勇者と王女の関係に、魔王巻き込まれるー2ー
教室には四十人ぐらいが座る机と席があり、何人かがバラバラに座っている。その中にはサイガよりも先に行ったはずのエリスの姿はなかった。
それとバラバラに座っている人間や魔族がいるのに対して、一ヶ所に固まっている集団がいる。サイガがドアを開けた時、その集団がこちらを見てきたのだが、待っている相手と違ったようで、すぐに視線を戻した。
その集団にいるのは金髪のポニーテールで、蒼い瞳の女子。マキナ様と呼ばれている事から、周囲にいるのは取り巻きか何かだろう。
取り巻き達は『今回こそは良い成績を取って、マキナ様と一緒に生徒会で活動しますから』など、そういった言葉を何人も言っている。
優秀な成績を取る事と生徒会が関係しているのが、その言葉から分かる。つまり、アイシャはサイガを生徒会に入れるつもりなのかもしれない。
「あっ……マキナ様!偽勇者が来ましたよ」
取り巻きの一人がそう言ったのだが、教室に入ってきたのはエリスであり、サイガがいるのが分かると隣に座った。
「おい……お前って偽勇者とか呼ばれてるのか?」
サイガは肯定したい気持ちもあったが、パートナーになれたという事はエリスが本当の勇者である事に間違いない。
「勝手に言わせておけばいいのよ。私も好きで勇者をしてるわけじゃないし」
エリスは気にしてないようだが、マキナと呼ばれている女子が取り巻きを散らし、エリスに近付いて来た。
マキナはエリスと同じ身長で、スタイルも五分五分。切れ長の瞳に整った顔立ち。さらにエリスや他の学生からは感じる事がない高貴な雰囲気を持ち合わせており、取り巻きがいるのも頷ける。
「この日ばかりは来ると思ってました。勇者という身分だけでなく、特待生ながらも授業は最低限しか出席せず、サボるばかり。私の勝負の申し出も無視し続ける。ですが、この時だけは確実に勝負が出来ますから」
「エリス……お前……それは駄目だろ」
マキナの言葉が正しければ、エリスが偽勇者と呼ばれていても仕方がない。勇者とは人の模範となるべき存在であり、尚且つ学園の特待生でもなるのならば尚更だ。それなのに授業をサボっているのであれば、疑うのも無理はない。だが、マキナはエリスに対して、それだけではないように、サイガは感じ取った。
「勝負って……マキナは前回テスト総合一位でしょ。人学は当然として、魔学も魔族を差し置いて一位だし、機学も上位の成績。魔力測定も人では一位だし、魔法戦闘でも優勝。どう考えても私が負けてるじゃん」
「……一つ抜けてるのがあるでしょ。身体能力は同じ評価ですけど、武術戦闘に関しては貴女に負けてるんです。魔法戦闘には貴女は一度も参加しない。今回もそこで優勝するつもりなんですよね。特待生は優秀な成績を取らなければ退学となってしまいます。貴女はその一択でここにいられるわけですから」
「えっ……そうなの?」
エリスは頷き、アイシャがサイガに一位を取れと言ったのは、エリス同様に特待生である可能性も出てきた。
「いつものようにいくとは思わないでください。今度こそ私が勝ってみせますから」
マキナはエリスに宣戦布告し、元いた場所に戻っていった。
「なぁ……アイツって一体誰なんだ?」
「ミクス国のマキナ王女よ。何でこの学園にいるかは分からないけどね。毎回武術戦闘で私に負けてるから、王族としてのプライドが許さないんじゃないの?それに私って周囲に嫌われてるようだから……さっきの態度をみたら分かるでしょ」
取り巻きかマキナ様と呼ぶのは本当に偉い人物だったからだ。だが、エリスはそんな相手でも様付けで呼ばなかった。
「……そうか?」
サイガは周囲の生徒は分からないが、マキナがエリスを嫌っているようには見えなかった。敵視しているかもしれないが、相手にして欲しいみたいに感じた。それをエリスに言おうとしたが、チャイムが鳴り、テストが始まった事でその事を忘れてしまった。




