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6話



「そういえば、ゲオルグ殿はどうしてここに?」


「ん?ああ、陛下たちにザフィア王子を探してくるよう命じられているのだ。それで王子の魔力を探っていたらここにきた。そういうことだから、ザフィア王子を渡してもらえるとありがたい」


「あの、ザフィア王子、寝てるんですけど⋯⋯」


「いや、ザフィア王子は意外と敏感なところがあるからな。恐らく、レークの話の途中ぐらいから起きているはずだ」


「えー⋯⋯」



マジかと思いながら腕に抱いているザフィアを見下ろすと、ザフィアが親に叱られる寸前の子供のようなバツの悪い顔をしてオレのことを恐る恐る見上げていた。マジで起きてた。



「ザフィア王子、起きていたんですね」


「⋯⋯ん」


「ザフィア王子。魔王陛下と魔王后がお呼びです。私と共に参りましょう」


「ぅ⋯⋯」


「⋯⋯ゲオルグ殿、顔が怖いことになっていますよ。ほら、もっとこう、口角をあげてにこやかに」


「ん⋯⋯むぅ」



ザフィアに語りかけるゲオルグの顔が冷たいことに気づいた氷那斗は、微かに震えているザフィアを視界の隅に捉えながらゲオルグに表情について指摘した。


それから気難しげに表情を取り繕おうとしていたゲオルグの顔にザフィアはさらに怯えてしまった。⋯⋯なんて悪循環な



「⋯⋯ザフィア王子、魔王陛下と魔王后をお待たせするわけにはいきません。おわかりですね?私と共に参りましょう」


「ん⋯⋯う、ん」


「お。ザフィア王子、頑張った」



脅迫じみた言葉と冷ややかな顔で無意識にザフィアを威圧しているゲオルグを見て、やっぱりすぐに和解させるのは難しいなと思った。しかし、ザフィアが勇気を振り絞って了承したのを見て、思わず拍手したくなった。



「ぅ⋯⋯き、君も一緒にきてくれる!?」


「あ、やっぱり限界があったか。無理です。オレは下働きですよ?魔王陛下と魔王后にお目通りできるような身分ものではありません。頑張ってください」


「え⋯⋯ぇ⋯⋯⋯⋯」



オレも少し薄情だ。こういうとき、普通は『しょうがないですね』とか言ってついていくんだろうが、そんな甘えを赦すほど優しくはない。


『いまできないのに、次にできるわけがない』


これがオレの持論だ。いまオレがついていったら、次からも『一緒にきてくれる?』と言ってくるに決まってるでしょう?


だから、こういうときは心を鬼にして突き放すほうが相手のためになるんだ。


そういえば名乗ってなかったなと思いつつきっぱりと断った氷那斗にザフィアは涙目になりながら無言の訴えを送ってきたが、氷那斗は気づいていないふりを突き通した。


結局、無駄だと悟ったらしいザフィアはしょんぼりしながらゲオルグに手を引かれて去っていった。立ち去る際にゲオルグが氷那斗に向かって一礼して行くのを見て、もしついていくと言っていたらゲオルグに苦労を掛けることになっていたのかもしれないと思った。


ザフィアとゲオルグが去った方向をぼんやりと見ていると、とたとた走る足音が聞こえてきた。いままでの流れからしてなんとなく厭な予感がしたが、そろそろと足音のする方向に視線を向けた。


予感的中~。推定十六歳くらいだと思われる少女が涙目で駆けてきた。薄紫色の緩く波打つ髪と金色の瞳をした、なかなかの美少女だ。あ、畑の近くにある木の陰にしゃがみこんだな。


というか、なんでみんな畑にくるんだ?もっと別の、森とか花畑とか使われてない部屋とかに行けよ!⋯⋯あ、花畑も「畑」か。


といったことを思いつつも顔には出さずに、仕方なく泣いている少女に優しく話し掛けた。



「あの、姫君?どうかされたんですか?そんなところに座っていると、お召し物が汚れますよ」


「っ!⋯⋯ど、どちら様でしょうか⋯⋯⋯⋯」



あれ?オレに気づいてなかったみたいだ。それに見た目に違わず気の弱い女の子だった。こういうときは見た目とは裏腹に気の強い女の子が強がりながら『お、お黙りなさい!わたくしは泣いてなんていなくてよっ』とかいう場面じゃないんですかね?


リオルのときみたいに『悪魔ひとに名前を聞くときは云々⋯⋯』と言うところなんだろうが、この子の場合は言った瞬間さらに泣かれて後々面倒なことになりそうだしな。それに、お袋には『女の子には優しくしろ』って口酸っぱく言われてきたし。はぁ⋯⋯



「失礼しました。オレ⋯⋯私は、本日から王城で働くことになりました。伊葉氷那斗いばひなとと言います。人界より連れてこられたばかりなので、貴女のことも存じていないのですが⋯⋯」


「あっ⋯⋯こ、此方こそ失礼致しました。わ、わたくしは、リザルグ=ミルヒシュトラーセの娘で、ラティシアと申します。ぶ、無作法を致しまして⋯⋯」



しどろもどろになりながらも慌てて頭を下げてくる少女⋯⋯ラティシア嬢に、オレは少し好感を持った。相手に頭を下げることのできるのはいいことだ。



「いえいえ。ところで、ラティシア嬢。こんなところでどうされたんですか?⋯⋯泣いているようにお見受けしましたが」


「あっ、えっと⋯⋯」



俯いてしまったラティシア嬢に、オレは控えめに言葉を切り出した。



「ああ、言いづらいことであれば別にいいんですが」


「いえ、その⋯⋯初めてお会いした方に話すようなことではないのですが⋯⋯」


「構いませんよ。どうされたんですか?」



精一杯、オレにとっての限界まで柔らかい表情で微笑みかけると、ラティシア嬢が頬を紅く染めながらぽつぽつと話し始めた。初々しいな。


で、話を要約するとこうだ。


曰く、父であるリザルグ殿が近々ラティシア嬢の伴侶あいて選びを始めようとしているのだという。理由は、なんと暇潰し。ケンカ友達が数十年前にいなくなって以来暇をもて余していたリザルグ殿は、そのケンカ友達と同じように結婚して、ラティシア嬢と息子が生まれたという。


最初は子育てを楽しんでいたらしいのだが飽きっぽい性格らしく、それからは息子相手に剣術の稽古と称して斬りかかったりすることで暇潰しをしていたという。


そして今度はラティシア嬢に白羽の矢がたったというわけだ。ラティシア嬢の気持ちや意見を完璧に無視して、伴侶選びと称して暇潰しを始めようとしているのだ。



「気紛れで奔放な父ですが、一応、それなりに強いやつじゃなければ娘はやらん!などと言って、わたくしの事をそれなりに考えてはいるようなのですが、誰彼構わずにケンカを吹っ掛けようと⋯⋯⋯⋯」



しかもどうやら娘の伴侶あいてを本気で探す気はあるようなのだが、所詮は暇潰しの延長だ。魔界中に次の満月の夜から娘の夫選びを始める、容赦なく斬りかかるから覚悟しておけという恐怖の宣言がされたというのだ。


娘としては大変遺憾で、さぞはた迷惑なことだろう。それにどうやらリザルグ殿は、魔界でも魔王陛下の折り紙つきの実力者だという。今回の宣言についてはさぞ、悪魔たちも震え上がったでしょうね。

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