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1話



こんにちは。それともこんばんはか?オレはいま、魔界にいます。


そんなわけない?存在するわけがないってか。いや、それがそうでもないんだなこれが。現にオレはいま魔界にいるし、オレの父親は悪魔だからな。


父はとにかく暇なのが嫌いだった。だから、剣や弓といった武術だけでなく料理や茶道華道、なんにでも取り組んではものにしていったらしい。オレも子供の頃はいろいろさせられたっけ。お蔭で平和な人界では不必要なくらいには強くなったな。好きなのは鎌だが、実際に得意なのは剣だったりする。


父も剣が好きだったから、剣術の腕を磨いたらしい。剣の使い手として魔界じゃ有名だったらしいんだが、オレにとってはどうでもいいな。うん。


両親の馴れ初め⋯⋯といっても簡潔になるが、悪魔だった父は歌神である母と恋に落ちたという。最初は互いに相手のことを人間だと思い込んでいたらしいんだが、相思相愛になって人界で同棲したところで相手の正体に気づいたらしい。恋は盲目⋯⋯て、そうじゃないか。


そんで父は己れの両親に反対されてもどこ吹く風で自身の恋を貫き通し、その結果としてオレが生まれたというわけだ。悔しいが、正直そういうところはちょっとカッコいいと思う。


そんなわけでオレは父の両親に会ったことは一度もない。あちら側もオレの存在すら知らないだろうし、それでもオレは構わない。別に会おうとも思わないし。あ、母の両親には会ったことがあるな。あと、母の弟妹たちにも。


母は涼やかな美貌に玲瓏とした声の持ち主で、生まれもった神力が高かったこともあって近寄りがたい雰囲気を醸し出していたらしい。それが原因で男ができず、家族が心配していたんだと。


そんな経緯もあって、父と結婚するということになったときは反対するどころか両手もろてをあげて賛成したとか。父が悪魔であることは気にしなかったらしい。むしろ、娘には神よりも悪魔のほうが丁度いいかもしれないなと楽観的に笑っていたという話だ。


そして父とは母は一緒になるためにそれぞれの生まれ故郷である神界と魔界から人界に移り住んだんだと。


そしてオレか生まれたわけだが、人界で生まれた影響か神魔として生まれるところを本来の面差しとは別の容貌をした仮の姿、つまり人間として生まれた。


人間としての姿は、軽いクセのある茶髪に榛色の瞳をしている。オレとしてはこっちの姿のほうが落ち着くから好きだ。


なんせ本来の神魔としての姿は両親が神と悪魔なこともあって日本では目立つ目立つ。黒髪に翡翠の髪の裏(インナーカラー)だぞ?素でそんな髪色してる奴なんていないだろ?


そんで瞳の色は父と同じ紫と藍の左瞳と朱と金の右瞳でダイクロイックアイ。すごく珍しい目なんだぜ?ちなみに、目の形は母親似で、高い鼻と少し薄い唇は父親似だとよく言われる。


前に叔母さんが『さすが神々しい姉さまと、凛々しい義兄にいさまの子供ね♪毅然とした面差しに厳かな立ち姿。あでやかな美貌!それでいて表情豊かで飄々としてるから姉さまたちとは違って、周囲との壁を作らず打ち解けやすいのだから最高だわ!もう、なんとも言えないくらい堪らなくおいS⋯⋯』なんてよくわからないことを延々と言いながら悶えてたな⋯⋯どういう意味かね?


⋯⋯話を戻すがオレは悪魔である父の血を継いでいるからか、たまたま来日していた祓魔士エクソシストに消されそうになるわ通りすがりの女性に悲鳴を上げられ警察に通報されそうになるわで録な目に遭ったためしがない。


とまぁなんだかんだあって、高校三年生になったオレは就職先を探して求人を学校や店を彷徨さまよっていたわけだ。そしたらその時、突然、目の前に上等な身なりの悪魔が現れたってわけだ。


何も見えていないふりをして立ち去ろうとしたんだが、結局は捕まって文句を言う暇もなく魔界まで拉致られたというのが大まかな流れだ。まったく、はた迷惑な。


拉致られたときのことを思い出してオレが不機嫌そうな顔をしていると、扉からオレを拉致した悪魔が現れた。そしてその後ろから十歳くらいの男の子が続いて現れた。


訝しげな顔をしていると、オレを拉致した悪魔がオレに見下したような目を向けて言った。



「此方は魔王陛下の第十三王子、リオル様だ。魔王陛下のお城の下働きとして連れてきた貴様ごとき人間風情を、魔王陛下のご子息たるリオル様がわざわざ見に来てくださったのだ。無礼な振る舞いは慎め」



勝手な言い草だなこいつ。何言ってんだかね?



「⋯⋯は?それならオレじゃなくて他の悪魔を連れてきて下働きにすればいいでしょうが。何もオレみたいな人間風情・・・・なんかじゃなくて」


悪魔手ひとでが足りんのだ!いいからつべこべ言わずに従え!人間の分際で生意気な口を叩くな!」


「⋯⋯はぁ」



人間風情なんて言うくらいならもっと探せよ。王城に釣り合う悪魔を。てか第十三王子って、祖父母はまた子供作ったのか?⋯⋯いや待てよ。まだ子供がいるんじゃないだろうな。第十四王子とか第十五王子とか。それとも王女か?


ん?あぁ、そういえば言ってなかったか。オレの父は魔界の第二王子だったりする。名前はレークヴィレムで、確か親父がいた頃は王子は五人、王女は三人しかいなかったと聞いていたんだが⋯⋯ということはまさか。オレ、血縁者に仕えることになるのか?うわぁ~⋯⋯まぁいいがね。


変なとこを父親に似たオレは、楽観的で享楽主義だったりする。だから、それはそれで面白そうだと一興を投じることにした。



「⋯⋯ひとつ聞いてもいいです?」


「チッ、なんだ人間」



いや、舌打ちしなくても



「この際なんでオレだったのかという質問は省きます。魔王陛下の子供は、王子と王女でどれくらいいるんですかね?」


「ふん、王子は第十四人、王女は十一人いらっしゃる。それがどうした」


「いや、別になんでも」



ていうか幾らなんでも子供作りすぎだろ。そりゃあ神と等しい時を生きるからって限度というものが⋯⋯うん、ないな。親父とお袋、どこの新婚さんかってくらいあつあつだから、の両親である祖父母が同じであってもなんの疑問も湧かない。というか子供ができにくい悪魔のくせに、二十五人も作るなんて。


親父とお袋が結婚したのは確か八十年ほど前のことだから、今年で十八のオレの存在からして、どれだけ長寿である両親から子供ができにくいかよくわかるだろ?それを、同じ八十年で十七人も作るなんて⋯⋯


げんなりとしているオレを、第十三王子がじっと見ていた。黒いサラサラの短髪に、翡翠色の瞳をしている。



(なんていうか⋯⋯夢も希望もありませんて顔だな。それに生気も薄い)



悲愴モードな第十三王子⋯⋯もといリオル王子は冷めた目でじっとオレを飽きることなく見続けていた。


さすがのオレも居心地が悪くなって口を開いた。



「⋯⋯オレの顔に何か付いてます?」


「おまえ、名は?」


悪魔ひとに名前を尋ねるときは自分から名乗りなさい。それが礼儀ってもんです」



幾らなんでも教育がなってないだろう。祖父母は、育児放棄でもしたのか?


呆れたような顔をしたオレに、オレを拉致した悪魔…(多分文官とかだろうから以下文官で)が顔を真っ赤にして怒鳴りつけてきた。煩いですね、文句を言うくらいなら子供の躾くらいちゃんとしやがれ。



「っ、貴様!王子に向かって無礼な!」


「⋯⋯でも、嫌いじゃない」



激昂する文官の男とは裏腹に、リオルは少し微笑んだ。そして、姿勢を正す。



「魔王陛下の第十三王子、リオル=ヘクマティカ⋯⋯なんかおまえ、他人て感じがしない」



そりゃあんたの甥だからな、というのは勿論言わない。オレは自分の父親が第二王子だったことを言うつもりはない。



「ご丁寧にどうも。オレの名前は伊葉氷那斗いばひなと。歳は十八です」



ちなみに、本来の名前はギスラン=ルキアロス=イヴァン。名は体を表すと言うが、オレの場合カッコイイのは名前だけ。当の本人はこんなに飄々としてますからね!

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