波乱の生徒会選挙 銀髪眼鏡VS魔王 ー17ー
「すまない。これを貸してもらう」
魔獣の咆哮に腰を抜かしたオバサンが杖を落とし、それをサイガは拝借した。杖は魔法の威力を強化し、詠唱速度を早くする事が出来る。
暴走状態の魔獣に対して、サイガの魔法では威力が弱いばかりか、詠唱が終わるまでに攻撃されかねないが、杖があれば別だとサイガは考えた。
「この杖を使えば魔法を強化出来る……」
サイガは杖に自分の魔力を接続させると、無属性に対応していなかったために、杖は灰と化してしまった。
「あっ……アンタ!一体何してくれてんのよ。この杖は高いのよ」
「痛っ!」
オバサンは自分の杖がサイガによって灰にされたのを見て、その衝撃で魔獣の咆哮から解かれ、サイガにビンタした。
「少し見えてるのはラキアス学園の手帳よね。後で弁償してもらうわよ」
オバサンは動けるようになったのを良い事に、その場から勢いよく逃げ出した。
だが、魔獣は逃げる動作に反応した。それは獲物を追いかける習性なのか、サイガやエリスよりも先に狙いをつけた。一歩一歩ゆっくりと歩き、次第にスピードを出すために走り出そうとする。
「させるわけないでしょ!」
エリスは魔獣の横っ腹におもいっきり拳で殴り、建物の壁までぶっ飛ばした。
「ま……マジか。拳で魔獣を殴り飛ばすとか……どういう体してるんだよ」
エリスは魔力を使っておらず、補助魔法で強化なんて出来るはずもない。それなのに魔獣を殴り飛ばしたのだ。前勇者のエルナもそんな事はしなかった。
しかし、気絶させるまでには至らなかったのか、魔獣はすぐに体制を立て直し、エリスに狙いをつけ、逃がさないようエリスを中心に周囲を歩き出した。
サイガの動きには目ではなく、常に尻尾が警戒している。
「こういった状況なのに、オバサン相手に何やってんのよ。変態的な行動してる場合じゃない事は分かってるでしょ」
「誰も変態的な行動なんてしてないだろ!魔法を使おうとしただけだ」
「頬に手形を残しておいて、よく言うわね。魔法の発動も失敗してるし……杖が灰になるなんてどういう事よ」
サイガの頬にはオバサンの叩いた痕が残っていた。エリスは魔獣から目を離さないまま、サイガの不甲斐なさに文句を言わずにはいられなかった。




