悪の始動 王女が魔王の家にやってきた ー1ー
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四月七日 無
「本当に……何やってんのよ。キースの評判は上がる一方なのに、アンタはその逆で下がる一方じゃない」
休日はバイトに出る事が許されており、エリスは久し振りに仕事に入ってみると、店長がサボり過ぎたのとエリスが仕事に入れなかったせいで仕事が滞っていたのだ。それを解消するために、この原因を作ったサイガに手伝いをさせていた。
「俺のせいだけじゃないだろ。キースが活躍し過ぎてるんだよ。それに……俺に対する変な噂はお前が流したんじゃないよな?」
魔獣の暴走化はあの一件だけでなく、この数日間に度々起こっており、その全てをキースが殺す事で解決していた。その活躍によって、ラキアス学園のヒーローだと生徒達は言っているのだ。
その一方でサイガはというと、杖を灰にされたオバサンがラキアス学園に来て、サイガに弁償を求めてきた。それだけで済めば良かったのだが、内容が変化しながら生徒達に広まっていき、最後にはオバサンを襲った変態にまで成り下がっていた。
それも、あの時にエリスはサイガを変態扱いしていたからだ。
「パートナーの私も変な目で見られるかもしれないのに、そんな事言うわけないわ」
エリスは変な目で見られる事を危惧しているようだが、エリスとマキナの会計の評判はエリスが一歩リードしている形になっていた。ファンクラブの力もあるのだが、マキナが暴走化の事件があった翌日からラキアス学園を休んでいるのだ。キースも街の警備を優先し、学園を休んでいる。
選挙に立候補や推薦された者は学園を休む事が禁じられているのだが、対策を練るだけでなく、警備の強化をしなければならないため、マキナとキースが休むのは特例として許さており、キースの活躍もそれが功を奏しているのだ。
「噂では魔王が復活したのではないかと言われているな。魔族達もいつ暴走化になってしまうのかと怖がっていたぞ」
店長は客から聞いた事をサイガとエリスに伝えた。暴走化は魔王復活が影響しているのではないと思っている人間が多いらしい。さらに人間に近いのが理由なのか、魔物や魔獣の暴走化は何度もあるのに対して、魔族はまだ報告されていなかった。
「言っておくが……俺は何もしてないぞ。噂に過ぎないからな」
「まだ自分が魔王だなんて思ってるわけ。そんな実力もないんだし、そこを引っ張っても全く面白くないから」
エリスはサイガが魔王であると未だに信じておらず、サイガの冗談だと思っている。店長も本人の前で魔王の復活の噂を言うはずがなく、サイガが魔王だという事を信じていない。
サイガも自分のプロフィールを見せてもらった時、信じてもらえない事に納得してしまった。今の段階でサイガを魔王と知っているのはアイシャと魔界にあるパートナー紹介所にいる男魔族ぐらいだろう。
そのアイシャとも、サイガはこの数日会う事が出来ずにいた。学園にも来ておらず、受け持つ講義の全てが休講扱いになっていた。




