波乱の生徒会選挙 銀髪眼鏡VS魔王 ー18ー
「やれやれ……勇者ともあろう者が助けなければならない者達がいるのにも関わらず、すぐに倒さずにパートナーと口論とはな。だから、貴様は偽勇者なんだよ」
魔獣が動きを止めたかと思えば、宙に巨大な刃が出現した。それは断頭台の刃のようで、罪を犯した者に死を下すかの如く、魔獣の首を切り落とした。
切れた体からは血が噴水のように飛び出て、吹く風の影響からなのか、もしくは殺した相手を示そうとしているのか、またや別の理由があるのか、ある者が浴びる形になった。
あの魔法を放ったのはキースであり、それを示すように魔導書を所持しているだけでなく、魔獣の血を浴びている。さらにエリスを馬鹿にした声は、キースのものだった。
魔獣が死んだ事で、咆哮の呪縛から助けられた者達はキースの周囲に集まり、礼を言っている。
しかし、エリスはキースを怒りを込めた目を向けていた。
「何だ。助けられた事を屈辱だとでも思っているのか?」
「屈辱?そんなのないわ。それよりも……何で殺したのよ。殺さなくても、止める方法はあったはずよ。パートナーが悲しむとは思わなかったわけ」
魔獣の死体は、街の警備隊が到着した事で車に運ばれていく。誰も魔獣が殺された事に疑問を持たないのは、被害者だから殺されて当然だと思っているからだ。だが、エリスは魔獣がパートナーを心配している言葉を聞いた。完全に暴走状態になる前、自我で人を襲わないようにもしていたのだ。
「そのために他の者達の生死はどうでもいいと……勇者の言葉ではないな。魔獣が犯した罪はパートナーにも降りかかる。魔獣が死んだ事でパートナーの罪は消してやる。パートナーも私に感謝するはずだ」
「感謝って……一体何様よ!」
エリスはキースに掴みかかりそうだったが、キースに近付く者がいた。それは助けられた者ではなく、警備隊の一人であり、キースに敬礼した。
「キース隊長、死体の搬入及び、人々の安否の確認が終了しました。戻る準備も整っています」
キースは魔獣を殺した事で罪にはならない。マキナの側近だからという理由ではなく、若いながらも実力を認められ、警備隊の部隊長を任されている。そして、状況において犯罪者を裁く権利を持っていたのだ。
「ふん!……マキナ様がお前達を気にする理由が分からんな。特に偽勇者のパートナー。魔法戦闘で一位になったらしいが、先程の行動を見る限り、マキナ様には遠く及ばない。私相手ではそれ以上にな」
キースは警備隊を引き連れ、死体が搬入された車に乗り、この場から離れていく。そして、何事もなかったように人々は動き始めた。キースに礼を言う者達はいたが、サイガとエリスに誰も言わなかった。それはエリスが魔獣を弁護したのが理由だろう。




