その後の顛末
『大統領・副大統領プログラム。ストップしました』
機械的な音声が、無機的な四角い部屋に響く。天井のパネルランプだけが照明という、広いけれど薄暗い部屋だ。
「今回のコンビも、途中で終わりか……」
「でも、結構いい線、行きましたね。惜しいなあ、残り五日だったのに」
白衣を着た研究者風の男二人が、そんな言葉を交わしている。
彼らの前には、二つの長方形の箱。それぞれに一人ずつ、横になった姿勢で人間が収納されている。彼らの星で開発された、バーチャル・シミュレーション・マシンだった。
白衣の男たちの仕事は、このマシンを使って、バーチャル空間で六十日間の『大統領・副大統領プログラム』に適応する人間を探し出すことなのだが……。
ここまで試した候補たちは、どれも期限を全うすることなく、途中でプログラム終了となっていた。現実世界では半日にも満たない『バーチャル空間の六十日間』を、誰も最後まで体験できずに終わってしまうのだ。
「もう、いっそのこと、大統領制度なんて諦めて……」
「そういうわけにはいかないでしょう、主任」
投げやりな上司の言葉に、若い部下は苦笑する。
「嫌でも何でも、もう『革命』は実行されてしまったのです。王族が全て処刑されたのは、一週間も前の話じゃないですか。今さら王制には戻せません」
「それくらい、私にもわかっている。だから何としても大統領を選び出せ、というのが、革命臨時政府からのお達しだ。でもなあ……」
研究主任は、露骨に顔をしかめてから、言葉を続ける。
「だいたい、誰が『革命』なんて昔の制度、引っ張り出してきたのかね? 王族を処刑だなんて、あんな野蛮なシステムとは聞いていなかったぞ」
「さあ? おおかた、どこぞの歴史学者でしょう」
若い研究者は、肩をすくめる。
「ならば、それこそ歴史学者に聞いてみたい。昔は、こんなシミュレーション・マシンなんてなかったはずなのに、どうやって上手く新制度に移行していたのか……」
「歴史学者と語り合う暇はないですよ、主任。では、次の候補者の二名、呼んできて構いませんね?」
「ああ、頼む。あいつら、今頃『次は自分の番だ! ようやく自分の番が来る!』とか思いながら、首を長くして待っているのだろう」
「そうでしょうね。この機械で、どれだけのストレスをかけられるのか、それも知らずに……」
笑いながら、若い研究者は、革命の主要メンバーが集まる部屋へと向かった。
部屋に残されたのは、主任と、まだ機械の中で眠っている二人だけ。その二人――前回の候補者――は、次の候補者が来た時点で、目覚めさせる手筈になっている。
誰も聞いていないのを承知の上で、主任は呟くのだった。
「『どれだけのストレス』というが……。大統領・副大統領の責務としては、適切な負荷を与えてるつもりだがなあ?」
(「大統領のファイナルブレーキ」完)




