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2話



それから氷那斗はこの数日で、王城に仕えるために様々なことを大急ぎで叩き込まれた。そして魔界では、下働きでさえこんなに大変なのかと思い知らされたのだ。


そんなこんなでやっとのこと及第点をとった氷那斗は、正式に『下働き』になった。さて、これからどうなることやら。


そう思いながら忌々しい文官の命令でリオルを探して扉を開けると、そこは王族の絵姿が飾ってある部屋だった。


⋯⋯え?なんで居場所がわかったかって?そりゃあオレはこれでも悪魔の息子だからな。親父には武術や茶道華道の他に、力の使い方についても叩き込まれてます。だからリオルの居場所なんて魔力を探ればすぐにでもわかるってもんだ。


そうしてやっと見つけたリオルは、一心にひとつの絵姿を見ていた。


なんとなく気になってリオルの傍に立ち、彼が見ている絵姿を見た。そしてぎょっとした。それは、戦場を背景にした絵だった。


絵を見て唖然としていた氷那斗に気づいたリオルが、抑揚のない声で呟いた。



「風によって靡く膝下まである漆黒の髪は長く、絹糸のようであった。そして前髪の隙間から覗く双眸は紫と藍の左瞳と朱金の右瞳の珍かなダイクロイックアイで、宵闇の星空のような神秘的な美しさを秘めていた。


抜き身の刃のように鋭く冷たい美貌と凛とした雰囲気を併せ持った容貌は、見るものに近寄りがたい威圧感と優雅で洗礼された印象を与えたという。そして、魔王陛下に次ぐ魔力を持った彼の戦闘力と戦闘技術はずば抜けて高く、それと同時に思慮深さと聡明さを兼ね備えていた。


幽玄の美。そう称するにふさわしい、完璧すぎる美貌を持った実力者だった。


異様なまでの美貌を誇る彼はぞっとするほど無表情で、氷の仮面を被っているようだとたとえられた」



と、ぽつぽつ説明口調で話すリオルに気づかれないように苦々しい顔をしていると、リオルはそのまま氷那斗を振り向くことなく言った。



「おまえはこの絵⋯⋯いや、この男のこと、どう思う?」


「⋯⋯どう、と言われましても」



氷那斗はなんとも言えない気持ちになった。なぜなら



「⋯⋯これ、おれが生まれるずっと前にいなくなった次兄の絵姿らしい。剣の腕は魔界屈指と謳われるほど強かったと父上たちが仰っていた」



これ、オレの父親ですもん!


なんだこれ、美化しすぎだろ!確かに親父は無表情だが、こんなんじゃあないぞ!?絶対に目許とか表情の補整してるだろ!


それに親父は、もっと自分勝手で好き放題やってた我が儘野郎だぞ!?


あ、ちなみに本性の時のオレの髪は親父ほど長くはない。だって邪魔でしょう。だからオレの場合は、後ろ髪は腰までの長さで髪型はハーフアップにしている。横髪は弧を描くようにして結い上げた上半分と一緒に束ねていて、たゆんだ横髪には刺繍が施された薄い羽衣のような生地の領布がついた金環を通している。


そう心のなかで説明している氷那斗の近くで、リオルはまだぽつぽつと話していた。



「父上や母上、兄上姉上たちが仰っていた。次兄は見た目とは裏腹に口が悪くて大雑把で、いつも淡々としていたと。それに、容赦ない性格のわりには楽観的で享楽主義だったから暇が嫌いで、剣や弓といった武術だけじゃなくて料理や茶道華道なんにでも挑戦してはものにしていたとも」



はい、まったくもってその通りです。ぐうの音も出ません。オレもその被害を被りました。剣術やら料理やらができるのは、親父にしごかれたからです。



「⋯⋯そしてそんな次兄のことを父上も母上も、兄上姉上たちも大切に思っていた。次兄は顔にでない分、瞳が雄弁にものを語ると長姉が仰っていた。なんにでも挑戦しているのは、狭い世界に満足せずに、自分に仕えてくれている悪魔ひとたちの大変さを知ろうとしていたからだと長兄や父上、母上が仰っていた。近侍の悪魔ひとたちも、みんな次兄のことを大事思っていると言っていた」



⋯⋯なんだろう、これ。親父ってば美化され過ぎ。親父はそんな立派な男じゃないんだが。かなり、寒気がする。



「みんなみんな、次兄のことを想っているのがわかった。だからおれも頑張ろうとしたけど、全然駄目で。⋯⋯だから父上も母上も兄上姉上たちも、あまりおれたちに構ってくれないんだ」


「はいちょっとストップ」



しんみりした雰囲気だったけど一気に無くなりましたよ?なんです?祖父母たち、やっぱり育児放棄してたのか!?



「それ、どういうことか詳しく聞いても?」


「⋯⋯あぁ、構わない。どうせみんな知ってることだしな。次兄がいなくなって、それを哀しんだ父上たちが子作りをしまくった結果がおれたちだ。そしておれの弟、十四王子の顔がほんの少しだけど兄上に似てるって大喜び。さらにはあいつに、次兄みたいになれって剣術を始めさせたり、料理なんかもさせたり⋯⋯父上たちは弟に構ってばかりで、おれたちは益々相手にされなくなった。父上たちが幸せそうに笑ってるのは嬉しいけど⋯⋯やっぱり、少し淋しい」


「まさか十歳くらいの子供の口から子作りなんて言葉が出るとは⋯⋯それで、その第十四王子の名前と歳と髪や瞳の色は?」


「名前はザフィア。歳は六歳で、髪は漆黒で瞳は銀色だ。次兄とは瞳の色が違うけど、そこは仕方ないと仰ってた」


「⋯⋯へえ?」



ふつふつとした怒りが沸き上がってくるようだった。なんというか、リオルや未だ見たこともない幼い叔父叔母たちに、ほんの少しだけだが申し訳ない気持ちになった。


そして呆れと怒りのあまり、心のなかで叫んだ。


第二のクソ親父を作る気か、この馬鹿が。自分の子供だろ?子供に優劣順位なんてつけるんじゃない!


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