死体消失 勇者VS魔王 ー9ー
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サイガとマキナ、シリアが研究施設に行ってる一方で、エリスは暴走化事件の調査をせずに、バイトに精を出していた。
「あの客……一体何様よ。私には喧嘩を売ったのよね。店の中じゃなかったらボコボコにしてやったのに……って、それも駄目ね。手が臭くなるわ」
エリスは髪を束ね、エプロンをするのがいつものバイト姿。店には客が一人いるだけで、レジには立たず、商品についた埃をはたきでおもいっきり払っていながらも、愚痴を呟いていた。
それは今いる客がエリスに勇者なのか尋ねてきたので、それに答えると『大した事ないな』とエリスに聞こえるように言い、その後は欲しい商品を探している。それも一時間は経過しており、エリスに欲しい商品の場所を聞こうともせず、エリスも尋ねる事はしなかった。
それは先程の暴言にムカついているというのもあるのだが、その他にも理由がある。
その客は大きな布のような物で体全体を隠し、顔も見えないようにしている。体型や歩き方などから人間や機人でない事は分かる。魔界の者だからではなく、体から放たれる異臭が問題なのだ。店全体に何かが腐ったような臭いが充満し、窓を開けても臭いが薄まる事もない。そのせいで、客は店に入ってきた途端にUターンしていくのだ。
店長も店にいるのだが、書類整理を名目に奥の部屋に逃げ込んでいた。マキナやシリアのバイトも了承し、暴走化事件の解決するための協力も得られた。そのために、店長は様々な書類を片付けなければならない事があるらしい。そのために、エリスは店の外の掃除に逃げる事も出来なかった。
「おい……さっさとレジに立て」
ようやく何を買うのかを決めたのか、客はレジ前に立ち、商品を置いた。エリスは少しでも臭いを防ぐためにも商品のマスクを開け、渋々レジ対応をした。
客が買おうとしているのは聖骸布という、呪いの進行などを抑える物。過去において、魔族ではなく、人間が使用したとされる。これはパートナー用の物なのかもしれないが、エリスにとってはパートナーとなった者の気がしれないと思った。
「釣りはいらない」
客は金貨を置き、店を出ていく。金は金貨→銀貨→銅貨→紙幣という形で、金貨が一番高価とされている。金貨一枚は銀貨百枚分であり、銀貨一枚は銅貨百枚と、百枚単位で交換する事が可能となっている。
「ふぅ……やっと出ていってくれたわね。お釣りはいらないって言ったんだから、その分は私が貰ってもいいわよ……ね……って、アイツ!」
エリスが邪な気持ちを持ったのが悪かったのではないのだが、客が払った金貨は崩れ去り、土へと変わった。つまり、支払ったのは偽金だったのだ。




