悪の始動 王女が魔王の家にやってきた ー9ー
「確かにな……この現場の状況がおかしい。それと……キースが魔族を裁いているところを見た奴はいるのか?」
「キース先輩がですか?最初にこの場所に着いたのは私だから……見てませんよ……ってどこに行くんですか!」
サイガはキースを追いかけるために走り出した。
サイガが疑問に思った事はいくつもあった。暴走化した魔獣にしても、すぐに人間には攻撃せず、建物などを壊す。それは自我が残っているからであり、暴走化を止め、自我を取り戻そうとしているからだ。それとパートナーに攻撃となれば躊躇いが出るはずなのに、壊れたのは一ヶ所だけ。会長候補を殺した時、壁に接していたせいで魔法の威力で壊れたにすぎない。
つまり、今回は躊躇いなどなく、最初から完全な暴走状態になっていた事になるのだが、それも違和感がある。
魔族が暴走状態であれば、大勢の人間を殺すために校門方面へと向かうはず。それなのに魔族は逆方向の人気がない場所へと行こうとしているのはおかしい。キースと戦闘したとしても、死体の向きが逆方向になる。
断頭台の刃の魔法を使ったとなれば、首が落ちるのは足元ではなく上半身の近くになる。逃げる相手に背中から首を落とす魔法を放てば、体だけは前に進もうとして、離れた首は足元に落ちる形となるのだ。
会長候補はパートナーの魔族に殺されたのではなく、別の誰かに殺された。魔族はそれを目撃した事で、その相手に始末された。しかも、暴走化事件を利用すれば罪とはならない者がいる。
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時間の経過により、サイガがキースを追いかけてもどこに行ったのかも分からなくなっていた。地理に詳しくなく、見つけられるはずもなかったが、戦闘が始まったかのような爆発が起きた事で、サイガはその場所に向かった。
「あそこは……空き地になってましたよ。戦闘が起きてるなら、キース先輩がいてもおかしくないですからね」
サイガもの後にシリアはついてきていた。体力や移動速度はサイガが圧倒的に高く、補助魔法を使ったとしても追いかけるために事が出来ないはずなのだが、シリアは被っていた帽子を巨大かさせて乗り物として、風の魔法を使って回転しながらもサイガと同じスピードを出していたのだ。
ただ、シリア本人も回転している。それなのに酔いもせず、普通にサイガに話し掛けているのは地味に凄かったりする。
シリアが爆発が起きた場所にキースがいると思うのは、街で名にかが起きれば警備隊が動くからだ。そして、この現場に一番近くにいる警備隊員はキースとなる。勿論、警備隊がまだ到着しておらず、誰かが暴れている可能性はある。だが、頻繁に暴走化が起きている中で、常にキースが裁いているのならば、駆けつけていてもおかしくはない。




