第五話 結局は逃げの一択①
予定では6/20更新予定でしたが、
予想外に進まなくなってしまいました。
早く進めなきゃ、と考えてはいたものの。
何故かアリシアの続きの夢ばかり見る始末。
やっとみれた魔王様も直ぐにメモをとらず、
所々忘れてしまうという失態。
申し訳ないでござる。。
それとこの作品タイトル「すみません、ウチの魔王様が!」ですが。
呼び方に困り、それっぽい略称が思い付きました!
その名も『 ウ魔すみ 』です。
え?なんかちがくない?って。いいの!倒置法ってやつです。
よろしくお願いします
「ついたーっ!」
大きな門の前で入国検査の列が出来ており、
最後尾に並ぶ。
無邪気に新しい街に対する期待ではしゃぐマオ。
つい1時間程前大型のオーク複数体に拳骨を喰らわせ
そのまま頭部を素手で潰していた面影はまるでない
こうしてはしゃいでいる姿だけみればただの子供でしかないのだが…
検問はパパガヤから渡された商人通行証を提示する
衛兵がリストを確認し、口頭で積み荷を確認してくる。
「…積み荷は何を積んでいる?」
「商人ギルドと鍛冶屋のギルドへ物資の搬入で……主に鉄と鉛です。」
「そうか、リストとは相違ないか?」
「えぇ、ないと思います。」
「いいだろう。通ってよし。」
「はぁ…。」
積み荷の口頭確認のみですんなりと通れた。
御者台で隣に座り、検問の行列で痺れを切らしたマオはすぴすぴと寝息をたてている。
そんなマオをユサユサと揺り、起こす。
「ほら、起きろ。オロラントに着いたぞ。」
「ふぁ……ふわぁー」
速度は出ていないものの整備のあまい道に馬車は小刻みに揺れる。
「おい、立つな。危ないぞ。」
「そうは言ってもあしたば!ここはアレだな!大きい街なのだな!お…おぉー……」
マオは嬉々とした表情で首を90度まげ、
空に向かってそびえ立つ建物を見上げる。
確かにマオが周りの景色に興奮するのも頷ける。
先日までいたモイモイス王国の王都マサモイツでは大きな建物というのが王城を際立たせる為か全然なかった。
それに対し、オロラントは基本が三階建て。
大通りに建ち並ぶ建物は全てが五階以上のもので高い建物に囲まれた広い街道は圧巻の一言だった。
(こりゃ王都よりも発展していそうだな…)
そんな事を考えつつも、地図に従ってまず鍛冶屋ギルドへ向かう。
鍛冶屋ギルドは石造りの建物で一階部分にはショーウインドを設置し、
高額な盾や、大胆な大剣等目の引くものを並べている。
三階部分の壁からは鉄のパイプが何本も突き出ておりもくもくと黒い煙を吐き出している。
「…ガラスだ。ガラスってこの時代あるもんなのか?」
一階のショーウインドに思わず口にしていると
しわしわの二足歩行の犬が出てきた。
「犬じゃ!」
マオは目を輝かせ犬を指さし跳び跳ねる
「おう、兄ちゃん。そんなとこにいると商売の邪魔だ。馬車どっかに置いてきてくれよ。」
嗄れてカサついた思わぬダンディーな声の犬に
シッシッと手で払う仕草をされるが
「それはすまない。鉄と鉛をマサモイツから持ってきたんだが、何分この街は初めてで。」
「あぁ。鉄…やっと来たのか、そしたらそこの路地から回って来てくれよ。裏に搬入用の馬車停める場所あるからよ。」
犬は二軒隣の路地を指さす。
言われるがまま路地を通り、納品する。
「俺はここでチーフやってるロンってんだ。お前さん…そもそも納品初めてだな?取り敢えずウチの一階は販売も行う店になってんだ。だから一般客の邪魔にならねーように今度からは裏に直接来てくれ。これは絶対だ。」
ロンはそう言うと地面にタンを吐き捨てる。
「わかった、すまない。今後世話になる、明日葉だ。」
(パパガヤの説明不足だな、これは貸し一つだな。)
なんて考えていると
「おい!犬!」
マオが御者台から飛び降りロンの目の前に立って指を指す。
滅茶苦茶失礼だ。
ムスッとした表情をするロン。
明日葉も慌てて御者台から降りる
「犬!可愛いな!撫でてもいいか?」
ロンは明日葉の方をキッと睨み付けてから少し頭を下げる。
子供の頼みだ、仕方ないと思ったのだろう。
「ぅあぁ、可愛いなぁ…モハモハ…」
パァと明るく笑うマオに頭を撫でられるロン。
少しぶっきらぼうな物言いではあるが子供に対して折れてやる所をみると
気のいい性格の持ち主のようだ。
しかし、これから長く付き合いする事も考慮し、少し厳格そうなロンにはある程度控えめに接していった方が無難であろう。
「ウォッフォーン…」
「よーしよしよしよしよし、よーし、よしよしよしよしよし」
マオの撫で方が想像以上に気持ちよかったのかロンは腹を出して転がりながら腹部と顎の下を撫でられていた
「ファッファッ、ヘッヘッへッへ……」
明日葉の視線に気付いたのか、
慌てて服についた砂を払いながら咳払いをする
「これは、ファンサービスだ。勘違いすんなよ坊主。」
キリッとした表情で威厳を保とうとするが、
そういうロンの尻尾は世話しなくパタパタと揺れていた。
主に持ってきた鉄の大部分は鍛冶屋ギルド
に納品し、
残る鉛と少量の鉄を商人ギルドに持って行くのだが、
「残り商人ギルドに、っつーことは今日は泊まりだな?」
「え、いや。んー」
「いやいや、このオロラントは開門時間が短いから夕刻には門を閉めるしこの後商人ギルド行くなら絶対間に合わねーよ。」
「そうなのか…」
(色々と説明が少ないし、足りないしパパガヤへ言う予定の文句が増えていく)
「夜に宿泊とるより日の出てるうちの方が安く宿に泊まれる」
「王都と比べてもオロラントの方が大分治安は悪い、金品には要注意だぞ。」
ロンに言われた事だ、
なので商人ギルドに行く前にロンオススメの安い上に手続きの簡単、且つ悪くないという宿屋に向かう。
宿屋「宴でBar」
バーも併設し、内部壁面は数々の冒険者のメンバー募集の張り紙や、
王都の公園で見たような単発又は短期の仕事の依頼板として利用されているようだ。
中には夜の相手を募集している、
といったようなアダルティーな依頼も貼り出されている。
依頼主名は匿名ではあるが少し奥まって照明の薄い壁側に纏まって沢山ある。
「こんなのもあるのか…」
(現代版出会い系サイトのようだ)
なんて考えながらも1つだけ紙が大分傷んでおり気になるものがあって取ってみた。
『両親に紹介する恋人のフリをしてください。』
依頼主名も空欄で依頼料は6000G。
悪くはない内容じゃないのかと思いながらも、裏に何か特記事項の記載がないか調べる。
「ふーん。」
なんて言いながら戻そうとするが
壁面に留めていたピンは針が付いておらず、貼り直す事が出来ない。
よく見れば壁面に針は刺さったままになっている。
「まじか。」
仕方なしに従業員に聞けば、
「あぁ、依頼を受けられるのですね?」
「あー、いや。間違って取っちゃったんですけど。」
「あぁ、ムリですよ。受けてください。」
「えー…」
飲んだくれや周りの客に聞けば、
恋人のフリをする依頼というのはフリだけで実際には行為を行えない可能性が高いのと、依頼人の種族も性別も書かれていない事とフリをする期間が明記されていない事から地雷として暫く噂にはなったものの、情報が無さすぎて誰も手を出さなかったらしい。
宿を取り、馬車で待機させていたマオを連れて部屋に入る。
マオは王都の宿に比べ部屋は小さく、こじんまりとしてはいるが楽しそうに部屋の中を走り回る。
「そしたら商人ギルドには俺があと運んでおくからマオは休んでてくれ。」
「わしもいくぞ?」
「飯も買ってくるから待っててくれ」
「あい、わかった!」
マオはベッドの上、笑顔で手をあげて了承する。
明日葉はマオを部屋に残し、馬車を見張ってくれていた従業員に会釈し馬車の御者台に戻る。
しかし、淡々と仕事に向かう明日葉の頭の中は渋滞を起こしていた。
(このオロラントは王都よりも土地代や発展度合いから亜人や獣人が暮らす上で職を得やすく、住みやすい。中には魔物に近い種族もいるようで上手く人と連携をとって生活していると聞く。で、この街で依頼を出すって事は当然この街の住人である。
『両親に紹介する恋人のフリをしてほしい』やはり気になるのは相手の容姿、6千も出すって事はそれなりに厳しい容姿の魔物なのか?いや、それより金額に対する期間だ。これが何年、と長丁場になるのであればそれはなかなか厳しいものがある。そもそも性別は女なのか?男の線もあるし、断定は出来ない。依頼主は何者なのか、目的は何なのか…そうだな、やはり目的を知るのが一番だ。目的がわかればそれにかかる時間もわかる。)
御者台の上で頭をかきむしりため息をつく。
「元の世界で会社員やってるときもこういう考えることは苦手だったからな…」
考えることを一旦放棄し、目先の仕事をこなすべく商人ギルドへ向かった。
商人ギルドは大通りにでて進んでいたらすぐにわかった。
とはいうものの、
あからさまに商人用の馬車が多く停められてある駐車場があったからだ。
不審な人物が入らないように門番が左右で4人ずつ
表には合計8人の屈強な門番が立ち並ぶ。
駐車場にも複数の武装した衛兵が歩いている。
どうしたものか、
よくわからず取り敢えず馬車を停め、
商人ギルドの中へ入っていく。
内部は至ってシンプル。
多くの腰掛けが用意され、
窓口は大きく3つある。
その窓口にそれぞれ受付がおり、
番号で人を呼び、受付で話を進める。
ザッと見た感じでは右の受付から
『査定してもらって金額を提示するブース』
『予め納品書を交わし、間違いがなければ相場による金額を提示するブース』
『右のブースで出た金額を支払うブース』
とわかれているようだ。
この場合は
「真ん中のブースだな。」
明日葉がそう呟き足を動かそうとすると袖を引っ張られる。
「おい、今日はどんな用だ!」
声の主は視界の外、下の方から聞こえてきた
「王都から物資の搬入で。」
「この整理券持って座って待て。」
膝丈程の身長の兎の獣人が変に高い声で指図する。
気付かずに歩き続けていれば、顔面に膝蹴りをしてしまうところだ。
仕方なく腰掛けに座り、仕方なく自分の番号が呼ばれるのを待った
『476番の方ー。』
まるでそのまま役所を切り取って持ってきたかのように思えるが何分客の多くに亜人や獣人を含む。
しっかりと順番通りに呼ばれていく。
が、
長い。
なかなか呼ぶに呼ばれない。
自分の持つ整理券をもう一度みる
「613番…あと130ちょいか。」
気が遠くなりそうだ。
『613番の方ー』
やっと呼ばれカウンターに向かう。
「あの、よくやり方がわからないのですが。」
「通行証と物資リストは御座いますか?」
「はい、ここに…」
「王都から、ですね」
ニッコリと微笑まれ視線が初めて合う。
今更ながらに気付く。
この受付嬢、滅茶苦茶美人だ。
朱色の髪を後ろでまとめ、色っぽい流し目に潤んだ唇。ドストライクだ
垂れた前髪を耳にかける、ただそれだけの仕草も艶っぽい。
思わず口から零れる
「綺麗だ…」
「へ?」
「あ、いえ!お姉さん物凄く美人さんだったもんで…つい、口に出てしまったというか……」
何口走ってんだ、俺。
「ありがとう」
「いえ、えへへ。」
「このリスト通りであればこの金額でいかがでしょうか?」
「あ、はい!お願いします!」
提示金額に返事をしてから目を落とす。
『鉄 47000 鉛 126500』妥当なラインだ。
少しくらい間を引かれてもいいのにな、なんて商人としてはあるまじき考えが浮かぶがなんとか呑み込んだ。
「あの…」
「はい、何でしょう!」
「そちらの紙を持って隣のカウンターへどうぞ」
そういう彼女は右手で隣のカウンターを案内する。
「ひとつだけ、お聞きしたいことが…」
「はい、何でしょう?」
「お姉さんのお名前を教えて貰えませんか?」
「……」
面を食らったように少し驚いた顔をするが、
それも美しい。
「私は受付嬢のオリビアと申します。今後ともよろしくお願い致しますね?」
そうかー、
オリビアさんっていうんだ。
ホクホク顔で宿に戻るとマオがベッドの上で倒れている。
「ただいま、寝てる?」
「あ…した……ば…やっと来て、くれたか…」
「急にどうした」
「ハラが…減って動けぬ、のじゃ。」
「あ。」
「…ぬ?」
「マオ、すまん。今から買ってくる。」
完全に忘れていた。
「ゆ、許さぬ……」
力なく震える手を伸ばすマオをそのままにバーに向かった。
途中で切りました、
それもとりあえず遅れすぎてるので前編と後編で分ければ一つのお話で二回の更新にできる。
…なんて考えてなんかないんだからね!