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10話



魔王陛下からの御達しもあり、リザルグ殿の娘の夫(オレ)探しは慌ただしく始まった。


城中も騒がしくなり、みな、躍起になっていた。その頃氷那斗はというと、城の畑でいつもどおりに仕事をしていた。⋯⋯ラティシア嬢を慰めながら。


いつも泣きながらやってくるラティシア嬢を見ていると、段々いたたまれない気持ちになっていった。



(⋯⋯オレ、余計なことをしてしまったかね)



闘ったのは自分なのだから、自ら名乗りでない限り決して見つかることはないとわかっている氷那斗とは違い、ラティシア嬢は、いつ見つけて連れてこられるのかとビクビクしているのだ。


あんな化け物の絵姿を見せられたのだ、尚のこと恐怖が増してくるのだろう。氷那斗だってそうだ。


目の前で泣くラティシア嬢を見ていると、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。お袋に知られたら絶対に殺される。



「えっと⋯⋯ラティシア嬢」


「は⋯⋯い。申し訳、ありません。ヒナト様の、お仕事の邪魔、ですよね⋯⋯っ」


「いや、そうじゃなくてですね⋯⋯その、オレ━━━」


「ミルヒシュトラーセ公爵令嬢!」



意を決して口を開いた氷那斗の言葉と被せるように、駆け込んできた兵士がラティシア嬢のことを呼んだ。


何事かと振り返った氷那斗とラティシア嬢に、兵士が慌てたように言った。



「い、いま、ミルヒシュトラーセ公爵がこちらの方に向かっておられますっ。お出迎えに行かれた方が━━━━」


「━━━その必要はねえ」



兵士(恐らく門番だろう)の言葉に少々喰い気味に言葉を被せたのは、あの日、氷那斗が対峙したミルヒシュトラーセ公そのひとだった。



「お、父様⋯⋯」


「公爵様!」


「あ⋯⋯」



顔を青ざめるラティシア嬢と兵士もとい門番の叫びにも似た震えるような声の後に、氷那斗はつい間抜けな声を出していた。


リザルグは氷那斗の方をちらりと見ると、ラティシア嬢に向き合って気怠そうに言った。



「お前、何やってんだよ?」


「お父、様⋯⋯その⋯⋯」


「相手が決まった未婚の娘が若い男とともにいるなんぞ。そんな恥知らずの節操なしに育てた覚えはねえんだがな」


「⋯⋯っ」



リザルグの冷たい言葉に、ラティシア嬢はぎゅっと唇を噛み締めて耐えていた。なぜ、父親とはいえ、ラティシア嬢がこんなに貶されるようなことを言われなければいけないのか。


⋯⋯氷那斗は知っていた。毎日泣きながら来ても、その瞳には覚悟の光があった。父親が決めた相手に添う覚悟を、ラティシア嬢は健気にも培っていたのだ。


横暴な父親のやり方に、己れを殺しながらもずっとひたむきに耐えていた。それなのに。



「なんであんたに、ラティシア嬢の人生を決められなきゃいけないんですかね?彼女はこんなにも懸命に、あんたのやり方に異を唱えずに頑張ってるってのに」



少々トゲを含んだ感じで言うと、リザルグは氷那斗を一瞥すると眉を顰めた。



「てめえは誰だ?娘とはどういった関係だ」


「オレは伊葉氷那斗。ラティシア嬢とは、普通の友人ですが?」



語尾に、何か文句あるかという脅しじみた感情を込めた。それを感じ取ったであろうリザルグは唇の端を軽く持ち上げた。



「友人だぁ?はっ、友人なんぞが、親である俺の意見を翻すことなんざできねえよ」


「友人だからこそ、その相手を心配して言ってるんでしょうが。逆に、父親であるあんたがなんでわからないのかねえ?」



ふたりの間に激しい火花が飛び散った。喧嘩上等、てめえは敵だといった不穏な空気が辺りに漂った。


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