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7話



「それはまた⋯⋯心中をお察しします」



ありゃ、泣き出したよ。というか、リザルグ殿ってどこかで聞いたことのある名前だな。さて、誰のことだったか⋯⋯



「⋯⋯相手の方には悪いですが、せめて父君が長年探している方がどこにいらっしゃるのかがわかればあるいは⋯⋯ラティシア嬢は、父君のケンカ友達の方の名前をご存知なんですか?」


「は、はい⋯⋯実際にお会いした事はありませんが、恐らくこの魔界で知らない方などいらっしゃらないと思います。父の友人は、八十年ほど前に魔界を出ていかれたという魔王陛下の第二王子、レークヴィレム様です」


「!ぶっほぉッッッ」


「あ、あのっ、だ、大丈夫ですか?」


「お、お気になさらず⋯⋯大丈夫です」



思い出した!リザルグ殿って、ゲオルグ殿の話に出てきた公爵で、親父の悪友じゃなかったですかね!?ある意味、親父の行動が、魔界に(のち)の災いの種を生んでいる⋯⋯


思わず、うわぁといった顔をしたオレは、ラティシア嬢の表情を盗み見た。心配そうな顔をしているラティシア嬢の顔を見ると、さらに気持ちがふさいでしまいそうだった。



「⋯⋯その、ラティシア嬢の父君は、ずっと第二王子のことを探していたんですか?」


「え、えと、はい⋯⋯彼奴がいなければつまらん、と口癖のように言っては使い魔を人界に遣わしていました」


「あと、少し話は戻りますが⋯⋯父君と母君は、互いを想い合っていたんですか?不躾だとは承知なんですが、その⋯⋯」


「え、あ、構いません。結婚して子を成すくらいには一応、想い合っていました。⋯⋯多分」


「そ、そうですか⋯⋯」



プライベートな話題だとはわかってたけど、結婚すら暇潰しとかだったらなんか申し訳ない気持ちになるからな⋯⋯にしても、叔父たちやゲオルグ殿のことといいリザルグ殿のことといい⋯⋯親父に関わる悪魔ひとたちはなんでこんなに特殊で面倒くさいんだ。


はぁー、と溜め息をついたオレに、ラティシア嬢が恐々とした様子で話し出した。



「あ、あの⋯⋯す、すみませんでした。やはり、お話しするような内容ことではありませんでした。それなのに、お心を煩わせてしまって⋯⋯」


「いや、えっと、オレ⋯⋯私も協力しましょうか?」


「えっ、いいえ!そんなことを頼めません!本当に、大丈夫ですから!」


「いや、その⋯⋯」



いやいやいや、オレの親父も関係してるし。このまま見て見ぬふりなんてしたら夢見が悪いし⋯⋯



「本当に!大丈夫ですからっ⋯⋯で、ですが、その」


「ん?何かあるんですか?」


「あ、あの⋯⋯です」


「はい?」



ラティシア嬢はなにかを決意したような目をしてオレを見つめてきた。



「え、と⋯⋯その、時々でいいので、わたくしの相談相手になってほしいというか⋯⋯」


「はぁ⋯⋯?」


「つ、つまりそのっ、お、お友達になってくださいませんかっ⋯⋯?」


「は?えっと⋯⋯」



そんなことかと首を傾げると、ラティシア嬢があわあわとしながら早口で言った。



「で、ですが!おいやでしたら無理にとは言いませんし、ただ何となく友達になってほしかったといいますか⋯⋯その⋯⋯」


「あー⋯⋯私でよければ、別にいいですけど」


「や、やっぱり、だめ、ですか⋯⋯って、え?い、いいんですか⋯⋯?」


「オレ⋯⋯私でよければ」


「あっ、あの普通に話してくださって大丈夫です。そのほうが、嬉しい、です⋯⋯」


「あー⋯⋯じゃあ、お言葉に甘えて」


「は、はい⋯⋯」



なぜか友達になることになったが、まぁ、いいか。


それからまたなぜか世間話をつらつらと話して、ラティシア嬢の『す、すみません。ヒナト様はお仕事中でいらしたのにべらべらと⋯⋯』という泣きそうな言葉でお開きとなった


でもまぁ取り敢えず、これからやることは決まったな。ちょっと面倒だが、仕方ない。





******





「⋯⋯人界に行きたい、だと?」


「えーっと、荷物を取りに行くだけです。一応城内に部屋を貰ったので、そこに越そうかと⋯⋯」


「日常生活に最低限必要なものは揃えているだろう」


「ほら、ひとには誰しも愛用品というものがあるでしょう?」



あの後、仕事を早急に終わらせて文官のところに詰め寄った。いや、詰め寄っている最中と言うべきか?取り敢えず家に戻ろうと、必死に文官を説得している。



「さ、三時間!いや一時間でいいから家に戻してくれませんかね?」


「⋯⋯はぁ、仕方がない。人間の分際で生意気だが、その時間で家族に別れの言葉も告げてこい。もう、二度と会うことがないだろうからな」


「⋯⋯いや、それはないな(ボソッ)」


「何か言ったか」


「いえ、ありがとうございます」


「ふん、ご機嫌とりのつもりか?醜い」



(よし、取り敢えず家に戻れる!さて、問題はそれからだな⋯⋯)



氷那斗は文官の言葉はさらりと無視して、家に戻ってからのことを考えた。





******





懐かしの我が家、と言うほどの感慨もないが、やっぱり少し落ち着くな。久々の我が家にほっとしつつ、家の玄関を通った。



「親父、お袋、ただいま。帰って早々悪いんですけど、話があるんだが」



リビングのドアを開けて早々に氷那斗は言った。



「おや、本当に帰って早々なんだ。就職先が決まったのか?」


「⋯⋯魔界の匂いがするなァ。愚息、魔界に行ってきたか」


「お袋、確かに決まったといえば決まった。親父、魔界には行ったというより拉致られたんだよ。オレのせいじゃねえ」


「どういうことだ?」


「ちょっと待った、詳しいことはいまから話すんで。実は⋯⋯」



ここで氷那斗は、魔界に連れ去られてからのことを話して聞かせた。そして



「ということで親父、リザルグ殿に会ってくれないか?」


「断る。なんで俺が、あの鬱ッ陶しいミミズ頭のぼんくら蝦蟇がまに会う必要がある」


「⋯⋯ああ、親父ならそう言うと思ったよ。だがな、理由はさっき言っただろうが」


「俺が関わる理由にはならねぇな。俺から会いに行ってやる筋合いはねぇ。そんなに相手してほしいなら、あの足りない頭を精一杯働かせて俺を探しだして見せろ。まぁ、ほかの低俗どもがするような愚考をする脳しか持ち合わせてねえんだろうが」


「親父の弟妹たちについては?」


「その程度のこと、自分でなんとかさせろ。爺たちのやること成すことを甘受したようなふりをして陰でめそめそ言うことしかできない軟弱なクソ餓鬼どもなぞ、飼い慣らされた家畜同然だ。そんなものにかかずらってやるほど、俺は暇ではない」


「あー、そういえばオレの場合は親父の罵詈雑言やらなんやらで鍛えられたからな。心身ともに」


「有り難く思え、低知能愚息」


「少しくらい労れ能面親父」



親父のこれは⋯⋯一応、愛情の裏返しなはずだ。何かを言ってくるだけ想って⋯⋯やめよう、気持ち悪くなってきた。



「━━━ところで氷那斗。レークと言い合っている場合ではないのだろう。どうするつもりだ?」



さすがお袋は歌神だっただけはある。とても涼やかでよく通る綺麗な声だ。じゃなくて。



「親父が動かないことはほぼ確信していたんでね。だからまぁ、オレが動きますよ」


「ほう?どうやって」


「取り敢えずリザルグ殿とやらに対峙する。勝てるとは思ってないから、頃合いを見計らって姿を隠す。そうすることで、暫くの間はもたせる」


「ふうん?そうか⋯⋯」



お袋は意味深に笑い、親父はあんな間抜けに負けるなんて無様な姿を晒すなよと無表情のまま言った。さっきから普通に会話しているが、親父全部無表情だったからな?オレはもう慣れてるが、何も知らないひとが見たらそりゃあ怖いぞ?


取り敢えず、仕込み刀付きの番傘を持っていくことにした。本性の姿の時に、武器を携帯しているから本当は武器は要らないんだが。ただ、何か持って帰らないと文官に怪しまれるでしょう?


それに、オレは文官の助力がなくても普通に魔界と人界を行き来できるから両親に別れを告げる必要はない。両親もそう思っているようだ。


え?じゃあなんでわざわざ文官の手を借りて帰ってきたかって?そりゃあ、そんな事したら魔力が漏れ出て正体がバレる可能性が出てくるからですよ。ま、それは置いといてだ。



「身体に気をつけるんだぞ」


「⋯⋯厄介事を寄越すなよ」


「さて、できる限りのことはしてくるさ」



家を後にするときの会話はこれだけだったが、それで十分だ。またいつでも戻れはするからな。


それから文官が指定した場所にいくと、そこにはもう文官がふてぶてしい顔で立っていた。何か言おうかとしたが、文官は聞く気がないらしく、無言で部屋まで送ってくれた。


部屋のなかで、氷那斗は文官が出ていったほうの扉を見ながら呟いた。



「何を持ってきたのかと問われることも調べられることもなかったな。人間・・ごときに悪魔が害せるわけがないと過信しているからか⋯⋯」



氷那斗は肩を軽く竦めながら息を吐いた。さて、年下の、泣き虫で臆病な可愛い友人のために一肌脱ぎますか。

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