悪の始動 王女が魔王の家にやってきた ー8ー
「あれ?サイガさんも学園に来てたんですか」
サイガがいる事に気付き、人だかりの中からシリアが出てきた。シリアはサイガの噂を気にせず、ファンクラブのリーダーからも外す事はしなかった。
「ああ……ゼミの教師に呼ばれたんだよ。シリアはどうして学園に来てるんだ?」
休みの日まで、エリスの応援をするためにチラシでも配っているのかとサイガは思ったのだが、シリアが手に持っていたのはチラシではなく、メモ帳だった。
「私は……ファンクラブNo.1でありながらエリス様の応援じゃなく、魔法や魔科学の研究をしていて……この場所に来たのもその一環というか……趣味というか……」
この場所に来ている生徒達は好奇心で見に来ている者もいれば、自身の研究のために調べに来た生徒もいる。シリアもその中の一人なのだ。
死体には僅かな魔力の残滓が残っており、切り口や属性を調べたりして、どのような魔法を使ったのかを自分なりにメモに記したり、写真を撮るなどしている。
「それで……何か分かった事はあるのか?」
「そうですね……私って色々趣味がありまして、推理とかも好きなんです。それで自分なりに事件を調べたりしてるんですけど、暴走化で人が殺されたのは初めてなんですよ」
暴走化事件の被害は建物などの破壊で止まり、人間が殺されるまでには至らなかった。それが引き起こされる前にキースが裁いていたらしい。
「それと暴走化がどんなのか理解していないけど、魔力の残滓と死んだ魔族が持つ属性が違うみたいで、彼を殺すような魔法は使えないと思うんですよ。私達が見たところ、未知の魔法が使用されたみたいで……それに死体というか……何か違和感があって……それが分からないんですけど」
キースは暴走化の相手を確実に仕留めるため、魔法で首を落とす。これは情報にすぎず、シリア自身も魔法を見ていない。この魔族も首を切られ、最初の魔獣もそうであった事から状況は正しいと判断出来る中で、シリアは違和感があると言うのだ。
サイガはシリアの言葉に、再度二つの死体と周囲を確認した。
ここは人気のない校舎裏であり、会長候補の死体は壁に接している状態。その壁の一部が壊されているが、それ以外に破壊された箇所はなく、近くに生えている木々も折れたりしていない。
会長候補の死体とパートナーの魔族である死体とは距離があり、魔族の死体はうつ伏せで倒れている。切り離された首は、上半身ではなく、下半身の足よりも下に落ちている。さらに足の向く方向は校門で、魔族は校門とは逆方向に行こうとしているのが分かる。




