残虐の策略 魔王倒されるー10ー
「アイシャ……来てくれたんですね。サイガが……」
マキナはアイシャが駆けつけた事で、安堵の顔を向けた。
「安心してサイガに回復魔法を施しておけ。応急処置にはなるはずだ。少しの間、私がガイエルと遊んでやる」
アイシャは『かかってこい』と手を寄せ、ガイエルを挑発した。
「アイシャ……知らない名だな。年月が経つと相手が魔王の一人だと分かりながらも、勝てる気でいようとはな。先程の攻撃は加減した。少しでも保つ事が出来ると思うな!」
ガイエルは杖や魔導書なしで詠唱を短縮し、無数の闇の炎弾を放った。闇と火の合体魔法であり、キースの声帯だけを利用し、二つの詠唱を同時にしたのだ。
それは先程のように凍らせるためには、こちらも二つの属性を合わさなければならない。炎と水だけでは相殺されるか、威力が強い方が勝つ。だが、他属性の組合せ次第で威力が倍増し、一つの属性では太刀打ち出来ない。
だが、アイシャは合体魔法どころか、魔法の詠唱をしていなかった。
「二つの声を操れるようになった俺様に、一つの声しか持たないお前に勝てる要素は何一つないんだよ!」
「それはお前の中だけの発想だな。声だけが言葉になると思うな。時の流れに魔法は進化しているのだ」
アイシャは指で魔法陣を描くと同時に、足の動きでも魔法陣を描いた。それはアイシャが開発した魔法の発動式であり、アイシャの魔力量だからこそ出来る。
そして、氷の竜巻を生み出しただけでなく、光属性を練り込ませた。吸血姫であるアイシャは、太陽の光に耐性をつけた事で光属性の魔法も使えるようになっていたのだ。
それによって、闇炎弾を凍られて粉々にするのではなく、氷の矢へと変化させ、跳ね返した。
その氷の矢には、ガイエルに避ける隙を与えなかったのだが、一矢も当たる事がなかった。それは死体がガイエルの身代わりとなったからだ。




