悪の始動 王女が魔王の家にやってきた ー11ー
「サイガさんの用も済んだようだし、私は学園に戻りますね。何か分かれば教えますし、サイガさんも教えてくださいね。暴走化事件じゃなくて、エリス様の事でもいいですからね」
「戻るって……学園で事件が起きたんだぞ。解決もしていない。暴走化事件が終わるまで休みになったりしないのか?」
再度学園で暴走化事件が起きないという保障はない。それに会長候補が殺されたとなれば選挙は中断、もしくは一度解散するという形を取ったとしてもおかしくない。
「ラキアスはミクス国一の学園だから、その程度で休みにはなりませんよ。休校になったとしても、生徒達は施設を利用し、研究や特訓のために来てしまいますよ。時間は限られてるから。選挙も大丈夫じゃないかな。失礼な言い方かもしれないけど、事故に遭ったと同じで、その人のためだけに中断とか解散もないと思いますよ。それでは私は行きますね」
シリアも帽子を乗り物へと変化させ、空き地から学園へと戻って行った。
「何だよ……今の人間って、そういうものなのか?」
今の人間は欲深いのか、自分にはそういう事が起きるわけないと思っているのか、それともラキアスの生徒だからと対処出来るとでも思っている者も多いかもしれない。
現にキースは暴走化した相手を裁いており、今回の会長候補が殺されたのも、パートナーが相手だったから動けなかっただけだと勘違いしていてもおかしくはないのだ。
昔の人間界であれば学園を休校にするだけでなく、家から出ないようにもしていたはず。それか種別間の争いが起こるか、壁を作るなどして距離を取ったりするのだが、そういったものはなく、普段と変わらない生活をしている。
サイガも一人で空き地にいても仕方がないので、エリスが待つ家に渋々戻ろうとするとタイミングが良いのか、腕輪が光を放ち、エリスから連絡が入った。
「何やってんのよ!マキナもアンタを待ってるんだから、腕輪を使って、早く戻ってきなさいよ」
エリスはサイガの返答を聞かず、すぐに連絡を切った。マキナがすでに家にいる事が分かっただけでなく、待っているというのはエリスと同居してるのを色々と聞かれるのではないかと思うと、帰るのが嫌になってくる。
それでも早く戻らなければ、エリスに何を言われるかと思い、渋々腕輪に魔力を流し、瞬時に移動する事を選んだ。
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「戻ってきたわね。早速だけど、アンタに頼みたい事があるのよ」
「そうです。私とエリスが作った料理のどちらが美味しいかを、貴方に判定してもらいたいのです」
サイガが移動したのは家の中にあるダイニング。台所は散らかっており、テーブルには得体の知れない物体が数多く揃えられていて、どれも口がつけられていない。
エリスとマキナの言葉から、これらが料理だというのは分かったが、お互いの料理を食べた様子はなく、本人達が味を比べようという気持ちはないらしい。
「……何で……こんな事になってるんだ?」




