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平和な朝食

 妹の精神的攻撃に耐えてなんとか着替え、一緒に朝食を食べている最中のこと。


「そうだ、妹よ」

「んー?何ー?」


 俺は言っておかねばならないことがあることを思い出し、話を切り出した。


「今日、町に行くけど、どうする?一緒に行くか?」

「そうなの?もちろん行くよー」


 その言葉は概ね予想通りだ。


 俺たちが住んでいる場所は町からそこそこ離れた場所にある森の中だ。この森は、魔物が少なくない数生息しており、あまり町の人間は近づこうとしない。だからこそ、あまり他人が好きではない俺たちが好んで住んでいるのだが、森の中にポツンと建っているのでそれに見合うだけの不便さがある。

 とはいえ、基本的に食料は森の中で木の実やら動物の肉やらが手に入るので大丈夫だし、水もキレイな泉があるからそこで賄える。なので必然的に自分たちじゃどうしようもない調味料や衣服なんかが必要になった時のみ町に行く。後はまあ…


「剣がなぁ…この前クマと戦った時に折れちゃったからなぁ…」

「あー、アレは壮絶な戦いだったねー。お兄ちゃん、いつもの数倍はカッコ良かったよ!」


 この森に住む以上動物や魔物との戦闘は避けられない。そうじゃなければ生き残れないのだ。武器なしでもなんとかならないことはないのだけれど、もしもという時は剣があった方が便利なのは確かなので、やはり新調しなくてはならないだろう。


「もちろん、普段のお兄ちゃんがカッコ良くないって意味じゃないよ?ただいつも以上にカッコ良かったってだけだからね!」


 さすがに剣を自分で作ることは出来ないからな。割と料理以外は何でも出来ると自負してはいるけど、設備も材料もノウハウもない状態でゼロから作るってのは無理だ。出来るならしたいものではあるけど。やっぱり自分専用の武器ってのに憧れはあるからな。


「普段のお兄ちゃんを100お兄ちゃんカッコ良いだとすると、あの時のお兄ちゃんは500お兄ちゃんカッコ良い、ううん、800お兄ちゃんカッコ良いはあったよ!」


 そういえば、世界にいると言われる『英雄』と呼ばれるモノたちは、それぞれ自分専用の武器を持ってるらしいな。なんでも"世界に認められて英雄へと至り、神器を振るって力を為す"とかなんとか。うん、意味が全く分からんがいつか絶対に壊れない剣とか欲しい。気を付けて使わないとすぐ壊れるからなこの安物…


「800お兄ちゃんカッコ良いなんて言ったらアレだよ?あまりのカッコ良さに私が気絶しかねないほどのものだよ?そう、このお兄ちゃんマイシスターであるこの私が!危なかったよあの時は。もしも私が普段からカッコ良いお兄ちゃんに触れて耐性がなかったらもうダメだったよ。あんなの初見で見たらもう死んじゃうよ!危ないよ!お兄ちゃん危険だよ!でもでも、このカッコ良さは私だけじゃなくて、他の人にも知ってもらうべきで!やっぱり前から考えてた計画通り、徐々にお兄ちゃんに慣れていってもらうしか…」


 ―――うん、そろそろ妹を止めた方が良いかな?


 なんだ?100お兄ちゃんカッコ良いって。その基準がまずわからんわ。あとお兄ちゃんマイシスターって何?確かにマイシスターではあるけど、それを言うならマイスターでは?いやお兄ちゃんマイスターでも意味わかんないけど。あとお前は一体いつから布教活動を計画してたんだ?ちょっとお兄ちゃん怖いぞ?


「あ、あーあ、いくら町に行くのが必要なこととは言えあまり気乗りしないなー」

「私はお兄ちゃんといられるだけで楽しいよ?」

「あーうんうんありがと」

「えへへ…どういたしまして!」


 ぐっ…かわいいなおい。さっきまでのあの狂気はどこいった。


 あー、妹の笑顔を見てたら町へ行くことの憂鬱さがどうでも良くなってきた。


 しかしどれくらい振りだろうか、町へ行くのは。今回は割と長かった気がする。確か前回は妹が胸が苦しくなってきたと言って下着を見に行った時が最後だから…一年くらい前、か?

 あの時は大変だった。町へ行ってどれが似合う?なんて見せてくるものだから色々とこう…理性が。最終的にもはや似合う似合わないじゃなくて、どれが興奮する?とか言われたときは俺は神様から何か試練でも与えられてるのかと思ったくらいだ。


「どうしたのお兄ちゃん?急に遠い目をして」

「あーいや、ちょっと前に町に行った時のことを思い出してな」

「前に行った時のこと?」


 やばい、これは失言だったかもしれない。すぐに方向修正しなくては。


「いやまあ大したことじゃ―――」

「あっ…」


 あ、明らかに妹が何か思い出した。ちょっと顔赤くしてこっち見てる。これは…アウトでは?


「もう…お兄ちゃんのエッチ…」


 はいアウト―。


「待て、違う、そうじゃない」


 いや違わないんだけど。違わないんだけど違うんだ。だからそんなもじもじとしないでくれ。嬉しそうに上目遣いで見ないでくれ。今日はちょっと朝から刺激が強過ぎるぞ?


「あの時選んでもらったやつ、今、着けてるよ?…見てみる?」

「だから違う、やめろ、服に手をかけるな!裾をパタパタするな!!」


 不味い。これは非常に不味い展開と言わざるを得ない。何故そんな色気を出すんだ。普段は底抜けに明るいくせにどうしてそんな表情が出来るのかね君は。


「そ、それより!町へ行くんだから準備しておかないとな!」


 さっきからすぐに話を切り替えてばかりな気がする。妹との会話はどこにでも地雷が埋まってるからな。常在戦場の心構えでいないと。


「あれ?そういえば、あそこの町ってなんて名前だったっけ?」


 と、服をパタパタするのをやめた妹が言い出す。


「ハムハム…じゃなくて、ハイムーン、じゃなくて…」

「ハイムスだ」


 なんだハムハムって。


「あ、あー、うんうん、確かそんな名前だったような」

「…覚えてないなら覚えてないって素直に言っていいんだぞ?」

「………はい、覚えてないです」


 この妹は決してバカじゃないんだが、自分の興味がないことに対して関心が薄過ぎる嫌いがある。


「…一応聞いておくが、この国の名前はわかるよな?さすがに」

「も、もちろん!」

「もちろん?」

「もちろん、わかりません…」

「はぁ…やっぱりか…」


 せめて自分が住んでいる国の名前くらいは覚えておいて欲しいと思うのは贅沢なことなのだろうか。贅沢なんだろうなぁ。最悪自分の名前すら覚えてない可能性すらあるし。最近こいつ全部妹だもんな、自称が。


「シンクレア王国だ。覚えておいて損はないと思うぞ?」

「ううん、損あるよ!その分お兄ちゃんのことを覚えておくスペースがなくなっちゃうよ!」


 何を言ってるのだろうかこの妹は。かわいすぎかよ。じゃない。アホの子なのか。


 ―――シンクレア王国。

 人間にとっての共通の敵、『魔王』率いる『魔族』が住む土地『魔大陸』から最も離れた位置にある国だ。最も遠いながらに、かの有名な『勇者』を排出する国として名を馳せている。しかし、逆に言えばそれ以外の特徴が一切ない国でもあり、気候が比較的穏やかでそこそこに住みやすいくらいしか国としての特色がない。故にそこまで人口は多くなく、こうして俺たちがひっそりと暮らすのに向いている国というわけだ。


「じゃあここで問題だ。魔王とは何か?魔族とは何か?そして勇者とは?これに正解したらなでなでしてやろう」

「えっ!?ホントに!?」

「ああ、正解したらな」

「よーし、頑張るぞー…うーんとうーんと…」


 さて、と。妹が悩んでいる間に残りのご飯を食べてしまおう。まあ、恐らくいつまで経っても答えは出てこないだろうが。

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