忘れませ〜ン。良き友、ライバルとしていつまでも私〜シの心に残るので〜ス……」


そしてボブは大の字に横たわる刻羽童子をそのままに、千姫の元に戻っていく。


そんなボブの元に千姫が駆け寄って来て、その腕にガシリと抱き付いた。



「心配だったのじゃ、とても心配だったのじゃぞ……」


「花子にはァ心配をかけま〜シた、でも大丈夫で〜ス。全て終わりま〜シた、皆の所へ帰るで〜ス」


ボブと千姫は皆の所へ帰るために歩き出した。最後にボブは刻羽童子を見るが、その場にはもはや彼の姿は無かった。


彼がいるのは空だ、むかし母親から良く聞いた天界の話。幼き頃にその世界に憧れを抱いた刻羽童子。


刻羽童子は最後の力を振り絞って空高く舞い上がっていく。自分の命を燃やしながら天高く舞い上がっていくのだ。


天界へ行く2つの条件。


一つは羽衣を纏っている事、そしてもう一つが自身が死んでいる事。


自分のために盾に入って死んだ赤蛇の思い。そして初めて会った時から好いていた千姫への思い。それらの複雑な思いが、彼を母の故郷である天界へと導いた。


鬼に自殺の概念は無い。


そのため彼は最後の最後に、千姫の想い人のボブとの無謀な勝負に出たのだ。


「……夜鶴姥、約束を守れなくてごめん…… ボブ殿、オイラのワガママに付き合ってくれてありがとう…… 赤蛇、生まれ変わった時、今度こそは夫婦になろう…… 我が君、オイラの前に現れてくれてありがとう……そして母様、今から鬼天丸が貴方に会いに行きます」


大気圏に突入した刻羽童子の肉体が燃え尽きていく。

最後に黄金に輝く天上の楽園が見えた気がしたが、それは彼の気のせいだろうか……


刻羽童子は天界に辿り着けただろうか?


それは誰にも分からない。


ーー


場所は変わり三笠研究所、研究所内に何かの到来を知らせるサイレンが鳴り響く。


騒めき立つ避難住人をよそに黒川晶真が部隊を展開させる。


「むっ、アレはあの時の鬼」


無人の野を行くが如く研究所を目指して真っ直ぐ歩いて来る夜鶴姥童子。晶真の先遣隊を蟻の如く蹴散らし近付いてくる。


「本命前にコイツの性能を試すいい機会だ。さあ腐獅子よ、私にその力を見せてくれ、そしてあの鬼を倒すのだ」


『オウゥウウ〜!!』


限界を超えた黒石の闇による強化と食人による強化、それによってその見た目はもちろんの事、満足に喋る事も出来なく成ってしまった腐獅子。


「…… 獅子ノ、貴様その様な野獣に成り下がってしまったのか? ならば我がその生き地獄からお前を解き放ってやろう」


残された鬼はもうこの2体だけ、どちらも鬼を超越した存在へと進化している。


片方は仲間思いで最強の鬼【闘神】へと進化した夜鶴姥童子(ヌエミドウシ)


そしてもう片方は、心優しい慈愛の鬼だった者が心を操られ、醜く悍ましい食人鬼へと成り下がってしまった腐獅子(フシシ)


「この勝負は鬼同士の貴い戦い、他の物が立ち入る事勿れ!」


この勝負は鬼同士の戦いだから貴様らは手出しをするなと研究所に向けて殺気を放つ夜鶴姥童子。


周りの者がその殺気に怖気付く中、晶真だけはそのポーカーフェイスを崩す事なく彼等を見ている。


そして両者が激突する。


夜鶴姥童子が両の手を大砲の様に組み合わせると、【紫電】をその拳に集約していく。そして【紫電. 猛激砲】を放ったのだ。


【紫電. 猛激砲】は気を溜めて大砲の様に放つ某アニメを見たボブからのアドバイスで出来た技で、元々掌から放出するだけだった【紫電】の威力が劇的に跳ね上がったと夜鶴姥童子も喜んでいた。


この技は神獣フェンリルを跡形も無く消し飛す程に威力のある砲撃だ。直撃を喰らえば強化された腐獅子とてただでは済まない。


その【紫電. 猛激砲】に対して腐獅子がとった対策は衝撃波を伴った腐敗の一撃【蒙烈腐敗掌】だ。


腐獅子は腐敗の呪いを受ける以前は手の掌から衝撃波を放つ事を得意とする鬼だった。


この【蒙烈腐敗掌】は腐敗と衝撃波をミックスさせた彼のオリジナルの技だ。射程は10m程、力を集約して使えば射程は2〜3m程に縮むが、威力は跳ね上がる。


それを今回は一点集中の盾として使ったのだ。


2つの強大な力がぶつかり合い腐獅子の前方が半扇状に消し飛んだ。


すかさず今度は拳で殴り合う2体の鬼。腐獅子の腐敗は拳に【紫電】を纏わせる事によって防いでいる。


進化した事による超回復のため負った傷すら瞬く間に回復していく。


「獅子ノォ! お前では我に勝てぬ事を思い知らせてくれる!」


『ウゴォオオオオオオオオオ〜!!』


どうやら両者の力は五分と五分、最強の鬼同士の熾烈な戦いは続く。


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