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第0話 プロローグ

 歩兵機(ほへいき)と言うのがあった。


 簡潔に説明するとそれは、巨大ロボットだな。最近巷で流行りの、人が乗り込んで操縦する巨大人型ロボット。それが歩兵機だ。


 まぁ巨大といっても、その大きさは大体8m半。かの有名な白いロボットの半分も無い訳だから、巨大と言う程でも無いのかもしれない。


 だが、その分現実味は増すだろう。


 巨大過ぎれば過ぎる程、その構造上実現は不可能だとリアリティーが無くなりフィクションにしかならなくなる。


 その逆に少し巨大、微大とでも言ってみるか。そのロボットが微大であればある程、構造上実現不可能だった問題がクリアになって、リアリティーが出て来るのは間違いない話だ。


 実際問題、この歩兵機を倍以上の設計で作ったとしても実現は可能と言う研究結果が出ているんだから、歩兵機の開発は現代科学に置いて十分に可能と言う訳た。


 まぁ現実的に考えると、そんな巨大ロボット(ならぬ微大ロボット―――やっぱ一般的に見れば十分巨大だから巨大ロボットで定義する)が現代社会に置いて必要なものかどうかと問われたら、ぶっちゃけ無いと言うのも間違いの無い事だ。


 土木建築に活用するなら重機を使えばいい、医療現場や救助活動にしても巨大人型ロボットが必要な事は無い、戦闘用にしても戦車や戦闘機があれば十分なんだ。せいぜいアトラクション目的で作れば金になる程度のもの、巨大人型ロボットと言うのは結局その程度の物で、人間社会には無くてはならない物では無いと言う事だ。


 そしてその逆もしかり。巨大人型ロボットなんてものがあったらあったで、それはそれで問題になる。迷惑な意味でな。


 実際問題そんなものがあっても使い道が無いと言うのであれば、処分に困るだけの傍迷惑な物でしかない。ましてやそれが戦闘目的で作られたのだとしたら余計手に負えない。


 だからこそ真剣に考えるべきだったんだろう。巨大ロボットなんて夢みたいな物を現実に持ち込んで、それで被る人的被害の大きさに。


 そう、歩兵と言う名が付いている通り、歩兵機とは戦闘目的に作られた巨大ロボットだ。つまり、世界の平和を保つ上で最もあってはならなかった、そう言う物だ。


 何の目的で作ったとか、どこでそんな物が作られたのだとか、平和を愛する現代市民としては色々聞きたい事は山積みだろうけど、どうかそこは俺の話を気長に聞いていただこうと思う。異論は認めん。


 ただしこれは俺個人の話じゃない。俺達2人の話だ。と言うより、ほぼ俺の相棒の話。相棒の相の話、それを相棒の棒がする、そう言う話だ。


 そう、これから話すのは俺達の出会いから始まる冒険譚だ。


 相棒の名前は最上(もがみ)ダイ、大小の大と書いてダイ。出会った頃はまだ16の小僧で日本のハイスクールスチューデントだった。


 ありきたりな台詞で言うと何処にでもいる平凡な学生だが、学生カーストは最底辺でトップを争う、酷い言い方をするなら負け犬組だ。


 勉強も出来ない運動も出来ない所謂無能、その上コミュ障で彼女は勿論の事で友達すらもいない。更にゲーム読書模型作りets.諸々含めた特技が1つも無いと来たもんだから、まるで救いようが無い。


 家族に父親はいない、それでも母親が出来るキャリアウーマンだったお陰で家は裕福でこそ無いがシングルマザーの家庭では比較的良い方だった。


 大学生になる姉もいる、それも国立大に通う姉だ。バイト先でもバイトリーダーに選ばれているし、JK時代は名前の通り学生カースト最上位にいた、はっきり言って出来る女だ。


 そんな家族構成で見たらダイはどう見ても出来損ないでしか無かっただろう。出来る母親に出来る姉、ここに出来無い弟なんていたら、そりゃあ肩身が狭い事この上無いってもんだ。


 家に居場所が無ければ学校にも居場所は無い、そんなダイが唯一心の拠り所としていたのは、ロボットだった。


 巷で大人気の巨大ロボットは、ダイにとって最も熱くなれる数少ない趣味だった。


 しかし母親は出来る女でも厳格な母親で小遣いは碌に与えられず、そんな趣味もアニメで見たりゲームアプリでチビチビ遊ぶくらいのささやかなものでしかなかった。


 金が欲しいなら働け、それが最上家の家訓だった。いや、まぁそれって普通に当たり前の事なんだけど。


 ところがダイは趣味の為に働く気概のある奴じゃなかった。苦労するくらいなら妥協する、そんな生温い考え方をした奴だったんだ。


 はっきり言ってこいつのこの考え方には1ミリも共感出来無いぜ。モラハラを承知で言うが、男なら欲しい物の為に苦労を惜しむべきじゃない。俺みたいに借金してでもカジノに出向いて夢を高らかに大損するのが……ゴホンッ!


 ―――さて、何の話だったかな?


 つまりダイは何事にも消極的な奴だったと言う話だ。一昔前ならそれも巨大ロボットのパイロットに相応しい条件と言われたかもしれないんだが、そう言う考え方は駄目だと真っ向から否定されるのが現代社会の在り方でる。


 しかし俺はダイの消極的な在り方に、共感は出来無いでも否定は出来無かった。


 寧ろダイの消極的な考え方に、少しでも共感出来ていれば今みたいな後悔をしないで済んだと、それだけは断言して言える事だったからだ。


 ……え? カジノ? 何の事だ??


 とにかくそんな積極的で失敗する俺と、消極的で妥協するダイの巡り合わせが良かったのか悪かったのか、その判断は聞き手である諸君らに委ねるとしよう。


 それじゃ、長い前振りは終わりにして本編の語りを始めたい。


 ダイと俺の物語、始まりはとある歩兵機に始まった。


 とある歩兵機に始まって、そしてとある歩兵機に終わった。そう言う物語だ。






 その日は大型の台風は接近する大荒れの天気だった。


 海沿いに面した市内に住んでいたダイは学校帰りの夕暮れ時(土砂降りだが)、傘を片手にもう片方の手で木の枝と見られる棒を手に、崖の縁から伸びる老木の枝を突いていた。


 なんでこの土砂降りの中でそんな奇妙な事をしているのかと言うと、その老木の枝にはダイのスマートフォン、略してスマホが引っかかっていたからだ。


 なんでそんな事になかったのか、それは学生カースト最底辺であるダイが普段学校でどの様な扱いを受けているのかを想像すれば察してもらえるだろう。


 敢えて口にしないのは、説明するのも胸糞悪いからなんで、出来れば俺の気持ちも察して欲しい。


 そんな訳でダイは今、老木に引っかかっているスマホを取り戻そうと枝の棒で突いていたのだが、しかしここは崖の縁、位置的に考えるとそこから落ちたらどうなるか―――


「あっ」


 やっぱりと言うか何と言うか、スマホは老木の枝から落ちたものの、ダイの立つ道路には落ちず崖の下に落下。思わず間抜けな声を漏らすダイ。いや、ちょっと考えたら分かるじゃん、普通こうなるって。


 崖の下は浜辺だ。運よく海に浸かってなければまだ救いがあるかもしれない。


 崖は高さ10m以上、それほど高くは無いが迂回すれば安全に下りる道がある。かなりの遠回りになるが回収しない訳にはいかなかったからダイは渋々下校した道を戻って迂回する。ただ海に浸かってなかったとしてもこの土砂降りに晒されたスマホが無事だとは思えないけどな。


 と思ったらダイはまた戻ってきた。何を思ったのか崖の下を覗いてスマホが落ちた場所を凝視している。


 ……あれ? こいつひょっとして、崖を降りようとしてないか?


 迂回すれば時間がかかるし、基本的に体力が無いから楽な方を選ぼうとしている?


 いやいやいやいや、それリスキーだから! 楽であってもリスキーだから!!


 と言うかデンジャラスだから!!!


 何でお前、苦労は妥協すんのにデンジャラスは妥協しねぇんだよ! 普通逆だろ!?


 とか言ってる間にマジで降りやがったぞ、こいつ!?


 おぼつかない足元を確認しながら一歩一歩、慎重に下りてやがる。マジか……。


 崖は垂直と言うよりかは急斜面に近い、所々が凸凹した岩壁だから足場にはそう困らないだろう。実際ダイよりも年下の悪ガキが度胸試しにこの崖を下りる事が稀にあったから、出来ない事は無いのだろう。


 しかし体力も無ければ運動神経もない(ついでに学力も無い)ダイにはデンジャラス過ぎる諸行だろう。


 って言うかフラグじゃね? 足滑らして落ちるって言う、そう言うフラグじゃね?


 ―――ズルッ


「うっ!?」


 あ、やっぱり……。


「うわあああああああああ!」


 見事にフラグを回収したダイはそのまま真っ逆様に、大袈裟な悲鳴をあげて落下した。え? 何でそんなに冷静なのかって?


 だってこいつ、割と器用に崖を半分くらい降りてたんだぜ。半分って事は大体4、5mくらい、下は柔らい砂浜でしかも尻から落ちたから流石に死にゃしないよ。


 おまけに海面が増して水が浸ってるし。


 だからダイが落下したとして、命に関わる事は無かったんだ。そう、命に関わる事はな。


 関わったのはダイの人生に、だったんだろう。


「……今の、何だろう」


 崖から落下したのは単にドジって足を滑らせたからじゃ無い。崖を下る際に垣間見えた、有らぬ筈の物が目に飛び込んでいたからだ。


 それは、“脚”だ。


 おおよそ人間の物と思われる形をした“脚”だったが、その表面は明らかに金属で出来ていた明らかな人工物の“脚”だった。


 そして、また明らかにデカい。人の脚と比べると軽く5倍の大きさがある。


 そんな“脚”が目に飛び込んだ途端、ダイは思わずその方向へ歩み出した。目的のスマホを回収するのも忘れて。しかも海水にはまってずぶ濡れだし。


 落下した所からはもう“脚”は見えなくなっているが、場所はもう分かっていた。そこはこの海岸付近では割と知られている、洞窟がある場所だ。


 洞窟の周辺は砂浜と違って岩礁が立ち並ぶ波打ち際だ。余程の事が無い限り地元の人間でも立ち寄らない危険な場所で、勿論運動神経の無いダイがそんな場所を無事に行ける筈も無いのだが。


 案の定、ダイはコケたり躓いたり擦りむいたり満身創痍になりながら洞窟を目指した。普段苦労を妥協するコイツがここまで必死になっている姿は中々珍しいものだ。


 それだけあの崖から垣間見えた“脚”が―――いや、その“脚”を有する“何か”がダイを駆り立てていたんだろう。


 夢中のあまり身体中の怪我が目立つようになってしまったが、それでもやっとの思いで洞窟に到着。その時ダイは初めて実物を目にした。


 それは、今後のダイの人生を大きく狂わす、どん底からどん底への転機となる代物だった。


 崖から見えたのは右脚だった。洞窟に来て対なる左脚もある事を知り、その両の脚を繋ぐ腰、その上に乗っかっている胴体、その左右の両側には一対の腕もある。


 そして胴体の上には頭もある。2つの鋭い目を備えた、頭が。


 そこには、この時代では間違い無く国際レベルの軍事機密事案、人型汎用戦闘機動兵器―――歩兵機がそこにいた。


「……ロボットだ」

 因みに歩兵機って思いっきり日本名だけど、実は英名だとストライカーって言うんだぜ。戦車がタンク、戦闘機がファイターみたいにな。他にも世界各国で呼び名があるんだが、そこは割愛する。

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