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変態魔王+貧困勇者+エトセトラ=SS  作者: Gan
久方ぶりの魔王meets勇者
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魔王復活にバイト中の勇者 ー1ー

魔界サタルフィール



燃え盛るような紅い空に竜や魔獣が飛び交い、数十キロにもなる何もかも吸い込みそうな巨大な穴がポッカリと空いており、海は血の色に染まっている。



その海には五つの大陸が浮かび、それぞれの大陸には支配する魔族が存在する。



五つの大陸を線で結ぶと星の形を描き、その中心部にある孤島には魔族達を超える存在、手下を持たず、己の力のみで地位を確立した孤高の魔王が城を構えていた。



その城に足を踏み入れると普通の一歩が通常の数倍重く感じ、外で暑く感じた体は瞬時に凍えるような寒さを訴え出す。



さらには巨大な迷路が行く手を塞ぎ、それでも進もうとする者には獰猛な魔獣が待ち構える。



その魔獣達は魔王の手下ではなく、魔獣同士で喰い合いし、魔王にも襲い掛かるほどだ。



そして、それを越えた先にあるのが玉座の間となる。




「ここが玉座の間。勇者エルナと魔王サイガが戦った場所じゃ」



「すごーい!柱や壁の壊れ方が異常だし、天井に空けられた穴から空が見えるだなんて……凄い戦いだって想像出来るね」



そんな城の中を観光ツアーな旗を持った、ショートの白髪と言葉使いからは老人に感じられるが、実際の容姿は金の瞳を持つ子供がガイドとして、人間や魔族達を案内していた。



観光ツアーである事から客達は王座の間の壊れた壁や柱、玉座に近付いて写真を撮っていたりする。



魔王城は先程の説明とは程遠い場所になっており、今では観光名所の一つとなっていた。




数百年もの昔、原因は不明だが魔界と人間界を結ぶ巨大な穴がそらに現れ、魔王達は人間界を征服するために進撃した。




だが、人間界に勇者と呼ばれる者、エルナという少女が現れた事で攻め込んで来た魔界の者達を次々と倒していき、最後にはこの城で魔王サイガと死闘を繰り広げ、エルナの勝利に終わった。



その後、エルナと魔族の一人が架け橋となり、時の経過と共に人間界と魔界は交流を深めていった。数百年経った現在では、高度な文明を持つ機界とも繋がった事により、三つの世界は交流し、条件を満たせば、誰もがどの世界にも行けるようになっていた。



この魔王城に人間がいるのもそういった理由であるのだが、違う理由でこの場所が人間や魔族に人気の観光スポットになっていたりする。



一つは魔王城をには結界が張られていて、ある魔族以外は入る事や視認する事でさえも出来なかった。それが最近になって結界が解除されたのだ。



もう一つは機界と繋がった事によりTVという映像を流す機械が普及されただけでなく、勇者エルナの旅がアニメ化された事により、聖地巡礼として観光ツアーが組まれたのだ。



「伝説の魔王サイガ様の城が本当に見られるなんて夢にも思わなかったよね。マジで感動するんだけど」



「人間の私でもそう思うもん。TVで流れるアニメのサイガ様は最高だし。男達は勇者のエルナか王女キーナかもしれないけど、女性にとってはサイガ様か豪炎と冷静のアーク兄弟よね」



人間同士や魔族同士でアニメの話をしているわけではなく、人間と魔族が楽しくアニメの会話をしている。その手にはアニメで出てくるサイガのキャラが描かれている団扇やタオルを持っている者、その場所を記録し、紙に写す事が出来るカメラを持っていたりする。


「最後に案内するのは復活の間じゃ。勇者エルナに倒された魔王サイガは再び蘇ると言い残した。そして、目覚めるための棺が突如として出現したのも最近であり、結界が消えたのも、復活のための力を棺に注ぎ込んでいるとも噂がある」



ガイドと観光客は玉座の間から離れ、ガイドが旗を持つ逆の手から放たれた炎の魔法で道を示し、復活の間へと続いている暗闇の道を進んでいく。



観光客の頭上には無数の蝙蝠達がいるのだが、どういうわけか一定の距離までしか近付いてこない。



「この部屋がそうじゃ。床には未完成の魔方陣が描かれておるじゃろ。誰かが描いたわけではなく、憎しみや絶望が増えるたびに完成へと近付き、復活すると言われておる」



復活の間は無数の紫の炎に照らされており、部屋の中央に置かれている棺を中心に魔方陣が半分描かれ、続きを描くための紅い光が留まっている。



「ガイドさん……魔方陣もまだ半分だし、棺の中を見ても構わないですか?」



人間の女性がそう言うと、次々と『見たい』と声が上がっていく。



「別に構わんが……サイガが復活してもガックリくるだけじゃぞ。アニメの影響からか孤高の魔王と呼ばれ、クールな印象を与えているようじゃが、皆が思っているような奴ではなく、変態なだけで相手にされないから……」



ガイドの言葉に女性達は耳を傾けず、棺に一直線に向かったのだが、ある者だけがガイドの言葉を聞いていた。



「誰が変態だ!誰が!」



女性達が棺を開ける直前に棺が急に揺れ始め、蓋が勢いよく飛び、中から腰まで届く黒髪と、前髪で少し隠れた黒い瞳、百七十前後の背をした人間の姿をした少年が出てきた。



その少年を見た直後、女性達は一時硬直し、次々と逃げ出していく。



「クックックッ……俺の姿に恐れをなして逃げ出すか。これが本当の姿だ。断じて変態では」



「へ、変態!こんなの聞いてないわよ」


逃げる女性達が口を揃えて『変態』と呼び、持っていた団扇やタオル、いつのまにか拾っていた壁や柱の砕けた石を少年に投げつけた。



「誰が変態……痛っ……物を投げ……石は痛いんだぞ!」



少年がそう言っている間に観光客達全員が復活の間から出ていき、残ったのは少年とガイドだけで、ガイドは蝙蝠達に何かを指示した後、少年をじっと見た。



「くそっ!残ったのは魔族のガキ一人か。おい!お前は俺が変態に見えるのか!」



少年は凄みを出して、ガイドに『変態』だと言わせないようにした。


「……サイガよ。己の姿をよく見てみるんじゃ。どう見ても変態にしか思えんぞ」



ガイドには凄みが効かなかっただけでなく、少年の事を魔王と同じ名で呼んだ。



「その声は……アイシャか!何でそんな姿なんかしてるんだ?それに俺の姿が何だって……服着てないじゃん!」



サイガは何も着ていない全裸の状態で復活したために変態と呼ばれ、観光客達は逃げ出したのだった。



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