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プロローグ;とある冬の日

 もううんざりだ、とでも言うように少年は自らの机に突っ伏した。


 今日は12月22日。関東圏に住むほとんどの学生がそうであるように、少年が通う武蔵原(むさしはら)高校魔法実技科1年H組でも明日から冬休みに突入する。そうなれば、2学期の成績が返却されるのは当然のことであり、少年の大きな大きな悩みの種も成績によるものだった。


「どうしたの、ヤマト? そんな顔して。あなた、魔法実技も基礎科目も成績はよかったでしょ」

と、様子を見かねた小柄な少女が、机に突っ伏したままの少年に問いかける。


 ヤマトと呼ばれた少年はわずかに顔を上げ声の主を確認すると、無言のまま自らの成績表を突き出す。


 国語、数学、外国語オールB。魔法理論、魔法実技、魔法史、基礎錬金術オールB(プラス)。他人に誇れるほどの成績ではないが、この8科目に関してはどれも平均を上回っている。

 悩みの種は成績表の一番下の欄に眠っていた。特異魔法(ユニーク)、E(マイナス)。文句なしの赤点である。


「うわー、まさかヤマトが赤点補習に引っかかるとはねぇ。しかも特異魔法の実技で補習になった子なんて初めて聞いたわよ? しかもE-とか初めて見たわ(笑)」

「くっそ……とんでもなくウザいのに言い返せねぇのが悔しい……。そういうお前はどうだったんだよ、雨音(あまね)? おまえ、確か1学期の魔法実技は赤点ギリだったろ」


 すると、雨音と呼ばれた少女は誇らしげに成績表を見せ、

「どう? 今回はC-よ。あんたが赤点取った得意魔法もA評価だし、今回は私の勝ちね!」

とヤマトのことを逆撫でするかのような言葉を口にする。


 呆れたヤマトが、テストで勝負なんてしてないと言い返そうとしたその瞬間ーー


 耳に突き刺さるような轟音と身体を揺さぶるような衝撃に突如として襲われた。一拍遅れて、生徒たちから悲鳴が上がる。それを皮切りに瞬く間に混乱は教室中に広がって行く。


 しかし、「悪夢」はそれだけでは終わらなかった。否、終わるはずが無かった。


 割れた窓から黒い何かが侵入してきたのである。侵入者は、黒いといってもなお足りないほどに黒く、その漆黒は全てを吸い込み壊してしまいそうな禍々しさだ。


「「え……?」」

ヤマトも雨音もクラスのだれ一人として事態を理解できずにいた。


 漆黒の侵入者は何かを探すように無言で教室のなかをぐるりと見回す。


 その時誰かがひとつの事実に辿り着き、恐怖で声を震わせながら呟いた。

「上級魔人……」


 その呟きがきっかけとなったように、漆黒の悪魔は一番近くにいた女子生徒を自慢の長く固い爪で切り裂いた。


 人間一人が殺されて、生徒たちがようやく事態を理解し始めるのと同時に、教室に狂乱がぶちまけられる。生徒たちは我先にと、他人のことなんか知ったことじゃないとでも言うようにに教室の出口を目指す。


 だが、悪魔は混乱する教室をものともせずに、風のような速さで教室を血の海へと変えてゆく。あまりにも一方的な殺戮(さつりく)。悪魔の手にかかり、死を迎えようとする生徒たちは鮮血を撒き散らしながら、例外無くそんなことを考えていた。


 そんな中、雨音だけは動くことができなかった。

「ぁ……いや……」

「おい…どうした雨音? 早く逃げねぇと殺されんぞ」

雨音の顔は血の気を失って蒼白になっている。足は力なく震え、リノリウムの床にへたりこんでいる。

「くそったれ……なんでこんな時に」

そう言って、ヤマトは雨音を無理やり抱きかかえて教室から逃げ出す。

――最悪だ。こんなときに雨音がダメになるなんて聞いてねぇぞ!!

心の中でそう毒づきながらも、ヤマトは自分とたった一人の幼なじみを守るために走り出す。






 教室にいた生徒たちの半分ほどを殺し終わったときには、教室の中に生きている人間はいなくなった。

 ――橿原(かしはら) 大和(やまと)を生け捕りにしろ。

 悪魔は主からの命令を思い出し、殺した人間の中にその人物がいないことを確認すると、足元から影のような使い魔を数匹呼び出し、混乱する学校に解き放った。


「カシハラ、ヤマト……」

 つぶやく悪魔の赤い瞳には理性的な光が宿っていた。





「くっそぉ……なんでこんなとこに魔人が出てくんだよ!」

 約150年前に異世界から地球に悪魔が攻め込んで来て以来、人類と悪魔の間では幾度となく激しい戦争が繰り返されてきた。2052年現在でもその状況は一向に変化の兆しを見せることはない。魔法はその過程で生み出されたものであり、悪魔の使った摩訶不思議な現象を模倣したものである。

 魔人は悪魔の中でも強い魔力を有している個体が多く、その圧倒的な魔力で人類を苦しめている。

 悪魔大きく分けて4つに分類される。まず、悪魔はその見た目や能力などで魔人と魔獣に大きく分かれる。魔人には理性が存在し、高い知能を持つため魔法を使うことが可能であり、種によっては詠唱を必要とする高難度の魔法を使うことも可能である。たいして魔獣は、同サイズの魔人に比べて運動能力が総じて高く、スピードやパワーに物を言わせた野性的かつ高威力の攻撃を放ってくる。

 また、魔人と魔獣にはそれぞれ上級と下級という格付けのようなものがあり、上級のほうが高い魔力や身体能力を持つ半面、個体数が少ないため上級悪魔が集団で襲ってくるようなことはまずない。下級は個々の能力は低いが、多くの種が上級悪魔に群れで従っており、圧倒的な数と統率された動きで人間を苦しめる。



「………ぶ……マ…ネ………だい………ぶ…雨音…」

「ん…………?」

「大丈夫か? 雨音」

「ヤマト……ってなにこの体勢!? てかなんで走ってんのよ?」

「何って、ただのお姫様だっこだけど? それよりおまえ覚えてないのか。悪魔が襲ってきたのを」

「っ……!」

「おい、大丈夫か?」

意識を取り戻した雨音に一言で事情を説明すると、雨音は突然暴れだした。

「うわっ…お、おい暴れるな! 危ないだろ!」

「やめて……っ! 下ろしてよっ!! 逃げなきゃ。私…まだ死にたくない……」

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