悪の始動 王女が魔王の家にやってきた ー3ー
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ミクス城の王座の間。そこには王が玉座に座っており、その中央にはサイガとエリスが立たれている。そして、左右の端に槍を持った兵士が達列を作り、サイガ達の方を向いている。
その広間の中にマキナの姿はなく、その代わりに大人バージョンのアイシャが王の側にいた。アイシャはサイガやエリスを見ておらず、欠伸をしている事からどうでもいいと思ってるに違いない。
「勇者エリス、ワーエンドの弟子サイガよ。お前達に頼みが……」
「嫌よ。私は直接本人の前で言わないと駄目だと思ったから、ここに来たまでよ。まず、そっちの頼み方が気に入らない。折角のバイトも邪魔されるし」
エリスは王の言葉を遮っただけでなく、何を頼むかも聞かないままに拒否した。何の抵抗もせずにエリスが来たのも、親衛隊に何を言っても無駄であり、何回も来られてプライバシーを侵害されるのは癪だと思っての事だった。
その言葉にアイシャは口を手で当てながら笑い声を抑えようとするが、側にいる王には聞こえたようで、王は咳払いをして、アイシャに笑うのを自粛させた。
「ふぅ……まずは話を聞いてから……」
「用件はアレでしょ。暴走化の件……その原因を調べて、解決しろとでも言うのよね。魔法復活とか噂されてるし」
「くっ……確かに暴走化の件だが……魔王復活は関係ない。この事件は国内、主にこの街で起こり、他国、他大陸では起きていないのだ。どこかの国が、我が国を混乱させるべく何者かを送ったのかもしれん。それも魔界の者を暴走化される力を持った者を」
魔王復活が暴走化に影響があるのならば、ミクス国以外にも暴走化が起きているはずだと王は判断したようだ。それにアイシャが側にいるのなら、何らかの助言をしたのだろう。魔王であるサイガにはそんな力なんて持っていないと知っているからだ。
「そんなのは兵士とか、警備隊に任せればいいじゃない。街の平和を守っているのは私じゃないし、そんなに暇じゃないのよ」
エリスは勇者らしからぬ言葉を連発した。暇じゃないというのも『バイトがあるから』と言い出しかねない。
「お前は勇者なんだろ?国や街、人々を救うのが役目のはずだ。警備隊は街で起きる暴走化の対処、兵達は他国への警戒のために動かす事が出来んのだ。それに相手が強者であるなら、無駄な犠牲を出すわけにもいくまい」
「好きで勇者になったわけじゃないし……勇者ならどうなってもいいなんて思ってるわけ?一応、私も今はミクス国の住人なんですけど。守ってもらう立場じゃないの」
エリスの暴言に、兵士達は槍を一斉にエリスに向けたのだが、王はそれを下げさせた。
「サイガよ……お前はどうなのだ?同胞が暴走し、己もその可能性がある。どうにかしたいと思わないのか。パートナーの力があれば、それを解決出来るかもしれんのだぞ」
王はエリスには口では勝てないと判断し、サイガに標的を変え、エリスを説得させる方法に切り替えた。
アイシャもサイガを見て、『恩を売るなら今だ』とでも言いたげな視線を送り、エリスはサイガを睨み付ける事でプレッシャーを与えてくるなど、サイガはエリスとアイシャで板挟みになった。




