第一章 火縄銃の撃ち方、教えます -3-
「そうけ。焦り過ぎで目が怖いです」
肩を落とす女性の背中に声がかかる。
「ふしゅ~」
女性が振り向いた先には、兜の脇立の大角が渡り廊下の天井に届こうかというほど大柄な鎧武者が立っていた。
恐ろしげな面頬の口元からは、怪しい息遣いも漏れ聞こえ、廊下を曲がって出くわしたら悲鳴をあげて逃げ出すこと必至のビジュアルだった。
「だがな、火縄銃に撃たれた経験がある子なんて、賭けてもいいがこの先二度と現れない大物だぞ? 部活うんぬんじゃない、日本の砲術界全体にとっても貴重な人材だ」
「その件については確かに私も興味ありますが。ふしゅ~」
入会案内チラシの束を抱いた大柄な鎧武者が、「そうけ」と呼ぶ女性に同意する。
「今年も去年の私たちと同じく、いきなり二人の新人が入りましたからね。幸先が良すぎて今年に期待する気持ちはわかります。でもそうそう美味しい話は転がってませんから。ふしゅらしゅら」
「しかし、うっちゃんも見ただろう? あの子……この私を抜いたぞ」
「あんなに鋭い飛鳥は止められません。ふしゅ~」
「偶然かな?」
「そうけに迫られ、左右どっちに逃げようか迷って靴裏のゴムが床に引っ掛かったところからのダッシュになりましたから、必死さが生み出したまぐれでしょう。それでも体軸で回っていましたし、あれで重心が丹田まで落ちれば理想的ですね。その後のバタバタ走りを見ても、しっかり骨で立つ身体の使い方で、走るスピードを重視するスポーツには不向きですが、武術の体捌きにはうってつけなタイプかと思います。ふしゅ~」
女性と鎧武者は、獲物が逃げ去ったほうを名残惜しそうに見つめ、せめて名前だけでも知りたいと思い、明日から新入部員を使って探りを入れようかと考えていた。




