洗礼の朝
「チチチ、、、」
鳥のさえずりが聞こえる。
ほのかに温かい日差しも肌に感じる。
またいつもの夢を見ていたようだ、、。
目覚めると「いつもの」我が家だ。
「おーい、、起きたかあ?」
少し間の抜けたような親父の声だ。
トーンが低いので聞き取りやすい。
そして、階下から聞こえるのはバタバタと騒がしい朝の日常。
「おはよー、、」
僕〔ケン〕はダルそうに返事をする。
眠い、、朝は苦手だ。
「おはよう。」
「おはよう、時間大丈夫なの?」
親父、母ちゃんと朝の挨拶を交わす。
そして、もう1人、、いない!
また寝坊か!!
「母ちゃん、あいつ起こしてくる?」
「じゃ頼める?いくつになってもあの子はもぅ、、」
降りてきた階段をまた上がり、ドアを叩く。
「いつまで寝てんだ!早く起きろ!!」
「うぅーん、、、さむいからあと少し、、」
イラっ!!
布団を全力で剥ぐ!!
それはさながらテーブルクロス引き並みの早さで。
「良いから早く支度して降りてこい、遅刻すんぞ!」そう妹〔マリア〕に伝える。
妹は朝が弱く、毎朝こうだ。
いい加減自分で起きてほしい。
妹が起床したのを見届け、母ちゃんが用意した朝食をかっこむ。
今日はトースト、目玉焼き、ソーセージに野菜炒めだ。味付けはシンプルに塩コショウだ。
一気にかっこみ、玄関に向かう。
用意した通学荷物を手に取り
「じゃ行ってきます」
「いってらっしゃい」
家族にあいさつをし、家を出る。
いつも通りの日常だ、こんな穏やかな日々が続くのを願うばかりだ。
僕〔ケン・ウッド〕は12歳になった。
幼少期から親の仕事に連れだってあちこち旅をしてきて、2年前にこの王都に引っ越してきた。
友人もまあまあ出来たし、家族仲も旅が長かったせいか戦友?とも言える感じで良いと思う。
強いて不満があるのは最近、転生とか死神とかの夢をよく見るがなんのことかさっぱりわからない。
僕らの家、ウッド家は平民の家だ。よくある木造2階建ての家に家族4人暮らし。
昔気質で浅黒い肌にガタイの良い親父〔リュウ〕は商家に務め、色白で優しくも厳しい母ちゃん〔ヨーコ〕はベビーシッターをしている。そして2歳下の妹〔マリア〕は甘え盛りで親父にべったりだ。ちなみに童顔で可愛い系の顔だ。
そんな家族に囲まれて平凡に暮らし12歳になり、ついに今日《洗礼の日》を迎えた。
洗礼の日とは、一人前になった証としてスキルを授かる日だ。授かるスキルによって、今後の人生が変わるといっても過言ではないので、どんなスキルを授かるのかとても緊張している。
僕は昔からの夢である《大商人》になりたい。
人とのつながり、見たこともないもの、それらを統べる大商人に。
そのためにも良いスキルを授かりたい、、!
ちなみにスキルを授かるのは近所にある神社だ。
近所といっても町外れにあるので、市民街からは少し離れている。その社で一同に集まり、神からの啓示としてスキルを授かるというわけだ。
「ふぅ、間に合った、やっと着いた」
そして僕が神社に着くとすでに何人もの子供たちが緊張の面持ちで集まっていた。見知った顔もちらほらいる。
「やっときたかよ」
「遅いよ」
「ごめんごめん」
友人たちと挨拶を交わしていると、
「こら、早く中に入りなさい」
神官に大声で中に入るよう促された。
「うわあ、、、綺麗だなあ」
素直にそう思った。
一生に一度しか入れない神聖な社。
華美でなく、しかし伝統を感じさせる上品で白亜の神殿は息を飲むような美しさだ。
神殿の中はホールのようになっており、奥には祭壇がある。
皆が膝をつき祈りを捧げる姿勢を取る。
一同の準備が整ったのを確認すると、先程の神官が最奥の上座から声高らかに宣誓する。
「それではこれより神からの啓示を授かる、洗礼の儀式を執り行う!」