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第1話 ロボットを見つけたら四の五の言わずに乗れ

 狭い洞窟で窮屈そうに腰を据えている歩兵機の姿が、そこにはあった。


 全身が金属で出来た鋼鉄のボディは―――鋼鉄じゃないかもだな。なんか特殊な合金なのかもだが、しかしそれで出来た身体はロボット独特の味わいを出していた。


 全体的に丸みの多いラインで成人男性の中肉中背と言った特徴のないスタイルだったが、何故か右肩に突起した何かが付いていた。


 何となく煙突を連想する突起だったが、それが何なのかはダイにも俺にも知る由は無かった。


 顔は鋭い2つの目を備えた、だが今時としてはありきたりな顔だった。口元には排気ダクトとそれを支える顎、頭は自転車レース用のヘルメットに似た形をしているな。


 色は白銀をベースに薄い紫をアクセントにした、ちょっとサイキックな感じのするカラーリングだった。


 因みにバックパックなるものは無い。背中は見事にフリーだ。


 歩兵機の見栄えとしては良くも悪くも普通だったが、しかしダイはそんな歩兵機に見惚れて暫くうっとりしていた。


 それから傍に寄ってみてその大きさ、腰を据えていても、悠に4mはあるだろうと言う巨体を実感して更に感動した。


 それにしてもこいつ、一々感動が長い。事ここに至って既に30分が経過した。ずぶ濡れの制服も乾きつつあるし。


 さて、漸くモーションを起こしたダイは緊張した面持ちでゆっくりと歩兵機の身体に触れた。それは紛れもなく金属の表面だった。


 ただ、その感触はあまり感動的とは言い難い。ぶっちゃけ自動車に触るのと大差無かった。


 夢を壊して悪いが、それがリアルだ!


 それからダイは歩兵機の周りを歩き出した。何をしてるかって?


 決まってるだろ、操縦席を探しているのさ。


 目の前に巨大ロボットがあるんだ。見て終わるだけとか有り得ないだろ。男は黙って操縦席にインだ!


 ……え? 司法国家でそれは駄目だって?


 俺は知らんよ、インするのはダイであって俺じゃないし。


 そうこうしている内にダイは目敏く操縦席の入り口を見つけた。背中が上開きに開いていて、座席がスライドして外に出ている。


 分かり易いくらいに操縦席だって分かる仕様だなぁ。


「……これは乗れってことだよな」


 ……俺もそう思うぜ!


 しかし操縦席は結構高い。乗るには歩兵機の腰を登る必要があるが、腰には背筋に合わせる様に溝があって、そこにハシゴが出来ていた。


 ダイは迷わずハシゴに手と足を掛けて登り


「うわっ!」


 手を滑らせて地面の岩場に叩きつけられた。またかい……。


 さっき崖から落ちたばっかじゃん……。


 痛みを我慢して再チャレンジ、今度は慎重に手を足を掛けてハシゴを登り、ダイは座席に辿り着いた。


 歩兵機の背中と座席の前の隙間を潜って、その歩兵機の操縦席を目の当たりにしたダイの感想は―――何だかマッサージ機に似てるなぁって言う、少しテンションの下がる感じだった。


 普通ロボットの操縦席と言ったらモニターがあってレバーやらペダルやらが沢山あるようなイメージだったが、しかしこの歩兵機は違っていた。


 座席には腕を添える手摺りがあり片脚ずつ納める窪みもあり、頭の所にも枕のようなクッションがあるだけだった。そしてレバーやペダルの類いは一切無い。


 とダイはガッカリしつつあるが、しかしこの座席は背中から外に迫り出した状態にある。実際は歩兵機内部の方にレバーやらペダルやらがあるのかもしれない。


 ダイもその内その事に気付いて、どうにか中にイン出来ないかと座席に座ってみるが、しかしその瞬間、何か嵌るようなカチッと言う音が鳴った。


 ほんの微かな音だったが、それが合図だったかのように座席がスライドして歩兵機の中に入れられる―――と言うよりかは、押し込まれた。


「っ!?」


 思わず身を竦めてしまうダイだったが、しかしそれも仕方ないだろう。


 歩兵機の中は人1人がギリギリ入れるほどの狭い所だった。そんな所に押し込められたと思うと普通ヤバイと思うだろ?


 中の様子は狭い上に暗くて殆どよく見えない、精々正面の壁くらいしか見えなかった。


 正面には普通に壁だが、楕円状の内面でまるで卵の殻の中にいるような空間だった。ただ壁の正面には窓の様な四角い枠があり、それが外の映像を映すディスプレイだということはダイにも何と無くわかった事だろう。


 手前の胸元に位置するところにはタブレットPCくらいのビデオモニター―――略してモニターがあり、更に上の方の右側と左側にそれぞれスマホサイズの小さなモニターが設置されていた。


 そしてレバーもペダルも、歩兵機の中には無かった。


『I confirmed the boarding of the operation hand. I install the data of the passenger in an operation skill program.』


「え?」


 突然何処からともなく―――多分歩兵機のスピーカーと思われる場所から男っぽい機械音声が発せられた。


 世界公用語の代表たる英語だったが、学力の無いダイには理解出来る筈も無く……と言うか多分こいつ英語かどうかも判断出来て無いっぽい。


『Retina authentication is begun and data is being checked, an...... passenger was authorized with level G equivalence. A steering correction program is initialized. OS is initialized. The proto-9 systems of input of cable was confirmed. Proto-9 is downloaded. Download completion. Passenger's data is reflected in proto-9. The passenger's ecology data was confirmed and Japanese was concluded by a probability of 98%. The function of language is changed to Japanese.』


 スピーカーから流れるよくわからない言語を右耳から左耳に聞き流し、それと同時にモニターに流れるように映し出される訳の分からない言語だか数列だかにダイは目を回していた。


 まぁ、訳が分からないよな。俺だって訳が分からねぇよ。


『言語を変更しました。搭乗者の名前を入力してください』


 突然スピーカーからの声が日本語に変わった。てか変わってもらわないと困る。これから先色々と不便だし。


「え……え? 名前って……」


『入力エラーを確認しました。再度名前を入力してください』


 間髪入れずに催促してくんなよ。機械なだけに融通が利かねぇ。


 と言っても歩兵機は精密機器の塊だからな、こればかりは仕方ねぇのな。


「えっと……最上、ダイ!」


『確認しました。搭乗者氏名、モガミ ダイ。これに間違い無ければ了承してください』


 するとモニター画面に名字の枠にモガミ、名前の枠にダイと表示され、その下に了承の文字とマイクらしきアイコンが現れた。それが声で「了承」と言えば了承できるのと言う事はここまでの流れでダイにも分かったみたいで、すぐに了承した。


『了承完了。モガミ ダイをオペレーターとして登録しました。歩兵機を起動します、座席に搭乗姿勢で着席してください』


「ホヘイキ? ……このロボットの事か!?」


 この時ダイは初めて歩兵機と言う名前を知った。しかし今普通に座っている体勢が既に搭乗しであり、歩兵機は起動に向けて準備をし出した。


 何をし出したかと言うと、まず胴体が固定された。


 ジェットコースターで身体を固定する安全バーみたく、突如上から身体を押さえ付けられ座席に固定された。


 次に脚が覆われた。


 窪みに収まっていた左右の脚が横から出てきたカバーのような物で足首から膝まで、膝から太腿まですっぽりと覆う。


 同時に足の裏からペダルか何かの様な物が当てられ、両脚がそれぞれに覆われた。


 次に覆われたのは腕だ。


 上腕と前腕に分けて覆われて、手元にレバーらしいものを握らされた。


 握らされたと言うのは、手の上からカバーの様なものに覆われて必然と握るようになってしまったからだ。


 最後に頭の上と左右から怪しい出っ張りが伸びてきた。


 頭を覆う様に伸びてきた出っ張りにはカメラのレンズの様なものが埋め込まれていて、座席に座るダイを監視―――と言うより観察しているようだった。


『起動準備が整いました。歩兵機を起動します』


 そして遂に正面の壁に張り付いた枠、ディスプレイに外の光景が映し出された。


 つまり、起動したのだ。


 ただ予想に反して映像を映し出したディスプレイは枠の中だけではなかった、壁全体がディスプレイとなっていたのだ。


 視界はおおよそ270°くらいか、首が回る範囲で設置されているようだ。


 ならこの枠は何なのかって思うところだがこの枠、顔の動きに合わせて壁を動く。


 だから何なんだって話だが……。


 そして起動したはいいが当然の事実、ダイは歩兵機の動かし方を知らない。


 ついでに俺も知らない。


「……どうやって動かすんだろ、これ」


 完全に手詰まりだった。


 過去の先輩達は操縦マニュアル本を見て動かし方を覚えたり、はたまたロボットと神経接続を経て思うがままに動かしたりしていたが、現実はそんな甘く無い。


 操縦マニュアルなんてものは無いし、神経接続なんてクソ便利なものも搭載されてい無い。いや、マニュアルだけなら歩兵機のデータベースに保存されてる可能性は……あったとしてもダイにデータベースを探る能力は無い。


 そうなったらもう手探りで操縦するしかないだろ。選択の余地無し。


 試しに右のレバーから操作してみた。何故右からなのかは言うまでもなくダイが右利きだからだ。


 しかし操作しようとしたところで思わぬ事が起きた。固定されていたと思われた右腕が動いたのだ。


 右手じゃない。右の腕全体が、手首から肘、肩に至るまでスムーズに動く。カバーの様なもので覆われいるから少し動き辛いが、それは見た目ほど窮屈なものではなく驚くほどスムーズに動かせた。


 そしてダイの右腕が動いたのと同時に歩兵機の腕も、大袈裟に動いた。


「ういっ!?」


 よく分からない悲鳴を上げてダイは思わず仰け反るとそれに合わせて座席も傾き、そして歩兵機も大袈裟に仰け反って倒れた。


「痛っ!?」


 倒れた衝撃は歩兵機の中にいたダイにも相当伝わってきた。衝撃緩和の機能が備わっていないのか、それを以てしてこの衝撃だったのか。


 いずれにしろダイは2つ学ぶ事になった。


 1つ、下手に動くと大変な事になる。


 1つ、歩兵機はダイの身体の動きに合わせて大袈裟に動く。


 そこは頭の悪いダイでも身を以て経験すれば理解できる事だ。この歩兵機の操縦方法は、ダイ自身の身体で動かすと言うものである事に。


 ダイの身体そのものが操縦桿となっている。全身を拘束している様なカバーは身体の動きを読み取る為のトレーサーだ。これでダイの動きが、そのまま歩兵機に反映されていると言う訳だ。


 しかもそのまんまじゃない、歩兵機はダイの動きを大袈裟に反映するんだ。例えて言うと、歩くの動作が走るになってしまうような、身体のいかなる動作全てが大振りになってしまう、そういう風に出来ている。


「……よし」


 気を取り直して、ダイはもう一度チャレンジに出る。ただし歩兵機動きが大袈裟にならないようにゆっくりと動かしていく。あまりにゆっくり過ぎて歩兵機もゆっくりだったのはご愛嬌な。


 しかし操縦方法が分かっても結局手探りな事に変わり無いしな。暫く生まれたての小鹿を演じた甲斐あって操作方法を身体で覚える事が出来たが、それでもおどおどした動きしか出来なかった。


 ダイはそのおどおどとした動きで、歩兵機をゆっくりと立ち上がらせようとする。


『警告、上方に障害物あり。衝突回避の為、緊急ブレーキを発動します』


 また男風の機械音声が出た。するとダイの身体が本当に拘束されたかの様に動かなくなった。


 何でかと思ったら、右肩の突起が洞窟の天井(と呼ぶのが正しいのかどうかは置いといて)に当たっていた。


 このまま立ち上がってたら衝突事故が起きていた事だろう。


 なるほど緊急ブレーキか、そのまんまだな。


 思えばここは歩兵機が窮屈に座る狭い洞窟だった。立ち上がれる高さなどある筈も無い、座るのがやっとだ。


 仕方なく立ち上がるのは諦めて、這い這いしながら洞窟を出た。ダッセー事この上ねぇが、今は仕方ないんだ。仕方ないんだ!


 ただ、洞窟を出てからもダイは歩兵機を立ち上がらせようとはしなかった。


 だってよぉ、洞窟を出た外は真っ暗だったんだぜ。


 夕暮れ時を通り越して夜中になってたんだぜ。


 ダイの家って門限厳しんだが、これどう見ても過ぎてるなぁ。


「……ヤバ」






 その後歩兵機を洞窟に戻してから降りるまでに四苦八苦して、今現在傘を片手に重い足取りで帰路を歩いていた。勿論帰りは崖を登らず迂回路を歩いたがな。


 だが門限はとっくに過ぎていて、ダイはどう言い訳するかに頭を巡らせている。


「―――もし、少しよろしいかしら」


 そんな憂鬱時に突然声をかけられた。


 コミュ障のダイにはたまったもんじゃなかった無かっただろうが、それが女性の2人組だったんだら尚更だ。


 女は2人ともパンツスーツ姿で片手に傘をさしてもう片方の手にビジネスバッグを下げていた。上司と部下の関係の様で見るからに出来るキャリアウーマン然とした佇まいだった。


 ただどう見てもこの2人、邦人じゃなかった。どっちも地毛が黒くないし、顔の彫りも深いし、肌の色も滅茶苦茶白いし、瞳の色もカラフルで明らかに欧米―――いや欧州辺りの異国人だった。


 なのに流暢な日本語で訪ねてくるとか、どうよ?


 そのあまりに突然すぎるイベントにダイは完全にフリーズしてしまっていたが


「市役所はどちらか、ご存知ないでしょうか?」


 しかしその2人組―――の上司の方が尋ねてきたのは、何のひねりも無い事務的な質問だった。


 流石にそのおかげかダイも少し冷静を取り戻せた。


「え、ええ……えーと……あの……この道、この道真っ直ぐ行った……で学校を左に曲がった先です、はい」


「そうですか、ありがとうございます」


 かなり怪しい呂律だったにも拘わらず、女達は一礼してそのまま行ってしまった。


 何ら特別ではないよく有ることだったが、しかしダイは暫くその上司の女の方から後ろ姿から目を離せなかった。て言うか、俺がその場にいても目が離せなかっただろうな。


 何故ならその女、控えめに言ってもスゲー美人だった。


 もう一度言う、スゲー美人だった。

 今回ダイは普通に乗ってたけど本来歩兵機は網膜と音声で本人を認証するが、初期化状態では起動ロックがかかっていて正規の手順を踏まないと解除できずに動かせなくなるんだ。むやみやたらに乗り回されないようにする為にセキュリティをしっかりしてるんよ。じゃあ何でダイは乗れたのかと言う事は、今は聞かないでくれ。

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