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学校怪談

旧校舎の華子さん

作者: 円坂 成巳

 -1-



 高校のトイレが改修されました。

 水洗の洋式トイレ、もちろんタッチセンサーにウォシュレット付き。手洗いには温風の出るハンドドライヤーも完備。

 こんなトイレでもやっぱり幽霊の噂はあります。

 我が校のトイレの幽霊は華子さんです。花子さんと同じ読みですが、少しだけ優雅な感じがします。

 トイレ改修と同時に花子さんも新しくなった、というわけではなく昔から華子さんなのです。改修で、トイレの方が華子さんに相応しくなったと言えるでしょう。

 でも、私は華子さんの本当の居場所はトイレではないということを知っています。

 華子さんは、学校の七不思議でトイレに出ると言われていますが、本当の居場所は違うのです。


 華子さんの居場所は旧校舎でした。


 旧校舎と私たちが呼んでいるのは正確には文化棟です。元々旧校舎の別棟であった文化棟が残され改修されて、新校舎と渡り廊下で繋がっているのです。

 美術室、音楽室、図書室などが集まり、文化部の部室も入っています。

 この建物には、一階の奥に歴史資料室というスペースがあり、旧校舎の歴史ある教材、学校や地域の歴史資料などが保存されています。

 この歴史資料室には、当時の生徒たちの学習机も保存してあります。

 その中に華子さんが当時使っていた机があるのです。

 そこで私は華子さんと出会ったのです。


 ちょっとだけ人見知りで、うまくみんなと馴染めていない私は、休み時間は文化棟二階の図書室にいることが多かったのです。

 何か気になる本がないかと、あてもなく本棚を眺めていたところ、あのノートを偶然見つけました。

 旧校舎が改修されたばかりの十五年ほど前に書かれたもの。

 手書きの綺麗な文字で、当時の七不思議が記録されていました。今と同じものもあれば全く違う七不思議もノートに記載されているのです。

 ノートの持ち主は、雛森今日子さんというだいぶ昔に卒業した女性の先輩で、趣味で記録したもののようでした。

 雛森先輩は、怪談の内容だけでなく、その怪談の由来や変遷も考察し記録しており、文才がある方だったのでしょうか、読みものとしても面白く私は興味深くそのノートを読んだのでした。


 その中に華子さんの話があったのです。

 華子さんは、戦前の生まれで華族の血を引く名家のお嬢様でした。この高校の前身である女学校に通っていましたが、病気のため在学中に亡くなったそうです。

 ここまでは、トイレに出るという現在の怪談と同じです。しかし、ノートには知らない情報も書かれていました。

 華子さんは、人と関わるのが苦手な女の子で、本が好きでよく図書館にいたそうです。病弱で学校に来れないことも多かったようで、結局、在学中に病気で亡くなったのだそうです。

 華子さんは、死ぬ前にもっと友達を作り学校生活を楽しみたかったと泣いていたそうです。

 その無念さから、学校に住み着く幽霊となり、友達になってくれる生徒が現れるのを、自分の机でずっと待っているのだそうです。


 ノートを読んで、私は、華子さんと友達にならなければならないと思いました。


 しかし、華子さんの机とはいったいどこにあるのでしょう。まだ現存しているのでしょうか。

 ここで私はぴんと来たのです。

 現在の七不思議でも、歴史資料館の隅に展示された古い机に女性の幽霊が出るという話があるのです。

 この机は女学校時代に実際に教室で使われていたもので木製で今よりも小さめです。

 華子さんの本当の居場所は、トイレではなく、旧校舎の歴史資料館の机なのだと確信しました。


 ノートには、華子さんと会う方法も記されていました。華子さんは恥ずかしがり屋ですから、声をかけようとしても人が現れると消えてしまいます。

 ですから時間をかけて仲良くなる必要があります。お嬢様ですから、優雅な方法が必要なのです。

 華子さんと仲良くなる方法、それは文通です。手紙を書いて、これを旧校舎の華子さんの机の引き出しにいれると、華子さんから返事が返ってくるのです。文通を続けて華子さんとの距離を縮めれば、華子さんと会えるのだとノートには記されていました。


 交換日記だ、そう思いました。


 私は、縦書き用に罫線の引かれた日記帳を購入すると、日記帳に、自分の名前と、華子さんと友達になりたいという内容のことをつらつらを書きつけて、人に見つからないようにこっそりと華子さんの机の引き出しにしまったのでした。


 日記帳を机に入れた翌日、私はずっと興奮していました。なぜだか華子さんから返事が来ているはずと確信していたのです。


 放課後、まっすぐ歴史資料館に向かいました。部活動をしている時間は旧校舎は施錠されませんので、時間には余裕があります。

 歴史資料館にはめったに人はいませんが、私は慎重に人に見られないように机の引き出しを開けました。

 どきどきしながら日記帳を開くと、私の書いた次のページには、確かに返事が書かれていたのです。


『お友達になりましょう』


 綺麗な鉛筆文字でした。返事は一言だけでしたが、私は嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。

 それから、私と華子さんの交換日記が始まったのです。

 華子さんからの返事は、早くて一日、遅いと四日ほどかかることがありましたが、必ず返事は返ってきました。

 華子さんは、自分のことはあまり語ってくれません。

 たいていは私が日記のように毎日のことを書き、華子さんが一言返事をくれます。

『よかったね』

『大丈夫?』

『元気出して』

『応援してるよ』


 でも私が読んだ本のことを書くと、華子さんはいつもより長い返事をくれるようになりました。華子さんも本が好きだったのです。

 華子さんは泉鏡花が好みだというので、私も読んでみました。古くて読みづらそうと読まずにいたことを後悔しました。また華子さんは江戸川乱歩が好きでよく親の目を盗んで読んでいたそうです。これは私も好みでしたので、好きな作品のことを日記に書きました。

 そうしてだんだんと互いに打ち解けてきたかと思うとうれしくてしょうがなかったです。

 華子さんは私が失くしたものの場所を教えてくれたりもしました。そんなとき、華子さんは幽霊だったということを思い出します。


 華子さんのことは誰にも秘密でした。私の私だけの友達なのです。


 -2-


 人に馴染むのが苦手な私ですが、別に孤独を愛しているわけではありませんし、友達が欲しくないわけではありません。

 友達と何を話せばよいのかわからないのです。

 二年生になったとき、新しいクラスでは、もちろん私は自分から周りに話しかけることもできずに、一人で俯いていました。そんな私を、A美、S子、T江の三人が仲間に入れてくれました。

 いえ、目をつけられたというべきでしょうか。クラスでも目立つ可愛い女の子たちでした。私が上手く話せなくても、テレビの話題について行けなくても、流行りのファッションを知らなくても、関係ありません。彼女たちがほしいのは、自分たちより下の立場でいつでもばかにできて、言うことに従ってくれる都合のよい友達。私がほしかったのはクラスの居場所。

 私は、あの三人に言われれば嫌なことでもなんでも断れずに、言うことを聞いていたものでした。

 宿題を私のほか三人分仕上げておくのは当たり前です。掃除も変わってあげました。購買に飲み物を買いにいくのもいつも私です。もちろん代金は私が持ちます。

 でも、私のような人間の友達でいてくれるのだから仕方のないことだと思っていたのです。

 なにしろ、少し馬鹿にされても、使いぱしりで下僕のような立場にいても、あの三人の仲間だというだけで、私はクラスの皆にも受け入れてもらっていたのです。

 状況が決定的に変わったのは、中間テストのあとでした。私は今までで一番の成績を収めました。

 グループで一番成績がよかったA美よりもよかったのです。ずっと中の上から抜け出せなかったのがついに上の下に抜け出せた感覚。

 でもA美はそれが気に食わなかったのですね。


「あんた、最近調子にのってんじゃないの」


 A美のその一言で全てがかわりました。


 原因は成績のことだけではありません。A美が熱を上げていた、隣のクラスのO君が私のことをかわいいと言っていたらしいということが後にわかります。それが本当の原因だったのでしょう。私はA美ほど美人ではありませんがそこそこかわいいほうかなと自負していますし、男の子からかわいいと言われればうれしいです。しかし、そのときはO君本当に余計なことをしてくれたと思いました。


 A美の態度が変わり、クラスの雰囲気も変わりました。

 初めは陰口に無視。私がO君に告白して振られたとか、A美たちの悪口を言っているとか、根も葉もない噂を立てられました。

 体育などグループ分けが必要な授業では、どのグループにも入れてもらえなくなりました。

 靴を隠されました。体操着を隠されました。筆入れはゴミ箱へ。机には落書き。

 トイレに入っていたら、上から水をかけられたこともあります。

 ウザい、キモいは当たり前です。

 私が困っていると、みんなクスクス笑っています。

 存在を否定されている気分でした。味方がいない、息が詰まりそうな日々でした。別に何も悪いことをしたわけではないのに。

 学校に行こうとして、足が震え、呼吸が苦しくなり、吐き気を覚えて、それでも無理やり学校に通っていました。

 こんなことなら、初めから一人でいればよかったのにと後悔しました。そう、私が愚かだったのです。ちょっと寂しいからといって、友達がほしいからといって、世界のちがう女の子たちに混ざって、自分も普通にクラスに馴染めるのだと勘違いしていたのですから。

 もう限界が近づいていたのです。


 華子さんと出会ったのはそんなときでした。

 華子さんは私を否定しません。私の言葉を聞いてくれます。私の言葉に普通に答えてくれます。ただそれだけのことが嬉しかった。無条件で味方になってくれる存在がいるだけでどれだけ心強かったことか。

 華子さんとのおかげで私は学校に通い続けることができていたのです。


-3-


 授業が終わると、私は真っ先に歴史資料館に向かいます。周りに人がいないことを確認して華子さんの机の引き出しを開けます。


 日記帳を開くときは、ちょっとだけ緊張します。まだ華子さんのメッセージが書かれていないかもしれませんから。

 その日の日記帳には、ちゃんと華子さんの言葉が書かれていました。


『そんな子たちはひどい目にあえばよいのに』


 心の優しい華子さんにしては珍しい内容でした。

 前の日記では、A美たちから受けた仕打ちを書いていましたから、それを受けてのことでしょう。


『私もほんとにそう思う。事故にでもあえばいいのに』


 私は思ったことをそのまま書き込みました。そのほかに、最近読んだ本の感想などをつらつらと書きつけ、そのまま華子さんの机にいれます。


 次に日記を確認したのは二日後。書いてあったのはただ一言でした。


『まずはS子』


『S子がどうしたの?』とだけ書いて、その場で日記を机に入れます。このとき、私は無意識に期待していたのだと思います。S子に何かが起こるのではないかと。


 だから次の日、S子が駅で階段を転げ落ちたことを聞いても驚きませんでした。怪我は打撲程度でしたが、当校してきたS子は、包帯に湿布で痛々しい姿でした。誰かから背中を押されたと言っていますが犯人は見つかっていまさん。

 

 華子さんだと私は確信しました。華子さんが仕返ししてくれているのです。

 どうせなら、もっとひどいことになっても構わないと思いました。

 すぐに華子さんの机を確認しに行きました。書いてあったのはまた一言だけ。

 

『次はT江』


 T江は自転車のブレーキが故障して坂道で止まれずあわや車通りの多い交差点に進入に突っ込みそうになったところで、電柱にぶつかり難を逃れました。腕を骨折し、体中が打撲と擦り傷だらけになりました。

 

 次はA美だと思うと、昏い喜びを抑えられません。交換日記に『次はA美』との言葉を見つけると、笑いがこみ上げてきます。ええ、静かな歴史資料館で下品に笑うなんてできませんから、こらえましたけれども。

 その週のおわりには、校舎の屋上かどこか高いところから、花瓶が落ちてくる事件がありました。A美を掠めるかのように落ちてきましたが、残念ながらA美には当たりませんでした。本当に残念でした。

 週末のうちにA美に別の天罰がくだることを期待して土日を過ごしました。


 週をあけての憂鬱な月曜。期待に反してA美は無事に登校してきました。落胆しましたが、我慢して無理に笑顔を作って「おはよう」と挨拶しました。挨拶しないとすぐに「挨拶もないの」と文句を言われかねないですから仕方ありません。しかし、この日、不思議とA美たちは私に絡んできませんでした。


 授業がおわり旧校舎に日記をとりに来ると、日記が机の中にありませんでした。こんなことは初めてでした。私が焦っておろおろしていると、背後から声をかけられました。

 声をかけてきたのはA美でした。


「何探してんのかな」


 私は、歴史資料館で、A美、S子、T江の三人に囲まれていました。


「じゃま」


 A美は私を突き飛ばすと、華子さんの机の側面に足を組んで腰かけます。


「これを取りに来たんでしょ」


 A美が持っているのは、私たちの交換日記でした。


「返して」


「馬鹿じゃないの、華子さんなんていないのよ。S子の背中押したのも、ブレーキ壊したのも、花瓶落としたのもあなたでしょ」


「私じゃない」


「S子が階段から落ちた日なんだけど、うちのクラスの子がね、あなたが駅にいたの見てるの。あなた普段は駅使わないでしょ。気になって聞き込んだら、T江の事故の日もあなた駐輪場でうろうろしてたみたいじゃない。花瓶のときはわからないけどね」


 そんな記憶はない、私じゃない。私をはめようというのだろうか。というより、私に恨まれているであろうことを彼女らが自覚していることに少し驚きを感じた。


「一人芝居で手紙書いて、頭おかしいんじゃねーの。キモすぎ、さっさと死ねよ」


 S子が口汚く悪たいをつきます。


 何を言っているのでしょう。華子さんはいるのに。


「華子さんは、いるよ」


 私が呟くと、三人はぽかんとした顔を浮かべました。うふふとA美が笑って、日記帳を私に突きつけます。


「いじめすぎてほんとに頭おかしくなっちゃったのかしら。よく見てみなさい。これ全部あなたの字でしょう」


「え」


 私の字。いやそんなはずない。華子さんはいるのです。これまで、ずっと私の相談にのってくれて、私のために仕返しを伝ってくれていて。


 でも、A美のいうとおり、そこに書いてある華子さんの言葉は、私の字としか思えませんでした。


「うそ」


 いや、頭のどこかではわかっていたのです。幽霊と文通なんておかしいのということは。


「いま土下座して謝ればさ。まあ許してやらないこともないよ。パシリがいないといろいろ不便なのよ」


「謝らなかったらこれからもっとひどいよ。どうしたらいいかお利口さんならわかるでしょ。私らより成績もいいんだから」


 S子もT江も、私に認めるよう迫ってきます。


 頭が混乱しています。本当に華子さんはいなかったのでしょうか。

 図書館で見つけたノートに書いてあった戯言に影響されて私の妄想が生み出したものだったのでしょうか。

 絶望的な気分です。A美たちの軍門に下るかどうかなんてどうでもいいのです。華子さんがいるのかいないのか、それだけが重要なのです。

 とはいえ交換日記の字が、私自身の字だという事実は変えようがありません。いま自分で確認してしまいましたから。

 私が自分で一人芝居をしていたのでしょうか。これまでの交換日記の内容が頭の中をぐるぐると回ります。


「あ」


 思い出しました。華子さんは日記で,私の知らないはずのことも教えてくれたではありませんか。例えば、失くしたものの場所、A美らのいじめで隠されたものの場所。そうだ、やっぱり華子さんはいるのではないでしょうか。


 考えてみましょう。

 そう、華子さんが私に取り付いて、身体を使っていたとすればどうでしょうか。そうであるならば、交換日記の字が私の字であることも、私が事件現場で目撃されたことも、私が身に覚えがないことも全て説明がつきます。


 ほら、見てください。A美の隣になにか見えませんか。白いもやもやしたもの。女の子のように見えます。昔の制服を着た黒髪の美しい女の子です。

 華子さんです。やっぱり華子さんはいたのです。すごくきれいな女の子です。


 私が笑顔になったのを見て、A美は怒り出しました。


「何笑ってんだ。なめてんのか」


「うふふ」


 なぜ彼女らは気づかないのでしょうか。私は教えてあげることにしました。


「いるよ、華子さん。そこに」


「はあ、あんたやっぱりどっかおかしいんだね。まあいいよ」


 A美は、すたすたと、資料室を出て行きます。


「待って。日記帳を返して」


 私はA美を追って走りますが、A美も駆け足になり外に出て行きました。私が追いすがると、A美はライターを取り出します。


「止まりな」


 A美は交換日記を地面に置くと、火をつけるそぶりを見せました。


 私は止まるしかありませんでした。


「やめて。お願い。大切なものなの」


 しかし、A美は止まりませんでした。どこから準備したのかわかりませんが、カバンからペットボトルを取り出し、中の液体を日記帳に振りかけます。そのままライターで火をつけます。


「やめて」


 私は駆け寄りますが、時すでに遅しです。灯油か何かでしょうか、可燃性の液体は簡単に着火し、日記はあっという間に燃えていきます。


「やだ。なんで。うっく」


 私は泣くほかありませんでした。


「泣いてる暇あんのかよ」


 A美は意味ありげなことを言っています。

 後ろの方でがごん、と大きな音が響きました。


 振り向くと、そこにあったのは、ばらばらになった机。


「え」


 S子とT江と見たことのある男子生徒が二人、屋上からにやにやとこちらを見降ろしていました。


「あ、ああ」


 華子さんの机です。資料館の机を持ち出して、屋上から放り投げたのです。


 A美は、先ほどの液体を今度は机の残骸に撒いていました。そして火がつけられます。


 私はその様子を放心してみていることしかできませんでした。


 家に帰って、ベッドに顔をうずめ、泣いて泣いて、また泣きました。

 あの机がなくなった今、華子さんはどうなってしまったのでしょう。おそらくは、消えてしまったのではないでしょうか。

 そういえば、ふと思い出します。私の机には予備の日記帳が一冊だけありました。

 日記帳を開きます。もちろん、ページは真っ白。

 私は、失われた日記に書いてあった華子さんとのやりとりを頭の中で反芻しました。

 また、ぽろぽろと涙がこぼれてきました。

 

『華子さん、会いたいよ』


 それだけを書いて、日記を閉じました。

 明日は、学校に行けるでしょうか。これから生きていけるでしょうか。私には自信がありません。


-4-


 夢を見ました。何かが燃えています。燃えているのはA美です。赤々と燃える炎の中で泣き叫んでいます。

 それを見つめているのは私です。私の顔は憎しみに彩られていることでしょう。

 私の傍らにいる白い影は華子さんです。


 目が覚めました。眠れないと思ったのにいつのまにか寝ていたようです。泣き疲れて寝てしまったのでしょうか。


 さっきまで見ていた夢が頭に焼きついています。焦げ臭いにおいが、鼻に残っているような気がします。

 A美を燃やしてやりたい、そんな思いが夢を見せたのでしょうか。


 時計を見ると、まだ三時過ぎ。すっかり目が冴えてしまいました。


「え」


 私の机に誰かが座っています。もやっとした影ですが、髪の長い女性で、きれいで、制服を着ています。にこっと笑って消えました。


 日記帳に書いてあります。


『だいじょうぶ。ここにいるよ』


 ああ、また涙がこぼれます。でも、これは嬉し涙で。こんなに泣いて、私の体は大丈夫なのでしょうか。

 これからは、華子さんはここにいるのです。私と一緒にいるのです。


 身構えて学校に行くと、皆が騒いでいます。A美の家が火事にあいました。


 A美が、亡くなりました。


 華子さんがやったのでしょう。日記と机を燃やしたのだから当然の報いです。

 S子もT江も、それからあの名前も知らない男子生徒二人も、きっと許されません。

 日記にも書いてありました。『次は誰にしようか』と。

 華子さんの机を放り投げたのですから、きっとどこか高いところから落ちるのではないでしょうか。


 そうそう、忘れてはいけません。隣のクラスのO君がデートに誘ってくれたのです。「こないだはありがとうって」ってなんのことだかわかりませんが、これも華子さんの仕業なのでしょうね。帰ったら華子さんに聞いてみなければなりません。


 というわけで、華子さんはトイレにも旧校舎にもいません。いまは私と一緒にいるのです。これからもずっと一緒です。

サイコホラーっぽいのを書きたくなりました。また、華子さんがいるのかいないのか解釈の余地が残る作品にしたかったのですが、もやもやとしてしまったかもしれません。そのへん感想あるとうれしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] う〜ん。果たして自分がひどい事をしたくないから華子という女性を作ってその人格に変わりにさせたんかホンマにいるんか微妙やな〜 いい感じやけどもっとフラグがあって第三者の視点もあったらなお良かっ…
[一言] 華子さんは、トイレではなくて、旧校舎にいるっていう内容が、現実味を帯びていて、興味をそそりました。 ずっと一緒にいることになった二人。 これからどうなっていくのでしょうか? 華子さんはずっと…
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