副大統領の独白(後編)
「ほう。君は、ここで死にたいのかね?」
大統領は、手にしたレーザー銃をグイッと、さらに強く私に押し付ける。
「もちろん、死にたくはありませんが……」
「ならば、その鍵をひねりたまえ」
もしも、これが、かつての『地球』の『核兵器』であるならば。
あれの『一瞬で国を滅ぼすことの出来るような』という謳い文句にはオーバーな部分もあり、実際には『核シェルター』というものに逃げ込めば、国民は生き延びることが出来たという。残った人々で、国を再建することも可能だったという。
だから、漫画や映画といった娯楽作品の中でも、『核兵器』戦争後の未来社会が頻繁にシミュレートされたらしい。
しかし惑星破壊ミサイルは、昔々の『核兵器』とは違う。住むべき星を破壊されたら、もう人々は生きていけないのだから。
光子力で飛ぶミサイルは、光速に匹敵するほどのスピードで相手の星へと届く。惑星破壊ミサイルの恐ろしさは「いったん狙われたら防げない」という点にあった。
しかし「狙われたら防げない」というのは「狙われたら何も出来ない」とは、微妙に違う。ガンマ星のミサイル発射を認識すると同時に、アルファ星のカウンターシステムが発動するのだ。こちらのミサイルが相手に命中して星を破壊するよりも一瞬だけ早く、カウンターシステムにより、アルファ星からもガンマ星を破壊するミサイルが放たれるのだ。
そうしたカウンターシステムは、今や、どこの星でも――惑星破壊ミサイルを保有する文明レベルの星ならばどこでも――常備されている。だから、惑星破壊ミサイルを発射することは自星の滅亡を意味するし、禁断の兵器『ファイナルウエポン』と呼ばれているのだった。
「できません」
私は、否定の言葉を繰り返した。
「どうせ、このミサイルをうてば、私は死ぬことになります。しかも、この星の民を巻き込む形で。それよりは……。あなたの手にかかって死ぬほうが、まだマシです」
「そうか……」
大統領の口から、ため息が漏れる。
彼は、もう一つのスイッチに置かれていた右手を、そっと放した。
まさか、私の説得が通じたのか? いや『説得』というほどの言葉は、私も口にしていないはずだが……。
そう私が思っている間に、彼の右手が、私の右手を掴む。
ゴツゴツとした手の感触は、大統領就任の際に握手したのと同じだった。
彼に握られるがまま、私の右手は、目の前のスイッチ台へ。鍵の上へと誘導される。
「大統領!」
思わず、叫んでしまう。彼の狂気は終わっていない、と悟って。
「さあ、しかるべき位置へ運んでやったぞ。あとはタイミングを合わせて、鍵を回すだけだ」
大統領は、右手を自分の方の鍵へと戻した。
この発射スイッチが『ファイナルブレーキ』と呼ばれるように、私自身もまた、大統領にとっての『ファイナルブレーキ』なのだろう。大統領が過ちを犯す前にそれを止めるのが、副大統領の責務のはずだ。
しかし……。
星の総責任者という重圧に、疲れてしまった大統領。
では、私は?
副大統領という職務だって、決してラクなものではなかった。
ならば……。
「いいな? 『ゼロ』で、同時に鍵を回すのだぞ。スリー、トゥー……」
大統領の声は、いつしか遠くに聞こえていた。
彼の声よりも、こめかみの銃口を強く意識していた。
頭で考えるならば……。
私一人が死ぬことで星を守れるというなら、私は死ぬべきだろう。
だが、どうせ私が死んでも、誰かが代わりの副大統領となり、同じことの繰り返しだ。いずれは誰かが大統領の圧力に負けて、言いなりになるのだろう。結局、この星は滅ぶのだろう。
「ワン……」
それに、頭で考える云々ではない。何よりも、こめかみに押し当てられた銃口は、私に直接的な死の恐怖を思い知らせていた。
うん、誰だって死ぬのは怖い。どうせ今助かっても後で死ぬ、と理解していても。
だから。
「……ゼロ!」
その瞬間。
自分が大統領の『ファイナルブレーキ』であることを自覚しながらも。
「私の大統領のファイナルブレーキが! 私の大統領に屈服してしまった!」
そんな叫び声と共に、私は運命の鍵を回したのだった。
そして、目の前が暗転する……。




