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第6話 色々バレた。どうする? 逃げろー!

 突然現れた謎の歩兵機、通称眼帯野郎にグダグダの勝利を収めたダイは日向(ひなた)ハヤセの救出に一応成功した。


 が、その後が色々面倒くさかった。


 警察に通報するもダイがするのは良くない、歩兵機とかがバレるかもだし。そこで近くの公衆電話へハヤセ自身が通報した、自力で脱出したと言う事にして。


 そしてダイは歩兵機を隠しにその場を後にした。ハヤセを一人残すのは良くないと思いつつも歩兵機を見られる訳にはいかなかったからな。


 実際ハヤセは元気そうだし、身体中の傷もそれ程酷くはなさそうだ。左手の爪を剥がされたのはえぐいが、それもハヤセが気を失っている間の事のようで目を覚ました時にはもう剥がされてたそうだ。


 と言うかハヤセはあの眼帯野郎の中の人を見てないそうだ。その辺奴は徹底してる、まさにプロって感じだな。


 その相手にグダグダながらも勝てたんだから誇っていいと思うんだが、しかしダイは歩兵機をあの洞窟に隠す間もずっとしょんぼりしていた。


 まぁ、そりゃそうかもな。


 歩兵機の実戦、それはダイの想像を絶する凄まじさだった。死と隣り合わせと言うか、死の恐怖と言うものを本当の意味で実感させられた。今も生きてる心地がしないくらいだし。


 正直なところダイは歩兵機に乗るのが怖くなっていた、もう乗りたくないとさえ考え出している。


 あれ程自分を特別にしてくれると信じていた歩兵機だったが、流石にそれが分不相応だった事に気付かされた訳だ。


 そして、多分それが正解だ。俺もダイに歩兵機は相応しくないと思う、それが素直な感想だ。


「……日向さんに譲ってしまえばいいかな?」


 それは不正解だ。丸投げじゃねぇーか。


 いや確かにハヤセには相応しいと思うし、あいつに譲ると言えば喜んで受け取るだろうけれど。


 だが丸投げはダメだ、ちゃんとした所で処理してもらえ。


 ……ちゃんとした所ってこの場合どこだ? 警察? 防衛省とか?


 まぁ今すぐと言う訳ではなく、少し間を置いてからにしようと言う事でダイは歩兵機を洞窟に隠した後、そのまま家に帰った。


 その歩兵機、ダオスロードをどうにかする事を考えながら、しかし答えは見つからないまま。


『だったら私に譲ってよ!』


 その夜、事後報告としてハヤセから電話を貰ったダイはその心の内を打ち明けると、第一声に飛んで来たのはそれだった。


 喜んで受け取るどころか、譲れと言ってきやがったぞ。しかも大声で。


 あまり大声は出さないで欲しい、スマホが無いダイは家電だからテレビを見てる母親に聞こえるし。てか睨んでるし。


「うん……僕もそうしようと思ってたから、日向さんが受け取ってくれるなら、それに越したことはないんだけど……」


 あるよー。越したことあるよー。


『うん、なら商談成立だね。歩兵機……ダオスロードだったね。それは私が責任持って受け取っておくから安心して』


 ……ダメだこりゃ。


『ああでも私、暫く学校休むからその話はまた復学してからって事でお願いね』


 確かに、誘拐されて怪我もしてるから警察とか病院とか色々あるだろうし、心のケアも必要となるだろう。


 歩兵機を渡すとしてもそれからだな。……いや、ダメだし。渡しちゃダメだし。


「うん、それじゃお大事に……」


『あの、最上君はもう歩兵機に乗らないの?』


「……え?」


 おっ、ハヤセが意外な事を聞いてきたぞ。


『私思うの、歩兵機ってその内公式に発表されて全世界で使われるようになるって。多分日本にも自衛隊とかに配備されるよ、きっと』


「う、うん……そうだね」


『それでね、最上君もその時が来たら……私と一緒に歩兵機のパイロットを目指してみない?』


 おおっ、ちょっと色っぽい話になってきたか?


『本当はね、あの片目の歩兵機が最上君を呼び出したって聞いた時、来てくれないと思ったの。最上君弱いし、臆病だし。でも来てくれた時はね、凄く嬉しかったよ。あまりカッコよくはなかったけど』


「……ごめん、見っともないとこ見せて」


『あはは……でもね、最上君が必死で戦ってる姿見て私思ったの、君と一緒に戦いたいなって。やっぱりロボットのパイロットをやるならバディがいないと始まらないよ。だから、最上君には歩兵機に乗り続けてほしいな。どうかな?』


「えっと、それは……」


 勿論、乗ります! と言うのが正解だ。異論は認めん。


 だがしかし、ダイの答えはもう決まっていた。あれだけ執着した歩兵機を拒絶しているダイにYesなんて返事は出来ない。


 例え生涯もう無いかもしれない色っぽい誘いだったとしても、ダイは歩兵機に乗る勇気が無くなっていたんだ。


 が、それをはっきり言う勇気も無くダイは口ごもるしか無かった。


『あ、すぐに答え無くてもいいから……復学した時にまた返事してくれればいいからね。それじゃあ、また学校で』


「う、うん……また学校で」


 そうやってお茶を濁して電話を切る、答えは決まっているのに答えられない自分がもどかしいダイであった。


 だが、その返事の答えが言える日は来ない。


 それにダイがハヤセにダオスロードを譲り渡す事も、そもそも学校で会う事も、もう無かったんだからな。






 翌朝、ダイは眠気を堪えて学校に向かっていた。こいつはどうも朝に弱いらしい。


 そうでなかったとしても足取りが重いのは言うまでも無い、と言うかここのところずっとそうだし。


 それでも今日は朝から幸先が悪かった。何せ家を出てから割と直ぐ、クラスメートと顔を合わしてしまったんだからな。


「最上君、おはよう」


 無論ハヤセじゃないが、その相手はダイが最も会いたくない相手だった。


 出くわした相手は宗谷美咲(むねたにみさき)、ダイのクラスメートであり自宅が近い事もあって昔は交流もあった間柄だ。まぁ所謂(いわゆる)幼馴染みと言う関係だな。


 そんな羨ましいのがいたのか、とか思うなよ。決して羨ましい間柄じゃ無い。


 学生カースト最底辺のダイと違い、彼女はその最高位にいる言わば勝ち組、その学年の間じゃあアイドル的存在になっているような相手だ。


 容姿良し成績良し運動神経良しと三拍子揃った出来る女で教員からも一目置かれる程の相手よ。当然彼氏だっているし完璧なJKを確立している、こう言うの確かリア充って言うんだっけ?


 そんな相手とダイが朝の登校を共にするとかどんな罰ゲームだってーの。そう言う意味でダイとしては最も会いたく無い相手だった。


 因みに昨日警察の事情聴取でダイがハヤセと一緒に下校したのをチクったのも彼女だ。


 そんな美咲からの挨拶にダイは会釈だけして早足でその場から逃げようとした。


「最上君、昨日失踪した日向が見つかったんだね」


「えっ!? どうしてそれを……っ」


 ああ、言っちゃった。口滑らしちゃった。


 つくづく思う、こいつに隠し事は出来ないと。


 この分じゃダオスロードが見つかるのも時間の問題だな、ハヤセに譲渡する前に見つかって終わりになるな。


「高嶺さんから聞いたよ、最上君のところに日向から直接電話がかかって来たって」


 高嶺、フルネームは最上高嶺(もがみたかね)、ダイの姉だ。


 ダイと幼馴染みである美咲はダイの姉とも幼馴染みと言う事になる、そして美咲と高嶺は今も交流が続いているのだ。中学で交流を絶ったダイと違ってな。


 そう言えばハヤセから電話を貰った時、最初に受話器を取ったのは高嶺でした。


「最上君、日向が失踪する前の日も一緒に帰ってたよね。どうして?」


 何故か責められるような口振り、なんかちょっと怒ってないか?


 そもそもそれって―――


「む、宗谷さんには、関係ない……じゃん」


 だよなぁ。だってこの女、彼氏いるし。ダイがハヤセと何かあったとしても関係ないよな。


「関係あるよ、日向は私の友達だし」


「うそぉ!?」

 うそぉ!?


 迂闊……そう言えば彼女、ハヤセの事をさっきからフレンドリーに日向って呼んでたわ。


 まさか学生カースト最底辺のハヤセと最高位の美咲が実は友人関係にあったとは。まぁハヤセも美咲も結構可愛いからなぁ。


 ただガリガリのハヤセと違って美咲は肉付きの良いボディラインをしてるから、そこで差別化されてそうなもんだけども。


「もう一度きくよ。最上君、どうして? 最上君と日向はどういう関係なの?」


 ああ、これはヤバい。


 ダイとハヤセの関係云々よりも歩兵機が明るみに出そうでヤバい。


 これは本当に譲渡する前にバレるかもな。


「日向さんとは……同じ趣味があっただけで……」


「ああ、玩具ロボの趣味ね。日向ったら、もう止めなさいって言ってるのに」


 なんか友達とか言ってる割に上下関係が見え隠れしてるのは気のせいかな?


「最上君もあまり彼女に関わらない方がいいわよ、あの子の趣味は病気みたいなものだから」


 酷い言い草だが、それはダイも俺もそう思う。


「あと、それだけじゃないよね? それだけで日向が最上君に直接電話する筈無いよね。私には電話してこなかったのに」


「え、えっと……それは……」


 てかこれ、今更だけど尋問だよな。


 流石学生カーストの最高位、最底辺との上下関係を明確にしようとしてる辺り出来る女って感じだわ。褒め言葉じゃ無いぞ。


「…………はぁ、もういいわ。予鈴に間に合わなくなるし、続きはまた放課後に聞くから、逃げないでよ」


 そう言って美咲は先に行ってしまった。


 一緒に歩きたくなかったダイは暫く間を置いてから歩き出す。更に重い足取りで。


 実は言うと昔はダイが大好きだった筈の相手なんだがそれが今となっては一番関わりたくない相手、お互い成長してきた中で成功した者と失敗した者とで別れては反りが合わないもの当然の事だ。


 分かったか? 幼馴染みなんて言う程良いものじゃねぇーんだよ。






 そもそもダイは美咲を追いかけるような形で今の進学校に入学したと言う可愛気のある経緯があったんだが、それも入学した途端に心は折れてしまった。


 美咲に彼氏が出来たから、とはちょっと違う。ダイ自身が学校のレベルについて行けない落ちこぼれとなったからだ。


 まぁ言ってしまえば、身の丈に合わ無い事をしたから酷いしっぺ返しを食った訳だ。標的の候補に挙がったのもこの頃だったからな。


 その在り方は今も変わらない、学校に行ってる意味が分からないまま学校へ通い、標的としての扱いを受けて家に帰る。その繰り返しの日々だ。歩兵機を拒絶してその繰り返しの日々に逆戻りする、それがダイの選んだ選択さ。


 そして今日も、ダイは唯々諾々と授業を受けていって気が付いたら昼休み、その間美咲は一切目を合わせようとしなかった。……あ、これいつもの事だったわ。


 午前の授業終了のチャイムが鳴ってから、ダイは色々と身を守る為に教員の目につき易い場所で食事をしようと席を立ったが、時既に遅く何人かの同級生に絡まれてしまった。


 ああ、これ昼飯食べられないパターンだな。


 と思ったがなんと今日は運のいい事に、担任の先生が教室に入って来て呼び出され、ダイは昼飯用に財布をポケットに入れて先生について行った。


 呼び出しされて運がいいとかおかしな話だが、ダイにとっては幸運なんだよ。


 そう言う学生生活なんだよ。


 しかし先生に連れられて職員室に向かう道中でダイは気付いた。


 このタイミングでの呼び出し、まさか歩兵機の事がバレた!?


 今まで何回か呼び出しをくらったが、成績関連の事はつい最近呼び出されたばかりだ。なのにまた呼び出し、どう考えても不自然だ。


 しかもダイが倉庫跡でダオスロードに乗って暴れた翌日、嫌な予感しかしないぜ……。


 ところが、職員室に着く前にスーツ姿の女性が立ち塞がっていた。


 外国人だ、多分欧州辺りの。


 身長は平均より低いダイと同じくらい、ダイよりも年上だろうがあまり年齢差が無いように感じられる若い女性だった。


「後はこちらで引き継ぎます」


 女性は流暢な日本語でそう言うと先生は「失礼します」と言ってその場を後にした。残されたダイに女性は少し寄ると、何処か訝しむ様な眼差しでダイを見ていた。


「付いて来てください、視聴覚室へ行きます」


 その女性に先導されてダイもその後をついて行った。


「それと、先日はありがとうございました」


 先日?


 なんの事かと思ったが、そう言えば最近外国人の女性から道を聞かれた事があったな。


「あ、あなたは、あの時の……」


 あの時の美人が物凄く印象的だったが、しかしその美人の隣にはもう1人いた。


 そうだ、思い出した。その隣にいた部下っぽいのがこの女性だ。


「あの時は助かりました。何分思わぬ台風接近の大雨だったものでバスが止まってましたから、徒歩で行くには色々と不便でしたので」


「あ、はい。でも、あの……」


「ですから、御礼代りに1つ警告させてください。これから私の上官に会っていただきますが、どうか抵抗するような事はせず、ただ言われるがままに応じてください」


「えっと、あの……」


「私から言えるのはここまでです。それでは向かうとしますが、何が質問でも?」


「あの……視聴覚室は、反対ですけど」


 ダイがそれを指摘した途端、女性の顔が見る見るうちに赤くなっていく。


 おやおや、これはもしかして……


「失礼しました。ではこちらへ」


 何事も無かったかのように振る舞うが、顔は耳まで真っ赤だし汗の量も凄い。


 無論ダイがそれを指摘出来る筈も無く、只々黙って付いて行くだけだった。滅茶苦茶気不味いなぁ。


 それから視聴覚室に着くと女性は振り返ってダイを―――睨んでる?


 なんかキッとした感じで睨んできてる。威圧で晒した醜態を誤魔化そうとでもしてるのだろうか。


 だが睨んできてる目は少し涙で潤んでるし、威圧感は全く無い。寧ろちょっとプリティーだった。


「私はここまでです、中へ入ってください」


 少し声も上擦ってるし、気のせいか段々幼く見えてきたぞ。


「は、はい……」


 しかしそんなプリティーな彼女にもおっかなびっくりなダイはそう短く答えるしか出来なかったが。


 ところが、彼女が踵を返して立ち去ろうとした瞬間


 ―――バタン!


 自分の足に足を引っかけて転んだ。


 今時そんな古臭い事が出来るとは、一周回って逆に新鮮だわ。


 その後直ぐに立ち上がるとまたダイを睨んできたが、今度はダイも目を逸らす。今目を合わすのは宜しくないと悟ったようだ。


 偉い、ダイ。そして彼女は何も言わずに立ち去った。


 やはり俺の目に狂いは無い。彼女、ダイと同じ匂いがするぜ。


 何の匂いかって? ポンコツ臭だよ。


 まぁそれはいいとして、ダイは視聴覚室の方へ向き直る。


 さっき意味深な事を言ってただけにちょっと恐いな。なんかもうここから先の展開、歩兵機がバレましたって感じだし。


 だとしたら歩兵機の没収はほぼ確実、ダイもお咎め無しとはいかないだろう。母親にも姉にも、回り回ってハヤセにも迷惑がかかるだろうし、流石にそれはちょっと気が引ける。


 いっそ逃げるか。


 いや、言ってみただけだ。俺ならそういう手段も辞さないが、ダイにそんな度胸は無いしな。


 それに、中には上官がいると言っていたし、つまりあの人だよな。


 それはそれでちょっと楽しみかもしれない。


 てな訳で妥協主義らしく諦めて中に入る事にした。


 するとマジでビックリ、中には5人の美女が教壇のところで待ち構えていたのだ。


 何れもタイプの異なる女性達だが、5人共が大人の色気を纏わせた美女で揃っている。この5人に比べたらハヤセも美咲も、あとさっきのポンコツもちんちくりんに見劣りしてまうわ。


 これ、何てハーレム?


 だがそんな美女達の視線は険しいものだった。ポンコツのプリティーな目付きとは違って、研ぎ澄まされた刃物のように鋭く威圧的だ。


 ああ、うん。分かってました、ダメなパターンだって。


 お咎めあってもこんなお姉様方であればご褒美だーい、とか開き直れる訳もなくダイはまた頭が真っ白になっていた。


 眼帯野郎に相対した時と負けず劣らずのプレッシャーを放つ美女軍団、こりゃ只者じゃねーわ。


「またお会いしましたね、最上ダイ君」


 その中で1人、抜きん出た美貌を放つリーダー格と思わしき超絶美女が透き通るような声でダイの名前を口にした。


 忘れようも無い、台風間近のあの日ダイに道を聞いてきたスゲー美人さんだ。


「初めまして。クロステーゼ27日分隊長エリザベータ・トロフィーニエヴナ・オベルタス大尉です。あなたを捕縛させていただきます」

この時代の歩兵機って国際重要機密事項に定義されているだ。だから歩兵機は見たり触ったり写真に収めたりしたら処罰されるんだぜ。乗ったりバトったりなんかは以ての外、問答無用で暗殺されるのが基本なんだ。果たしてダイに明日はあるのか……いや、無かったら困るわ!

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