3話 「月夜のオカリナ」
僕が姉さんやママナ姉ちゃんに出会って1年の月日が流れた。僕を取り巻く環境は劇的に変ったと思う。だって
「きゃはは、リュウトお兄ちゃん、遊んでよ~」
僕の周りではハシャグ小さい男の子や女の子・・・僕の弟や妹たちだ。別に姉さんの子供じゃないよ? 姉さんが僕を拾ってから何の因果か、捨て子や迷い子が増えて
「1人面倒見るのも2人見るのもおんなじよ!」
なんて姉さんが言って引き取っていったらこんな形になったんだ。勿論、僕よりも年上と思われるお兄ちゃんやお姉ちゃんも中にはいるんだけど、何故か懐かれるのは僕だったりする。でも、嫌だとは思わない。むしろ、凄く懐かしくて嬉しく感じる? でもね
「こんなに増えたらもう孤児院だね。さしすめ姉さんは孤児院の先生?」
って何の気なしに聞いたんだけど・・・ガシッって肩をつかまれて、怖い目で
「いい? 私はお・ね・え・ちゃん! ここが孤児院だって言うのは良いとしても私はあなたに先生呼ばわりされる歳じゃな~い!!」
と凄まれた・・・。正直凄く腑に落ちない。いつか先生だってことを認めさせてやろうと僕は心に決めた
ふう、そりゃあね、私もここが殆ど孤児院みたいになっているって言うのはわかっているのよ。でもね、リュウトくんと暮らし始めて人のぬくもりを覚えちゃったらもう駄目。リュウトくんに会う前の自分が凄くかわいそうに思えて、もっと多くの子と笑い合いたいし、他の子にそんな寂しい思いもさせたくないなんて思っちゃてる。まぁ、そんなんだからわざわざここに捨てに来る親が増えてしまっているだろうな~。で・も・ね!
「誰が先生よ! そもそも私とリュウトくんは(推定)6歳しか離れてないんだから!! 他の子にいわれるならともかく! リュウトくんに言われるのだけは納得ができないわ!! 今度言ったらお仕置きをしてあげるんだから! ん? あれは・・・」
リュウトくんは今日も夜の森に行ったようね。どうやら彼女は危険ではないみたいだし、リュウトくんは気づかれていないつもりでいるから知らない振りをしてあげるけど・・・あなたのお姉ちゃんは私なのよ?
ピィ~! 綺麗な月のかかった夜の森に僕の指笛が響き渡る。これが僕とママナお姉ちゃんの間の合図。あれから1年ほどの時間が過ぎたけど、僕らの関係は変らない。とても大切な友達でお姉ちゃんだと心から思う
「ごめ~ん! リュウト、待った?」
ガサガサって草が鳴ったと思ったらそこからママナお姉ちゃんが飛び出てくるのはいつものこと。でも、本人も言っていたみたいに今日は少し遅かったのかな? あれ? それは何??
「ねぇ、ママナお姉ちゃん? その手に持っているのは何?」
ママナお姉ちゃんは手の中に三角形の石みたいなものを持っていたんだ
「あっ、これ? これがねぇ、今日私がちょっと送れちゃった理由。これね、オカリナっていう楽器なの! 偶々吹いているときだったから気づくのが遅れちゃって・・・ごめんね」
『てへっ』って舌を出しながら謝って来るママナお姉ちゃんだけど、別に僕はそんなことは怒っている筈もなくて・・・むしろ僕の視線は見たこともない楽器に釘付けだった
「あれ? リュウトもオカリナに興味があるのかなぁ? だったら私の演奏聞いて行く?」
ママナお姉ちゃんのその言葉に僕は即座に首を縦に振ったんだ
スゥ~っと息を吸い込んで、オカリナに口を当てる。私は気がついたときにはこの森にいた。持っていたのは今着ている服とこのオカリナだけ。ひょっとしたら記憶にない両親の贈り物だったのかもしれないなんて思ったら手放せるはずもなかった
ふぅ・・・と心を込めて息を吹き込む。きっとね、この楽器は息で演奏してるんじゃないんだ。吹き込んだ心が音を奏でているんだと思う。あはは、他の楽器の演奏者だったら自分の楽器もそうだって言うかもしれないけどねぇ~
静かな森に響き渡るオカリナの音。つられるようにかね出られた虫たちの伴奏。そういえば、私の演奏を聞いてくれたのはリュウトが初めてなんだよね。いつもは私の心を慰める孤独な演奏。でも、今は聞いてくれる人がいる。そう思ったら、ちょっと緊張して指が震えてきちゃった。私の演奏は上手いかな? ちゃんとリュウトの心の中まで響いているかな?
「はい、これでこの曲はお仕舞い! その・・・どうだったかな?」
不安げに聞いた私の声に対する返答は、満面の笑みとリュウト1人でやっているとは思えないほど大きな拍手。そして
「凄い! 凄いよ、ママナお姉ちゃん! 僕こんな綺麗な音・・・凄い演奏初めて聴いた!」
リュウトは1年前より前の記憶がないって言ってた。だから、私の演奏より上・・・どころかきっと楽器の演奏なんて聞くのも初めてなんだとわかっている。でもね、それでもその賞賛は私の心に確かに染み渡ったんだ。だからね
「ねぇ、リュウトも吹いてみない?」
私は気がついたときにはリュウトにそう言ってたんだ。そんな私の言葉に目をキラキラさせて嬉しそうに『吹きたい!』なんて言うリュウト。・・・何故かな? 凄くそれが嬉しいの。今まで、誰の手にも触れさせたくなかった大切なオカリナなのにね
「ふぅふぅ・・・あれ? ふぅ! ふぅ!」
クスッ、つい笑みが漏れる。リュウトも一生懸命吹いているのはわかるんだけど、息が強すぎて綺麗な音にはならない。それに押さえもちょっと甘いかな?
「ママナお姉ちゃん・・・音でないよ~!」
「あはは、ねぇリュウト・・・ここに座って」
私は笑いながら地面に座って、私の膝の上をポンポンって叩く。リュウトったら顔を赤くして『恥ずかしいよ~』なんて言ってたけど、私は嬉しいかな? 伝わってくるリュウトの体温がとても温かい
「ほら、穴は私が抑えるからリュウトは息を吹き込んで? 優しく優し~くだよぉ?」
リュウトが真剣な緊張した顔で恐る恐る息を吹き込む。失敗しても壊れるわけじゃないんだからそんなに緊張しなくても・・・嘘。本当は私の方が緊張してる。ほら、オカリナの音が聞こえないんじゃないかって思うほど心臓が高鳴っている
♪~♪・・・綺麗な澄んだ音が響く。これはリュウトの音。これは私の音。これは私とリュウトが奏でた音。たった数音かもしれない。でも、それは私にとってはたしかに演奏で、心に響き渡る音楽だった
「うわ~! 吹けたよ! 僕もちゃんと吹けたよ!」
顔を輝かせて喜ぶリュウトだったけど、本当は私の方が嬉しいってあなたはきっと知らない。本当はね、泣き出しそうになるぐらい感激してたんだよ?
「あっ、僕そろそろ帰らないと・・・。ママナお姉ちゃん、ありがとう! また、演奏聞かせてね! それでまた教えてくれたら嬉しいな♪」
笑顔を張り付かせたまま、手を大きく振るリュウト。ちょっと、ブンブンと大きく振れる犬の尻尾が見えた気がしたのは一生の秘密にしておこう
また演奏聞かせてか・・・ふと、オカリナを見る。・・・ん? あっ~! ひょっとして、ひょっとして! これを私が吹いたら間接キス? っていうかリュウトから見ればもうしてるよぉ~! 私がしばらくの間、きっと真っ赤な顔をして立ちすくんでいたのも絶対に一生の秘密!
リュウトくん帰ってきたみたいね・・・。で、そのままベットに直行してお休みと。まぁ、彼の歳でこんな時間まで遊んでたら無理もないか。でも・・・この顔見てると何故か悪戯したくなるわね
ん~? ちょっと裸にしてみようかしら? ・・・起きないわね? なんか悔しいわ。 そうだ! リュウトくん、これもあなたが起きないのが悪いのよ?
翌朝、裸のまま軒下につるされていたリュウトくんの悲鳴で一日が始まるのだった。ちなみにその後、リュウトくんは自分の部屋に罠を仕掛けるようになったり人の気配・・・特に睡眠中に近づく人の気配に敏感になった気がする
ママナのオカリナは突撃取材のママナ編。マリアの悪戯?はリュウト編で少し語られていた話ですね
ママナ「うん、このオカリナは今でも私の宝物だよ。勿論2重の意味でね! う~ん、3重かも♪」
マリア「私の方は・・・なんかリュウトくんっていじりたくなるのよね。こう・・・虐めてオーラが出ているって言うか?」
リュウト「そんなものを出した覚えはないんだがな。まぁ、俺が気配察知を覚えるきっかけになったと考えればマイナスではないんだけどなぁ~。でもなぁ~・・・」
リュウトにとっては複雑以外の何者でもないですよね。アキの推測どおりにリュウトのちょっと常識から外れたところはこうやって鍛えられていった・・・と
マリア「でも、それがなかったらリュウトくんは死んじゃってたかも知れないんだから感謝して欲しいわ!」
まぁ、それも事実といえば事実なんだよなぁ
リュウト「ああ、だからこそ判断に困るって奴でな」
マリア「なんで困るのよ? 素直にお姉ちゃんに感謝しなさい!」
とまぁ、姉弟喧嘩はほっとくとして・・・ママナ!
ママナ「了~解! えっとね、次回はリュウトの修行なんだよ~。1部の1章では情けなかったけど、それでもちゃんと特訓はしてたの! まぁ、あの時でも人間としては強い方だったってことだね♪」
では、本邦初公開! リュウト=アルブレスの修行時代! お楽しみに~♪