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第115話対【闇寤ノ御子】4


彼【闇寤ノ御子】の前世は黒石仙之助と言われているが実は違う。


彼の前世での本当の名は拓郎。黒石仙之助の授皇人形であり、彼の思い人でもあった人物だ。


黒石仙之助の第一印象はまるで女の様な見た目をした優男。いや、その心もまた女のそれだった彼は、幼い頃からその違和感と戦ってきた。


そして初めて本当の自分を受け入れてくれた授皇人形の拓郎に恋をする。


彼の主人の仙之助は今でいうところのトランジェンダーで、今でこそ世間に受け入れられているが当時はそうではなかった。


戦後間もない閉鎖的な頃の話しだ、彼、いや彼女は追われる様に黒石の屋敷を出る。


心で繋がっていた2人は世間の目を気にしながらも慎ましく生きてきた。


拓郎は仙之助から槍術を教わったりもした。


楽しい毎日だった。元々身体の弱い仙之助に黒石の仕事は向いておらず、ある意味では2人には幸運だったのだ。


そんな2人に転機が訪れる。なんと黒石の本家が彼等に屋敷に戻る様に使者を送って来たのだ。


それは仙之助が20歳の時、彼等は悩んだが本家の要請に応じなければ、拓郎と離れ離れにされてしまうため渋々応じる以外に道は無かったのだ。


自分さえ居なければと拓郎が言っても仙之助は笑いながらこう言ってくれる「拓郎、君は私にとって唯一無二の存在だ。たとえ運命が、困難が2人を分つとも、私は決して君の手を離さない!」


2人ならばどんな困難も乗り越えられるそう信じて戻った彼等。


だが黒石に戻った2人を待っていたのは生体実験という名の拷問だったのだ。黒石の本家が必要だったのは仙之助が持つ【黒纏変化】の力のみ。


その器である仙之助にはモルモット程の認識しか持っていなかったのだ。


黒石が研究を進める【黒真戯 】は一度死んだ授皇人形の為か四元素の能力が使えない。だが唯一闇の力だけは例外で、その力の持ち主の仙之助が実験対象に選ばれたのだ。


その力を仙之助から抜き出す為に有りとあらゆる実験が繰り返された。拓郎も黒石の暗部【黒真戯 】を作る為の実験材料として日々過酷な実験を繰り返され2人は心身共に擦り減っていった。


そんな日々でも彼等にとっての唯一の救いは、牢獄が隣同士だった事だけだろう。


「拓郎、拓郎、生きておるか?」


「はい仙之助様! 拓郎は生きております」


お互いの顔を見ることは出来ないが、狭い牢獄の鉄格子の隙間から互いの手を出し合い握り合う、そうして互いの安否を確かめ合う。それだけが2人の生き甲斐となっていた。


だがそれも長くは続かなかった。元々体が弱かった仙之助にこの過酷な日々を耐える事は無理だったのだ。


毎日徐々に弱っていく彼の声、それが何に増して拓郎には耐えられない事だった。


そして彼等が監禁されてから半年と数日後、仙之助はついに力尽きる時が来た……


「……た、拓郎……私は、も、もうダメだ……さ、先に行くわ、私を……許しておくれ……」


「仙之助様! ど、どうかその様な事は仰らないでください……わ、私はいつまでも……貴方様のお側にいます!」


そして拓郎は仙之助が最後の力を振り絞って伸ばした手を掴むと嗚咽交じりに懇願する。


「生きて、生きてください! ど、どうか生きて……」


「……拓郎……あ、ありがとう…… さ、最後に……私……の力を……君に……」


自分から離れれば拓郎は死んでしまう。だが離れていても心で通じ合う主人と授皇人形。仙之助は気付いていた。この地獄の日々で自分が''譲渡''の力を、拓郎が''増幅''の力に目覚めかけている事を。


その''増幅'の力で私の闇の力を高めれば彼をその呪縛から解き放てる!


私の命は縮まるがそれで彼が助かるならば。


半年に渡る地獄の実験で彼が得た''譲渡''という能力。後に黒石陣斗という鑑定眼という能力を持った天才によって実用段階にまで漕ぎ着けられ、【黒真戯 】が闇の力を使えるのはこの為である。


そして仙之助は最後の最後に自らの力を拓郎に託すと、そのまま動かなくなり短い不遇の生涯を閉じたのだ。


「せ、仙之助様! 仙之助様! 仙之助様………」


何度呼んでも返事は返って来ない。あるのは静寂と徐々に冷たく成って行く仙之助の手だけ。



「……グ、グ……グアアアアアアアァァ〜!!」


拓郎の雄叫びと共にその身体から溢れだす闇の激流。仙之助の死によって目覚めた''増幅''で暴走した闇の力は拓郎自身の命と当時の研究所職員の命を奪い凄まじい勢いで膨れあがったのだ。


そして暴走が収まった時そこには半径100mの巨大なクレーターだけが残されたていたのだ。


仙之助の命も拓郎自身の命も邪悪な研究所も全てが闇にへと消えたのだ……


それから何年程経っただろう、彼は暗い闇の中で主人の仙之助を探して彷徨っていた。



「……仙之助様…… 仙之助様……」



自身の自我すらも無くただ本能の求めるままに彷徨い続けていた彼。


きっかけは偶然だった、果てしなく暗い闇の中で彼はある生き物の亡霊に出会う。


それはかつて黒石と戦い散っていった【造珠】という種族のもの。その種族には人の魂から人形を作り出す【傀儡縛】という能力があった。


戦いを嫌う彼等だったが、その能力のために黒石に滅ぼされたのだ。そして彼等の想念が、黒石への怒りや怨みが、彼の自我を揺り起こし目覚めさせたのだ。


そして死から目覚めた事で闇の力を自在に操れる様に成った彼は、自らの名を【闇寤ノ御子】と変えた。


闇に目覚めし神子ヤゴノミコ。御子と付けたのは彼にとっては神にも等しい主人を思ってのものだ。


『我は復讐の御子、必ず黒石に破滅をもたらそうぞ!』


そして彼は強力な霊力を持つ霊能者を狩り、自らの力を高めながら黒石へ復讐する機会を伺っていたのだ。


だが強大な黒石の力には己の闇だけでは足りない。


『配下だ、配下の者が必要だ!』


彼の配下の軍神、泥巨人、落武者は彼オリジナルの能力だ。本来なら新しく能力を開花させる事は不可能な事なのだが、【造珠】の想念を取り入れたことや黒石へのあくなき憎悪がそれを可能にする。


積年の怨みを形にしたその兵は一体を作るのに数十人の魂を有した。 故に強力無比な戦力となる筈だった。


だが彼が年月を掛けて作り出した兵はそのことごとくを優畄達によって倒されてしまったのだ。


まさかこれ程までに優畄が成長していようとは、完全に彼の計算違いだった。


初めてあの駅で会ってから因縁めいたものを感じていた優畄に共闘を持ち掛けたのは、そんな彼を脅威に感じていたからに他ない。


((まさかこれ程に強力に成長しているとは…… ワシの何十年かの苦労が水の泡じゃ。それに……))


彼は優畄がヒナを命懸けで助けた場面を見ていた。


かつて自身にも居た尊き主人。彼の主人もまた、彼が命の危機に晒されたならば命懸けで彼を守っただろう。



だが、だからこそ彼は憎む。己の主人を死へと導いてしまう授皇人形の呪縛を。もし主人の仙之助が彼の事なぞ気にせず逃げていれば死ぬ事は無かったかも知れない。


もし自分さえ居なければ……


何度も何度も考えそして未だにその答えには辿り着いていない。これから先も考え続けるだろう。


『お前達授皇人形は知らぬ。その存在がどれだけ主人の害悪に成って居るのかを』


【闇寤ノ御子】は両手に巨大な槍を出現させると、ヒナと瑠璃目掛けてその槍を放ったのだ。


『貴様に何故2人の授皇人形が居るのか興味があるところだが、そのどちらかに消えてもらおう』


片方を守れば片方が死ぬ、自分の大切な者を助けるか、戦力になる方を助けるか、そんな選択を優畄にさせようというのだ。


その状況で優畄が決めた判断はどちらも助けるだった。


「俺にどちらかを犠牲にするなんて出来ない!」


先程の【闇寤ノ御子】の眷属との戦いと彼女達を守りたいという強い思いが彼に能力を開花させた。優畄は神獣の【グリフォン】に変化出来る様に成ったのだ。


【グリフォン】の能力は''突風前進''に''烈風斬''などの風属性の攻撃が主だ。そしてこの【グリフォン】の風には魔を払う対魔の力がある。


まず優畄は''突風前進''を使い音速を超えたスピードで迫る槍よりも早く飛び2人をその背に乗せると闇の無い空に逃れ、上空から闇の中心に目掛けて''烈風斬''を放つ。


そして優畄の放った破邪の''烈風斬''は【闇寤ノ御子】の闇を突き破り彼の右腕を斬り飛ばしたのだ。 

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