黒スト
午前二時過ぎ。女に振られたアイツと酒を飲みまくって、勢いでクルマを運転したのさ。
耳をつんざく警笛と眩しいヘッドライト。いつの間にか、対向車線に出ていたらしい。気が付いたときには、俺たちは救急車の中だった。幸い俺は軽症で済んだが、アイツ――三谷は瀕死の憂き目に遭っていた。俺は救急隊員に言われるまでもなく、必死になって、奴に声を掛け続けた。
「俺は知っている。あれは本当は栗原がやったってことを。いつだってお前はダチのために身体を張って……」
三谷は微笑んだ。
「いや、俺がやったのさ。栗原は悪くない……」
救急隊員たちは、俺たちの会話など一顧だにせず三谷の応急処置に追われていた。俺は負けじと会話を紡ぐ。
「三谷、覚えているか。俺とお前で朋美を奪い合った日のことを。俺が勝ったが、朋美は泣いていた。お前はわざと負けやがる、そういう奴さ……」
「そんな昔のことは忘れたぜ……くそ、目の前が霞んできやがった……どうやら、俺もこれまでのようだな……」
「弱音を吐くな、三谷! 甲子園で見せた、あの根性はどうした!」
強心剤を早く、救急隊員がそう言って、三谷の周辺が慌ただしくなった。心電図の発する機械音の間隔が長くなっていく。
「沢田、お前に最後の頼みがある……聞いてくれるか」
「ああ、もちろんだ。だが、最後だなんて言うな!」
三谷は息も絶え絶えに笑って見せた。
「俺の部屋にある物がある。そいつを始末してほしい。それは……」
心音微弱! 救急隊員が叫ぶ。カウント、3、2、1! バンッ!
三谷の胸に電気ショックが流れ、胸が跳ね上がった。
「三谷、しっかりしろ!」
「始末してほしいのは……本だ! タイトルは『女、女子校生、黒ストスペシャル!』……ぐはぁ!」
「三谷-っ!」
俺の絶叫が車内にこだました。
「午前三時十四分、心肺停止です。繰り返します。午前三時十四分……」
アイツの顔は何かを成し遂げた男のように満足げだった。
それからのことはあまり覚えていない。俺は管理人室から親友の部屋の鍵を借りて、処分してほしいと頼まれた本をベッドの下から見つけた。
だが、俺はそれを捨て去ることができなかった。どうしてかって? ふふっ、三谷、お前なら分かるだろ。俺もお前と同じ、足フェチだったんだぜ!