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第107話 最後の登校


今は朝の7時過ぎ、真面目な桜子は毎日生徒会長として夏休み中この時間に家を出て学校の花壇へ水遣りに行っている。


そして行く前に目の前にある今は売り家となっている優畄の家を見て行くのだ。


いつもはため息を吐くだけだったその行為も今日はちがった。なぜなら家の前に居たのは彼女がいつもその幻を追っていた優畄自身だったからだ。


「…… や、やあ桜子久しぶり」


何故だろう桜子と別れたのが凄く遠い昔、何十年と会って居なかった様なそんな感じがする。それだけ2人の住む世界が違ってしまった事の証だろう。


方や桜子の方は、20日振りに会った彼が以前とは違い、大人の雰囲気を持つ青年に変わっている事に困惑すると共に、優畄に会えた喜びに胸が思いでいっぱいになる。


(……ゆ、優ちゃん…… 会いたかった……)


やっと会えたとの思いが彼女の鼓動を早くさせる。だが次の一瞬でその喜びも消えてしまう。


何故ならば彼の隣に立ち、彼と手を繋ぐ綺麗な女の子が視界に入ったからだ。



「…… 優ちゃん、誰その人?(凄く可愛いい人、漫画の世界から出てきたみたい……)


自分でも驚くほどに低い声だった、なんで、どうしてといった疑問が彼女の頭の中を支配する。


「…… 紹介するよこの子は黒石ヒナ、俺のパートナーなんだ」


「こんにちは黒石ヒナです。よろしくね」


突然紹介されたヒナという女の子。


ヒナ自身も戸惑う彼女に自己紹介をする。笑顔になっているか心配だったが、何とか上手くいったようだ。


「えっ、は、はい……( ぱ、パートナーてどうゆう意味の……それに自分の事を俺て…… なんで? どうゆう事なの……)


桜子から不安の雰囲気が伝わってくる程に狼狽している様子。


「さ、桜子、実は今夜の花火大会前に桜子に話したい事があるんだ」


「…… 話し? な、なんの?」


この状況で話しがあるという。一体なんの話しなのかと思うのは当たり前の事だろう。


「桜子と2人だけで話したいんだ、ダメかな?」


彼女は考える仕草をする時いつも頭を斜めに傾げるクセがある。その懐かしいと思えてしまう仕草に少しクスリと笑ってしまう優畄。


「優ちゃん今笑ったね!」


「ごめん、ごめん、桜子のその仕草が懐かしくてさ」


20日前にやっと長年の喧嘩から仲直り出来た彼女とのやりとりは、幼馴染のそれを思わせる自然なもので、2人の間に先程まであったしがらみはそのやり取りだけで消えていた。


そんな2人の姿にヒナがキュッと拳を握りしめる。それでも口出しせずに2人を見つめるヒナ。


ヒナから強い感情が伝わってくる。


(……後でラーメンでヒナさんのご機嫌を取ろう)


そして桜子が学校に行くと言うので優畄達も彼女と一緒に行く事にした。学校には大した思い出は無いけれど、この機会に見ておきたい。


これがきっと最後の登校になるのだから……


道中は沈黙を嫌うかの様に桜子がこの20日の出来事を話してくれた。


ウチの中学の軟式野球部が県大会に出たとか、同級生の恋愛を拗らせていた男女が告白し合いカップルになったとか、そんなたわいの無い話しだ。


「皆んなが受験勉強で忙しい中よくやるよね。優ちゃんはちゃんと受験勉強してる? 同じ高校に行くんだから怠けてちゃあダメだよ」


「……あ、ああ」


何故か言い淀む優畄に首を傾げる桜子、ヒナはその間おとなしく2人の話を聞いていた。そして彼等は優畄が20日前まで通っていた如月中学校に到着したのだ。


「…… 全然変わってないんだな」


「何言ってるの? 20日前まで通っていた学校だよ」


「そうなんだけどさ……」


「変な優ちゃん」


校舎の中に入って行くとひんやりとした風が優畄の頬を撫でる。


「私はお花に水をあげて来るから優ちゃん達は待っていて」


「ああ、ヒナに学校の案内をしているよ」


互いに正面玄関で落ち合う約束をして分かれる、桜子と優畄達。


「ヒナ行こう」


「うん。ここに優畄が通っていたんだね……」


桜子が何気に振り向いて見ると、流石に手は繋いでいないが互いに下の名前で呼び合う優畄とヒナの2人が去って行くのが見えた。その2人の後ろ姿に胸がキュッと締め付けられる。


そして何故か去って行く2人との間に、決定的な何が入り込んだ様な錯覚を桜子は覚えた。決して埋める事の出来ない深い溝。


「……」


しばし2人が去って行った方を見ていた桜子だったが、踵を返すと花壇の水遣りに行った。



桜子と分かれた優畄はヒナに学校内を案内しながらあるいて行く。ヒナと2人学校の廊下を歩いているとこの学校で過ごしたたわいのない三年間の記憶が蘇えってくる。


自分の教室に入り自分の席だった机の元に行くと、窓から校庭が見え陸上部の連中が朝練で走っているのが見えた。


「あれは何をしているの?」


「部活動ていってね、自発的に体を動かしているんだ」


「ふ〜ん、優畄もやっていたの?」


「当時の俺は足が遅くてさ、運動なんて大っ嫌いだったんだ」


それが今では100mを5〜6秒で走れる身体能力がある。変化すれば一瞬で動ける距離だ。有難いと言えばそうだが、嬉しいとは思えない。


しばし2人でグラウンドを見ていたが桜子を待たせても悪いので行く事にした。


「あっ2人ともこっちこっち!」


どれくらい待っていたのだろうか、優畄達を見ると遅いとばかりに手を振り自分の存在をアピールする桜子。


優畄には彼女が無理して明るく振る舞っている様にみえた。


「…… ヒナさん、ウチの学校はどうでした?」


「うん、楽しかったよ」


恐る恐るではあるが桜子がヒナに聞くと、拍子抜けする程あっけらかんとヒナが応える。


「ここに優畄が通っていたんだね」


(……また名前で呼んでる……)


時刻は午前9時、学校に居ると真夏の暑さが心地よく感じるのは気のせいだろうか。


桜子はこの後友達との待ち合わせがあるだしく、一旦ここでお別れの予定だ。


クラスメイトの男女4人が自転車で近づいて来るのがみえる。いわゆるスクールカーストトップのリア充連中だ。彼等は中学3年間桜子を見ていた流れで知っていたが付き合いはない。


「あれ黒石じゃねえ?」


そしてめざとく俺の存在を見つけるリア充のチャラ男役専門の宮島。


「よ、よお……」


人のパーソナルスペースにズケズケと入り込んでくる宮島、正直このタイプは苦手だ。


その横で優畄を睨む様に見るのは生徒会の副会長の河野だ。コイツはどうやら桜子に気があるだしく、桜子が優畄に気が有るのを知ってヤキモチを妬いているようなのだ。


「桜子〜! このこの」


「なになに2人でデート?!」


優畄と桜子が2人で来たと思ったようで桜子を冷やかす佐々木と柚木という桜子の女友達。こうゆうリア充達のノリは昔から嫌いだ。


「ねえねえその子誰? めちゃくちゃ可愛いくね!」


宮島が優畄の後ろにいたヒナに気が付く。


「か、可愛い……」


「えっ、誰? 誰?!」


そして当たり前の様に皆んなにヒナさんの存在がバレて注文されてしまう……


「か、彼女は優ちゃんのお仕事のパートナーでヒナさん。今回一緒にこっちに帰って来たんだって」


「黒石ヒナです。よろしくね」


桜子にはヒナは仕事のパートナーだと言ってある。本当の事を話してもいいが、それは彼女と2人きりになった時だ。


皆んながヒナの飛び抜けた可愛さに見入っている中、とうのヒナさんはどこ吹く風か、まるで動じた様子はない。


「ねえヒナちゃん、この後良かったら俺たちと遊びに行かない?」


「ちょ、ちょっと英樹……」


この予想だにしなかったまさかの展開で答えに詰まっているとヒナがどうする?とばかりに優畄の方を見てくる。


「ヒナ、遊びに行きたい?」


「優畄が一緒なら構わないよ」


という事で優畄とヒナはリア充達と遊びに行く事になってしまったのだ。








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