悪の始動 王女が魔王の家にやってきた ー16ー
「……生徒ならシリアはどうだ?マキナも魔法戦闘で一緒に戦った間柄だし、エリスも一応知ってるはず……もしくはエリスがバイトしている店の店長とか。マキナをバイトとして雇っている事にすれば理由が作れるだろ」
「どこかで聞いた名前だと思ったら、魔法戦闘でアドバイスをくれた彼女がそうだったんですね。しかし、生徒を巻き込むわけには……」
サイガが魔法戦闘の事を話して、ようやくマキナはシリアが誰なのか分かったようだった。それでも知らないとシリア本人の前で言おうものなら、眼鏡はヒビが入るだけでなく、割れてしまいそうだ。
「私が一応知ってるって……何となく意味が分かったわ。店長と二択みたいなように言うけど、二人共協力させればいいじゃない。毎日同じメンバーだと怪しまれるだろうし、組み合わせ替えていけばいいでしょ」
エリスはシリアがファンクラブの一員だと理解したようだが、シリア自身が誰なのか判断出来ていない。エリスと共に行動出来る時点でOKするのは確実なのだが、エリスがシリアの事を知らないと本人が知れば、気持ちは天国と地獄のような感じになるのだろう。
「確かに二人共入れるのはありかもしれないな。ローテーション形式で組む相手とか、朝と夜の行動もそう出来たらいいかもな」
エリスの考えにサイガは乗る事にした。
「くっ……パートナー同士というのを利用しての多数決ですか……仕方がありませんね。ですが、シリアが了承したらですよ」
マキナは生徒を巻き込む事に反対したが、多数決に乗っ取り、サイガとエリスの案に乗る事になった。多数決でなくとも、生徒という立場なら、サイガやエリスも該当してしまうからだ。
「それとエリスが働いている店の店長に協力を仰ぐ事に関しては問題ありません。私がバイトとして入るのは……」
マキナは小さな声で『楽しそう』と口にしたのをサイガは聞き逃さなかった。本当に店での仕事をするかは分からないが、王女という身分がバイトするなんて事は許されず、学生という立場もある。エリスが特殊といえばそうかもしれないが、憧れがないと言えば嘘になる。
「オホン……バイトするのも事件を解決するためなら許されるでしょう。シリアが了承すれば、私のようにバイトにした方がいいかもしれませんね」
「それじゃ……サイガがシリアに両方頼んでよね。私は店長に頼んでおいてあげるからさ」
「なっ……仕方がないか。シリアには俺が言っておく」
シリアにはエリスが頼むのが一番なのだが、シリアの顔を知らないだけでなく、本当に学園には行くつもりがないようだ。サイガの提案なのだから、シリアか店長のどちらかにも協力を求めに行かなければならない。どちらかを選べとなると、サイガはシリアを選ぶ。
「よし!これで明日の予定は決まったわね。今日の話はこれまで。私はお風呂に入りたいから、サイガは部屋に戻ってよね」
風呂の順番はエリスが一番目と決まっている。エリスがバイトで遅くなる時は、サイガも先に入る事を許されているが、水を入れ替えるように言われてたりする。
「はいはい……部屋から出なければいいんだろ。風呂なんか覗かないってのに」
エリスが入浴している際、サイガは部屋から出る事を許されていない。契約する時に、何度もトイレから出てきたのが悪かったようだ。パートナーだとしても、家族とは違うわけであり、無防備な姿を見られたくないのだろう。
そんなわけで、サイガはエリスが入浴の準備をしている間に、冷蔵庫から飲み物などを部屋に持っていく事を習慣としていたのだが、マキナに止められてしまった。
「すみません。そこは貴方の部屋ではなく、私の部屋にしてもらいました。もう一つは窓がなかったので……エリスからも許可を貰えたので……荷物はきちんと移動させているので安心してください。それと……サイガを信用してないわけではないのですが、私が入浴している時も部屋から出ないでください」
マキナが部屋のドアを開けると、ベッドが設置されているだけでなく、動物のぬいぐるみや小物が目につき、窓にもピンクのカーテンがつけられたりと女の子の部屋に様変わりしていた。
マキナの荷物はカバンの中に入っていただけでなく、実際には兵士達に荷物を持っていかせていたのだ。
そして、移動したサイガの部屋には、無造作に荷物が置かれている状態だった。この部屋にはサイガの荷物以外にも置物があり、必然的に前の部屋よりも狭くなってしまったのだ。
「……何が両手に花だよ。肩身が狭くなっただけだ」
多数決になれば男女に分けられたらサイガが負けるのは必至。反論しても無駄に終わるのだ。
サイガは自分の家の平和を取り戻すためにも、暴走化事件の早期解決を心に誓うのだった。




