魔王復活にバイト中の勇者 ー5ー
「そういえば、あの魔族が投資とか言ってたが、俺が寝ている間に何かしてたのか?」
サイガが眠っている間に、アイシャが何をしているか気になった。紹介所に投資しているかと思えば、観光ツアーのガイドもしていた。
「大体がお金儲けじゃな。いろんな職業も経験したぞ。それと城にあった宝石や金塊を元手に色々と建設してみたり、紹介所に投資したりとかな」
「そうか……色々してたんだな……城にあった宝石や金塊は俺のだよ!」
普通に話しているようで、思わずサイガの所有物を使った事をスルーしてしまいそうになった。
「お前がいつ目覚めるか分からんかったからな。使わないのは勿体ないじゃろ。おかげでたんまり稼がせてもらった。今では万倍は軽く超えておる。お前には人間界での生活もあるし、元手は返してやるから安心するんじゃな……っと着いたぞ」
蝙蝠達が止まった事で、ここが移動装置のある場所なのだろう。移動装置は城内部にあり、サイガが歩いたのも十分ほどだった。
扉には移動装置の名前なのか『W・C』とプレートに表示されている。
「W・Cとはワールドチェンジの略称じゃ。世界を移動するという事じゃな。この中にある装置は人間界にかなり普及されていてな、一家に一台あるといっても過言じゃないんじゃぞ」
アイシャが扉を開くと、移動装置のような物が置かれているのだが、中は狭く、二人が入れるぐらいの広さしかない。それは装置のちかくに洗面所が用意されているせいだろう。
サイガが先に中に入ると、装置が感知したのか突然蓋が開き、音楽が流れ出した。そして、装置をよく見てみると、椅子のような形をしている。違いがあるとすれば、座る真ん中に穴があり、内部には水のような物が貯まっている。
アイシャも中に入り、装置に付いているボタンの一つを押すと、内部から勢いよく水が流れ、貯まっていた水が渦を巻き、奥にある穴に吸い込まれていく。その勢いは何もかも吸い込みそうで、その先にある穴が人間界に行くためのゲートとなっているとサイガは思った。
「色々と気になるんだが、装置の側に紙が設置されているが、これはどういう意味があるんだ?」
「中に水が見えるじゃろ。移動後にはどうしても濡れてしまうから、それを拭くために置かれておるんじゃ」
「設置するなら、もっと良い物があると思うんだけだ……鏡があるのは身だしなみを整えるためだな。それと……この大小と書かれたスイッチみたいなのは何だ?」
「これは最新の装置ではないんでな。魔界からでは大に捻れば人間界へ行き、小だと機界になっておる。大小とは世界の大きさじゃ。長い間眠っていたせいで色々気になるのは分かるが、そろそろ人間界に行ってもらうぞ」
アイシャは都合が悪いのか、移動装置をこわさせないようにするためなのか、サイガにスイッチを触らせないばかりか、早く人間界に行かせようとする雰囲気を作り出してきた。
「分かったよ。初めてはドキドキするなよ。ここに座ればいいんだよな。座るような形をしてるし」
蓋には二種類の絵が描かかれており、一つは人が装置の前に立っているのと、もう一つは人が装置に座っている場面だった。その絵のお陰でどのように座るのかがサイガにも分かったのだが、アイシャはそれを否定した。絵には文字が書かれているようだが、薄くなって読めなくなっている。
「座るのは女と老人だけじゃ。男は座る部分を蓋が開いたように上げて、中に踏み込むんじゃ。この移動装置は普及している装置とは違い、わしの魔力が必要となっておるから、後はわしに任せるがよい」
サイガはアイシャの言う通りに移動装置に両足を中に入れようとしたのだが、水の中には片足が入るのが精一杯なようで、変な姿勢になった。
「心の準備があるから……俺がいいって言ったら装置を……おい!……早いって……動かし……回る……気持ち悪……何か臭……」
アイシャはサイガが何か言おうとしているのを無視し、魔法を使ってエリスがいる場所にあるトイレへとゲートを開いた。