魔王復活にバイト中の勇者 ー4ー
「誰これ?全くの別人じゃんか!何だよ……そんなに俺が魔王に見えなかったのかよ」
サイガの黒一色に染まった姿すらも真っ白になるのではないかという程の落ち込みようだった。
「お待たせしました。そちら、魔王サイガ様のパートナー候補者は一人該当しましたので、その者の履歴を映像に出します。この者は今まで誰もパートナーに出来なかったようですね」
「俺の事を魔王サイガと言ったよな!」
サイガは魔王と呼ばれた事で、一瞬にして生気を取り戻した。
どういうわけか、男魔族は戻ってくると魔王サイガ様と呼ぶようになっている事に対して、アイシャはニヤニヤとサイガを見ながら笑っている。
「オホン……魔王である俺様のパートナーとなる人間は一体誰……ってエルナじゃないか!いや……何百年も経っているんだから、エルナは亡くなっているはず……名前はエリス=ガルフォード。十六歳でミクス国、ラキアス学園の学生で……勇者!」
履歴にはエリスの体に勇者だけが持つ聖印が浮かび上がった事で認定されたらしい。エリスがエルナに似ているだけで驚きなのに、加えて勇者となると、サイガも驚きを隠せなかった。
アイシャはサイガのパートナーが誰なのか分かっていたのだ。そして、男魔族がサイガを魔王と呼んだのも、勇者がパートナー候補になったからだった。勇者と同等の力を持つ者は魔王しかおらず、因果関係からも成り立ってしまう。
普通なら魔王に勇者を紹介などしないのだろうが、男魔族は仕事に誇りを持っていた。
「どこまでがお前の策略なんだよ!勇者がパートナーだなんて……相手が承諾すると思っているのか?倒す、倒される関係だろ……って、お前ならどうにかしそうだよな」
アイシャは記憶操作や蝙蝠などを使い、人の弱みを掴む事を得意としている。勇者の弱みでさえも握っているかもしれない。
「あの……魔王サイガ様。エリス様でよろしければ紹介の連絡をし、こちらに来てくだされば、移動装置でエリス様のいる場所まで転送出来るのですが……ちなみに交渉時間も大事ですが、エリス様を中心に半径二十メートルまでしか移動出来ませんので」
「いや……わしがサイガを転送させるから構わんぞ。エリスの場所へ届けるだけでなく、交渉時間も守らせよう。そちらはエリスの連絡だけをしてくれれば問題ない」
「アイシャリウス様には投資してもらっていますし、信用しておりますから問題はありません。魔王サイガ様さえ宜しければとなるのですが……」
男魔族はアイシャにペコペコと頭を下げていた。
「それでは決定じゃな。また用が出来たら連絡する」
「ありがとうございました。またのご利用をお願いします」
「おい!俺は何も言ってないし……納得したような顔で電話を切るな」
男魔族にとって、魔王という名よりも投資者であるアイシャの言葉の方が強かった。
「それでは人間界に行くための装置の場所に移動するかのぅ」
アイシャの周囲に蝙蝠達が集まりだし、椅子に座ったままで装置がある場所まで運んでいくのだが、サイガの周囲に集まる事がなく、その場所まで歩かされた。