魔王復活にバイト中の勇者 ー7ー
「本当に……私だからこんなので済んでるんだから、捕まるような事は止めてよね」
この店の従業員はエリスだけで、店長と二人で切り盛りしている。エリスがこの店を辞めず、店長を訴えないのには理由があった。
ラキアス学園は特定の条件でアルバイトは許されているものの、学生は学業を優先すべきだと雇ってくれる場所はなかったのだが、この店だけがエリスを雇ってくれたのだ。
「あれさえなかったら良い店長なのに……えっ!」
エリスは溜め息を吐きながらもトイレの扉を開けると、どういう原理か分からないが、少年がトイレの中から這い上がろうとしていた。
「ゲホッ……この移動装置は駄目だ……っと、目の前にいたのか。お前が勇者エリスで間違いないか?」
「こんな場所から出てくる変態が、何で私の名前を知ってるのよ!」
「何でこうも変態と呼ばれないといけないん……だ……待て!まずは話を聞いて」
エリスは少年の話を聞く前に、水を流すために大を捻った。すると少年は回転した後、どこかへ消えてしまった。
「店長!新手の嫌がらせなの。トイレから人が出てきて、私の名前を呼んだんだけど」
「何を言っている。他の者に覗かせるなら、自分で覗くに決まっている」
店長の言葉は力強く、今までの行動を考えても店長ならば自分が覗きに行くだろうと、エリスは考えを改めた。
「……店長なら絶対に自分で覗きにいく変態だったわ。それなら一体誰の仕業よ」
「その通りだが……断言されると悲しいものなのだな。エリスがそう言うなら、私も見てこよう」
店長はトイレを調べに行った。二人しかいないこの店で、店長でなく、エリスでもなければ誰が仕掛けたかという事になる。
「……ウォッ!」
店長はトイレの扉を開けた後、水が流れる音がしてきた。機人である店長はトイレを使用しない。
「驚いた。思わず流してしまったぞ。だが、魔力を感知した。誰かがゲートとして使用したんだろう。そんな膨大な魔力を使える者は限られているのだが」
「店長が入った時にも出てきたんなら覗きが目的じゃないわね。でも、トイレをゲートにするなんて意味が分からないんだけど。簡単にゲートも開けるわけでもないし」
空や海にあるゲートを通るのであれば魔力は必要ではなく、パスポートやパートナー証明書があれば竜や飛行機などで移動する事が出来る。
他には紹介所の移動装置だが、それには連絡があって、人間界の紹介所に行くことになっている。特定の場所にゲートを開くのであれば膨大な魔力が必要であり、ゲート管理に関連する会社の許可がなければ出来ないのが基本なのだ。
エリスと店長は覗いたのが誰なのかを考えていると店の電話が鳴り出した。
「おっと……電話が鳴っているな。もしもし……エリス、どうやら君に用があるらしい」
「私に……一体誰なんだろう?新しいアレじゃないでしょうね。もしもし、代わりましたけど」
「こちら魔界のパートナー紹介所です。ご自宅の電話や携帯をお持ちでないようでしたので、こちらに連絡させていただきました。以前、エリス様にはパートナーとなる魔族や魔獣などはいないとされていましたが、そのパートナーが現れました。その方が契約を求めに訪れる事を連絡しておこうと思ったかぎりです。テレビ電話ではないようなので……ファックスで詳細をお送り出来ますか?」
「あっ……お願いします」
「分かりました。それでは何かありましたら人間界の紹介所へご連絡ください」
魔界紹介所からの電話を切ると、すぐにファックスでパートナーの詳細が送られてきた。
エリスはこの電話には驚いた。以前パートナーがいないと言われた時、勇者だから魔族とは契約出来ないと思っていたからだ。それに他の人とは違い、パートナーを選ぶ事が出来ない以上はこのパートナーと契約するのは絶対に必要となる。相手に別の候補者がいてもおかしくないからだ。
「パートナーが見つかったのなら、何としても契約を結ばないと……えっ!」
エリスはパートナーの詳細を見て、固まってしまった。店長も何事かと覗きこんだ。
「この男は先程の奴ではないか?」
パートナーの顔写真を見ると、トイレの中から出てきた少年だった。しかも、驚くべき事は他にもあった。名前はサイガ=オウマ。性別=男。年齢=十六歳?住所=観光地。職業=無職・学生希望・元魔王。能力=千の魔法、様々な力を使えていた?などの適当とも思えるのが書かれているのだ。
エリスはこんなのが採用されたものだと思うのと、若干不安になった。