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第101話 弱者として


一方、精神会館に戻って来た優畄達は加奈から自分達が戻るまでに起きた出来事と、花巻牧場で結合双生児の鬼と戦い倒した旨を話した。


「そうか、優畄君達も大変だったんだな……」


「残る鬼の数は5体。狸ちゃ…… 千姫さんが攫われてしまってどうなるのかしら……」


優畄はここで刹那と喧嘩した時に彼の怒りを鎮めてくれた白く美しい女性の事を思い出す。


(あの時の女性が仙狐族の姫様だったなんて……)


彼女には何故か家族の様な親近感を感じていた優畄。もう一度会いたいと思っていたのだ。


そんな彼の隣でヒナもあの時の事を思い出していた。


(狸ちゃんが、白いお姉さんが攫われちゃったなんて…… なんとか助け出さなくちゃ!)


優畄の影響か何故か狸の花子こと千姫に親近感を感じていた彼女は助けに行く気満々だ。


「…… ところで鬼の居場所は分かっているのか?」


刹那の疑問にあっ!とばかりに黙り込む一同。鬼の後をつけられる訳もなく、その行き先は誰も知る由がない……。


「俺の能力で千姫の匂いを辿れば後を終えるかもしれない」


「よし! 優畄頑張ってクンクンして」


早く千姫を助けに行きたいヒナがガッツポーズを作り応援する。


「……まあ頑張れ」


「が、頑張ってください」


皆に匂い嗅ぎを頑張れと言われ少し複雑な優畄だったが、思考を切り替えてさっそく始める事にする。


「よ、よし、彼女の匂いが染み付いてそうな物といえば…… そうだ、ボブのリュックだ!」



と言う事でボブが居る空手の道場へ向かう優畄達だったが、当のボブから予想外の言葉が発せられたのだ。


「NOで〜ス。貴方達を行かせる訳にはいきませ〜ん」


「なっ! なんでだよボブ?! お前は彼女を助けたくないのか?!」


ボブからのまさかの拒否に声を荒げる夕方畄。


「何故NOなのかァ、それは貴方達が弱いからで〜ス。貴方達ではァ死に行くだけで〜ス」


なんとボブは優畄達が弱いため鬼達の後を追わせないと言うのだ。


「なっ…… 」


「優畄さん、貴方ではァあの悪魔には勝てませ〜ン。貴方達をォ死なせる訳にはァいかないので〜ス」


優畄達を頼むと花子こと千姫と約束したのだ。むざむざ彼等を死なせに行かせるわけにはいかない。


だがそんなボブに納得がいかない優畄達、特に刹那の反発が大きい。


「……納得いかねえな、じゃあそう言うアンタは俺達より強いて事か?」


「ハ〜イ貴方より強いで〜ス、けっちょんけちょんで〜ス」


「……上等だ!」


ボブの挑発に乗った刹那がボブに殴りかかるが、ボブはそのパンチをあっさりと交わすと、椿崩に対して放った同回し蹴りを合わせたのだ。


「がぁっ!」


その蹴りで吹き飛ばされて木に叩き付けられる刹那。


「刹那!」


マリーダが慌てて駆け寄ろうとするがそれを手で制すると、木に手を当て起き上がる。


「……面白え、本気で行くぞ」


ボブが侮れない相手だと、変化しなくては勝てない相手だと見切り、両面白夜を倒した事で変化出来るようになった魔人の【ボーグ】に変化する刹那。


以前に優畄と戦った時は激昂しての変化だったが今回は違う。しっかりと相手の力量を見切っての変化なのだ。刹那もしっかりと成長しているのだ。


(あの動き、刹那が変化しなくては対応出来ない強さ。ボブの奴こんなに強かったんだ……)


そのおちゃらけた態度ゆえにボブの事をただの不良外国人だと思っていた優畄。実際、彼にもボブの動きが捉えきれなかった。


そんなボブに【ボーグ】となった刹那がかかって行く。


魔人【ボーグ】は青い肌をした人型の魔人でその手には''ルドラス''という槍を携えている。''風神化''という能力で1分間だけ風になる事も出来る強力な魔人だ。


''ルドラス''による突きはいわば烈風のメス。岩をもズタズタにする切れ味だが、それも当たらなければ意味がない。


「オ〜ウ、なかなかの強さで〜ス。だがまだまだで〜ス」


刹那の攻撃を全て交わしカウンターの同回し蹴りをお見舞いするボブ。同じ場所に同じ蹴りを入れられボブとの実力の差を実感する。


(……チッ、なんて強さだ…… あの時の優畄も強かったが、コイツはそれ以上だ…… )


このままでは負けると刹那は、ボブの蹴りに合わせて自身の切り札の''風神化''の能力を使う。


「オウ、いい能力で〜ス。しかし私ァしには通用しませ〜ン」


現世から外れたものが見れるボブには刹那の切り札の''風神化''も通用しないのだ。


そしてボブの放ったハイキックで崩れ落ちてしまう刹那。


「貴方がァ追おうとしている悪魔はァその蹴りを受けてもケロッとしていま〜シた。それにィ悪魔の親分は私ァしの数倍の強さで〜ス」


ボブと刹那の戦いを見ていて分かった。今の俺たちでは束になってボブには勝てないだろう。


そしてそのボブが自身より強いと言う鬼の頭領とは戦わずとも結果は分かりきている。


それに鬼は人を食べれば食べる程強くなる。


優畄達が両面白夜に勝てたのも、刀を探すことに重点をおいていたため、食人でのパワーアップを図っている余裕が無かったためだ。


正直最初の相手が両面白夜でついていたかもしれない。もし他の鬼が相手だったら結果は変わっていただろう……。


「じゃあどうすればいいんだ?! このまま鬼達をほっておいたら、犠牲者が増えると共に鬼達が強く成っていってしまう……」


「うう…… 狸ちゃん……」


脇でボブと刹那の戦いを見ていた加奈が黒石の本部からの情報を話す。


「一先ず鬼達が去って行った可楽理峠方面の町や村には災害警報を出して黒石の術者が守る避難所に避難してもらっているだしいわ。それでも時間稼ぎにしかならないと思うけど……」


加奈さんがなんとも鎮痛な面持ちでそう言う。いや加奈だけではない、ここにいる者全員がそんな心情なのだ。


だがボブだけはいつものようにレゲエのリズムに揺れ動いて余裕の表情だ。



「ーーそういえば康之助さんはまだ戻らないんですか?」


この精神会館で一番強い彼の名が出るのは必然だろう。


「…… 連絡はしているんだけどね、連絡も取れないし予想以上に手こずっているようなの……」


密かに康之助を好いている加奈は心配でしょうがないといった様子。



当の康之助は肝心の討伐の方はさっさと片付いたのだが、バイクに携帯や財布、カードなど大切な物を乗せていたため、帰るためにヒッチハイクをしている状況なのだ。


康之助がいる土地は黒石の名が使えない場所だ。そのためお金もコネもない彼にはそれ以外に方法はなかったのだ。


彼のいる町はこの精神会館までおよそ500km。走って帰れば彼の能力ならば2時間で戻って来れる。


だが彼の仕事は終わったのだ。鬼の討伐は優畄達の仕事だ、加奈達精神会館の者に被害が及ばない限り、彼に優畄達を手伝う気はない。


それが黒石に生きる者としての信念なのだ。


そんな康之助の心情など知る由もない優畄達が彼を頼ってしまうのは仕方のない事だろう。


「……鬼の後を追わないのなら俺達は少し休ませてもらうぜ」


マリーダの''治癒の手''で傷は回復したが体力までは戻らない。そしてマリーダに付き添われながら刹那は宿舎へと去っていった。


「精神会館の後片付けは私達がやるから、優畄くん達も休んでおいでよ」


「ありがとうございます加奈さん。ヒナ、俺たちも少し休ませてもらおうか」


「……うん」


ヒナとしては直ぐに狸を攫った鬼達を追いたいのだろう。


「お嬢さん、焦りは禁物で〜ス。時には待つ事もォ必要なので〜ス」


最近なんらかんらですっかり人格者になってしまった感のあるボブ。彼の言う事ももっともなのだが、やはり不思議な男である。


そして一先ずの休息という事で、優畄とヒナも休ませてもらう事にした。





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