魔王復活にバイト中の勇者 ー9ー
エリスはパートナー契約の交渉が三度だと以前に聞いていたので、これを逃したら契約出来ないと、手を洗ったサイガとすぐに契約を済ませた。『コンプリート』という言葉の後、エリスとサイガの右腕に契約の腕輪が生み出された。
「これで一応は契約完了ね。戻るまでの時間は部屋に来るといいわ。色々と聞いておきたい事もあるし」
エリスとサイガの契約が完了したとしても、今は交渉の時間であり、サイガは十五分を過ぎると魔界に強制的に戻される事になっている。
「それは良い考えだと思うんだが……ここがエリスの家なのか?勇者の家だから、もっと良い家に住んでいるとばかり」
サイガは周囲だけでなく、案内された部屋を見ると勇者が住んでいる家とは思えなかった。
「ここ全部じゃなくて、この一部屋が私の家なの。勇者だからって金持ちと思わないでよね。平和な世の中で勇者って全然意味を成さないし、そのせいで色々と迷惑してるんだから。それよりも何であんな場所から何度も出てきたわけ?変態としか思わないわよ」
「あんな場所?あれは別世界へ行くための移動装置なんだろ。あそこから出てくるのは当然じゃないのか?」
「本気で言ってるわけ?どう見てもトイレでしょ」
サイガは本気で便器を移動装置だと思っていた事にエリスは驚いた。つまり、サイガは最近の便器を一度も見た事がなく、どういった物なのか知らなかったのだ。
「……トイレ!あんな形をしているわけ……W・Cはワールドチェンジの略称じゃないのか?」
サイガはトイレという言葉は知っていたようだが、便器があんな形をしていたとは想像してなかったようだ。
「トイレの別名よ。ワールドチェンジじゃなくてウォータークローゼット、洗面便所って意味よ。普通は騙されないと思うけどね」
「何百年も眠っていたんだから仕方ないだろ」
サイガは小さな声で「騙したな、アイシャ」と言ったのだが、それはエリスには聞こえていなかった。
「何百年って……何言ってるのよ?サイガって名前だし、元魔王なんて書かれていたけど、それが本当だとでも言いたいわけ?」
エリスはサイガを魔王だとは思えなかった。アニメの姿と違うのもあるが、人の姿と何も変わらないし、魔力をあまり感じる事が出来ないからだ。
「魔王とは思われず、変態とばかり呼ばれる……どう思われようと魔王なんだからな!勇者であるお前と契約出来たのが、その証拠だろ!」
サイガはそう言いながらも体が消え始めた。交渉の時間が過ぎようとしているのだ。
「……時間か。とりあえず、俺はお前が通っている学園に行く事になるだろうから……」
サイガは急いで言葉を進めようとするが途中で終わり、エリスの前から姿を消し、魔界に戻った。