魔王復活にバイト中の勇者 ー11ー
「出るのが遅いわよ。アンタって腕輪の機能とか知らなかったでしょ。急いで話さなくても良かったんだから」
YESと選択した後、すぐにサイガの頭の中に直接エリスの声がテレパシーのように聞こえてくる感じがした。
二人の会話は腕輪を通してであり、他の者には聞こえないようになっている。誰もいないのに一人で勝手に話している者がいれば、パートナーと話していると思ってもいいだろう。
「ふん……それで一体何の用だ」
腕輪の機能を知らなかったのは確かなのだが、急いで話そうとしていた事に対して、サイガは恥ずかしくなり、さっさと話を終わらせようとした。
「私が通ってる学園に来る事になるって言ってたでしょ。それって、こっちの世界に住むわけよね。いつから来るのか、住む場所も知っておかないとって思ったわけよ。私達はパートナーなんだし、アンタは私の家を見たんだから」
「別に構わないが……二日後にラキアス学園に行く事になっているから……明日には人間界に行く事になる。場所は……アイシャスマンションの三階……3LDKと書かれてるな」
サイガはパートナーであるエリスに関して、勇者やラキアス学園の学生という以外は何も知らないのに、簡単に住む場所を教えてしまった。
サイガにとって、エリスに場所を教えるよりもマンションにアイシャの名前が含まれている事に嫌な気がして仕方がなかった。それだけでなく、酷い場所を選ぶと思ったのに、部屋の見取り図を見ても、悪くないのが逆に怪しく思えるほどだ。
「アイシャスマンションの三階……3LDK……ありがとう!それだけ聞きたかっただけだから。それじゃ、また明日ね」
「何だ?会うとしても学園が始まる明後日だろ?」
サイガはエリスが勘違いしていると思ったのだが、翌日になってエリスが住所を聞いてきた本当の理由が分かった。
★
サイガはドラゴン便に乗り、魔界から人間界のミクス王国に着いた。昔の人間界しか知らないサイガにとって、あまりの違いに辺りをキョロキョロと見回すのは当然だろう。その姿はまるで田舎から都会へ来た人間と何も変わらない。
アイシャが地図を用意してくれたおかげで、サイガは無事に着く事が出来た。それがなかったら迷子になっているところだった。最終手段として、サイガはエリスに道案内でもしてもらうつもりでいた。
「すみません……今日からこのマンションに引っ越してきたサイガ=オウマなんですけど……これからお世話になります」
まずは管理人に挨拶するのと、部屋のカギを渡してもらうために管理室に向かった。管理室はマンションの入口近くにあり、アイシャが管理人とサイガは疑ったが、人間の老人だった事に安心し、丁寧に頭を下げた。




