プロローグ
以前投稿していたものを加筆修正して再投稿しました。
ストーリーは変わっていません。
騎士が一人、焼け落ちた村を顔をしかめて歩いていた。
白銀の鎧に煤で汚れた白の外套、胸部には聖堂騎士団の紋章が刻まれ、十字架のようなクレイモアを背負っている。彼はここイェスウェン王国全てを含んだ、イェスウェン教区の聖堂や聖職者、信徒を守る聖堂騎士の長だった。ロナウドという名前だ。
酷いものだ。
ロナウドは村のどこを見てもそう思うしかなかった。
速馬で駆けて来たが、ロナウドらが辿り着く前に、この村は焼き尽くされてしまった。ほんの数日前まで、ごく当たり前の日常を営んでいたこの村には、世界中を大飢饉に陥らせた元凶がいるとされ、怒り狂った、あるいは恐慌に陥った近隣の村人と、それを煽ったたった三人の司祭によってこんなにも無残な姿に変わり果てた。
その元凶は魔女。魔法で災厄を招く者とされていた。彼女は世界と、人々と神を呪い、世界と人々を飢えさせ、人々と神の愛の絆を絶とうとしている。そう宣伝し、司祭たちは人々を煽り、魔女を村ごと焼かせたのだ。
全くもって、愚かなことだ。
ロナウドは大きく息をついた。
魔女はそんなものではない。魔女と呼びつけるのも失礼な話だ。しかし、何も知らぬ人にとってみれば、その目にどう映るかで全く違ったものになってしまうのだろう。今回のことはその良い例となるだろう。いや、悪い例か。
人々はもう正しい判断を下せないほど貧しさで追い詰められていた。だから顔なじみの女性を外から来た司祭様が魔女と言うのだから、と村に火を放ってしまった。彼女が世界を呪うような大層な人でないと心のどこかで分かっていたかもしれない。でもこうすることで何か変わるかもしれないとも思ったのだろう。
世界は今、困難と困窮の時代にあった。もう何十年と飢饉が続き、貴族の身であるロナウドですら、満腹になる日なんて精々祝い事ぐらいしかない。貧しい農民にとって、食べるものがあるだけで有り難い状況だった。
遠くで引き連れてきた部下が叫んでいる。大方、悲惨な亡骸でも見つけたのだろう。落胆と諦め、絶望でその声をまともに取り合うつもりはなかった。そのつもりでも、声は耳に滑り込む。
「この子、まだ生きているぞ!」
ロナウドはまるで蹴っ飛ばされたかのように顔を振り上げた。