1st Day Another
私は今、学校の屋上にいる。
夜だから生徒は誰もいない。
びゅうびゅうと強く風が吹いている。
そして、一寸先にはもう足を着く地面がない。
高さは… 25mはあるだろうか。
(意外と高いなあ…)
私はさっき人を殺めてきた。
ボールペンで首をひと突き。
不謹慎にも、笑ってしまいそうになるくらいあっさり死んでしまった。
呆気なさ過ぎてまだ実感が湧かない。
きっと、罪の意識は遅れてやってくるのだろう。
だから、その前に…
(どうしてこうなってしまったんだろう…?)
死んだ両親に代わって、13歳の時に私を引き取ったおじ。
初めは良い人だと思っていた。
だが、次第に化けの皮は剥がれ、今では暴力を振るわない日はなくなっていた。
そして今日。
包丁を持って襲われた。
仕事のストレスだろうか。
それとも女?
推しの球団が負けた?
理由は分からない。
だが、イライラを私にぶつけようとしていたことだけは分かる。
そして、いつもとは違う怒号と血走った目。
明確な殺意が私を襲った。
だから殺した。
たまたま手元にあったボールペンで。
殺すしかなかった。
殺すしかなかった?
生きるため?
(もし最初から心を見透せていれば… こんな結末にはならなかったのかな…)
気がつけば屋上から遥か遠くの地面を見つめ、半時。
徐々に罪の意識が芽を出し始める。
殺人の事実が、自殺の衝動を煽る。
「汚れてしまった事実を背負ってでも生きるべきだ!」
そんな綺麗事を言ってくれる人さえもいない。
「もういいや」
少女は吐き捨てるように呟く。
次の瞬間にはもう屋上から姿を消していた。
(ああ…これで…)
20m。
15m。
(これで…良かったのかな?)
5m。
(いや)
3m。
(本当は)
1m。
(まちがっ…)
ぐしゃっ
▼
ここは何処だろうか。
見覚えの無い白い部屋。
自分は誰?
右手に握っていた紙に目を通す。
姓: 竜胆
名: 幸恵
年齢: 16
能力: 透視
どうやら"私"は幸恵というらしい。
(幸恵…? 何も思い出せない…)
ギギギィ
扉が開く。
そして、彼女も何も知らないまま闘いに身を投じたのだった。
― 1st day Another END ―
ご精読ありがとうございます。