魔王復活にバイト中の勇者 ー8ー
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午後七時、本日のバイト時間を終えたエリスは賞味期限切れの残り物の弁当を貰い、城下町から一時間ほど離れた場所にある旧市街にある自宅へと自転車で帰宅した。
城下町は自動車やバイク、バスや魔獣便が走っているだけでなく、夜の闇に光を照様々なライトが鮮やかであり、昼とは違った雰囲気を出している。
そんな中を、エリスはどこにも寄る事はしなかった。城下町から旧市街に向かうと、華やかでありながらも発展したコンクリートで埋め尽くされた街から、暗闇で静けさが広がる木造の街へと切り替わる。
旧市街に住む者は発展に取り残された者や老人、貧しい者達がすんでいる場所。その旧市街にある木製の二階建て、風呂がなく、共同トイレのマンションの二○一号室にエリスは住んでいる。部屋はワンルームでテレビや娯楽の物は何一つなく、生活に必要な最低限な物が置かれているだけ。天井も雨漏りを防ぐためにブルーシートが被せてある。
エリスは勇者でありながらも貧乏だった。
「あれから来なかったな……諦めたのかな?でも……あの登場の仕方は普通ないでしょ。次は普通に来てくれるはずよね」
エリスがバイトをしている間、パートナー候補のサイガが来る事はなく、念のためにトイレに入ってみたが、前のような反応を見せる事はなかった。
「はぁ……」
エリスは店長に貰った弁当を部屋に置き、一階にある共同トイレに向かい、ドアを開けた。
「ハァ……ハァ……やっと誰もいない時に出てこれたぞ。これでながされずに済む」
「……何でアンタはトイレにばっかり登場するのよ!」
「ち、違う!俺は変態じゃない」
エリスが入ってきた事で、もう一度流されると思ったサイガは一生懸命弁明しようとした。
「分かってるわよ。魔界紹介所から連絡があったわ。アンタが私のパートナー候補だって。まずは先に契約しないと……店長が流したのも入れると三回目になるんだろうし、契約といっても仮だから問題ないでしょ。話はそれからよ」
「……いいのか?」
サイガは契約を成立させるために手を差し出すが、エリスはその手を握ろうとはしなかった。
「手を洗ってからに決まってるでしょ」
トイレから出てきた相手に、手を洗わず握るのはエリスには出来なかった。