エレウシスオンラインへようこそ1
授業の終了を知らせるチャイムが鳴っている。
僕は気にせず窓の外を眺めていた。
コンクリートジャングル、という言葉が当てはまるビル街の風景。
何が面白いわけでもなく、僕はずっとその風景を眺めていた。
「おい、早瀬。」
誰かが僕を呼んだ。
反射的に声の方を向くと、健全な学生とは思えない程髪を茶色に染めた男が立っている。
「聞こえねぇのか?」
「――聞こえてる。」
こいつは田辺 勇。
まぁよくいる不良だ。
そして僕は早瀬 理樹。
御覧の通りいじめられっ子っていう立ち位置だ。
「ならさっさと俺の昼飯買ってこいよ、焼きそばパンと牛乳な。」
「……」
僕は無言で席から立ちあがる。
「腹減ってるんだから早くしろよ?」
中途半端に伸びた黒髪を払って、僕はそのまま教室を出た。
―――
――
―
何故僕は刃向かわないのかって?
僕は平和主義者だ、無駄な争いはしたくない。
ほら、こうやって言われた通りの事をしておけば何もされないし、文句も言われない。
勇は渡した昼食を、ご苦労と一言だけ言って食べ始めた。
だから僕はあまり気にしない。
そもそも、現実に対しての執着が少ないからだ。
――それに、今日の僕は機嫌が良い。
ついにエレウシスオンラインをプレイ出来るからだ。
いくつもVRMMORPGをプレイしてきた僕だが、こいつは別格だ。
初めてのダイレクトログイン形式を採用している。
ダイレクトログインとは、精神をデータ化してゲーム内のアバターに転送する。
つまりゲームの世界に入り込む事が出来るのだ。
おかげで、専用の機材を購入するのに時間がかかってしまった。
「なんだよお前、ニヤニヤして気持ちわりぃぞ。」
何を言われようが関係ない、今日僕はエレシウスオンラインの世界へと旅立つんだ!