バレンタイン狂想曲
本日2月14日はバレンタイン。同名のイベントは数あれど、女の子から男の子にチョコなんて言うのは読者様たちがいる地球という星の日本限定のはずなのだが、何故かまったくかかわりのないはずのここ異世界『ネフェーシア』でも同様のイベントが存在するようで・・・
迷いの森の奥深く、エルフの首都エルファリアのエルファリア宮殿では・・・
「う~ん、うまくいかないなぁ?」
「な、何をなさっているのですか? 女王様!?」
あ、お姉ちゃんにみつかっちゃったよぉ。せっかく、内緒で作ってリュウトを驚かすつもりだったのに。でも、内緒にしててって言えばいいか
「うむ、そのな・・・リュウトにチョコをと思って作っていたのだが、うまくいかなくてな。リュウトには内緒にしておくのじゃぞ?」
「はぁ・・・それはわかりましたが、チョコを直接火の中に放り込んで 溶かす人は私は初めて見ました。・・・先日、カカオを大量に買おうとしたのよりは進歩したのかもしれませんが」
えっ? ひょっとして直接火にかけちゃいけないものなの? チョコって??
「どうやらお気づきになられたようですね。チョコというのは・・・って鍋に入れればいいというものではありません!!」
うっ!? だ、だって~、リュウトはよくこうやってお料理作っているよ? 確かにチョコじゃなかったけどさ
「いいですか? チョコというのは湯煎、つまりお湯で溶かすのです。・・・女王様! 話しは最後まで聞いてください!! お湯に直接入れてどうするのですか!!」
こ、これも違うの!? だってお姉ちゃんがお湯で溶かせって言ったんじゃない~!
「女王様? 女王様はリュウト殿に手作りチョコをお渡ししたいのですよね?」
「その通りじゃ」
「わかりました。では不肖ながら私、メイ=シルフォードがマンツーマンでご教授させていただきます。覚悟はよろしいですね?」
「も、勿論じゃ!」
な、なんかお姉ちゃんの目がちょっと怖いけど・・・絶対にリュウトにチョコを渡すんだから! ライバル多そうだし
そして・・・
「よ、ようやく出来たな。まさか、こんなに時間がかかるものだとは」
普通の人なら半分以下の時間で出来るものなのだけどね、アキ。
「し、しかし味見とやらはしなくてもいいのじゃろうか?」
そんなものをしたら永久に終わらないでしょ? 貴方の作った食べ物では。私は食べたくないし、貴方が食べて倒れるのも困るのよ。・・・その点、リュウトくんならたぶん死なないでしょうし
「ええ、これで結構です。さ、あとは綺麗にラッピングすれば終わりですよ」
「そ、そうか! しかし、そなたも何か作っていなかったか?」
ぎくっ!? そ、そういうところは目ざといわね。女王としてはいいことなんだろうけど、今はちょっと面倒ね
「ええ、ついでですから兵たちに義理チョコでも配ろうかと」
「そうか、すまぬな。そのようなことまで・・・」
「いえ、構いませんわ。では、私はこれで・・・」
とりあえず、誤魔化せたみたい。こんなに苦労したんですもの、私だってリュウトくんにチョコの1つぐらい送ったっていいでしょ? それにリュウトくんも一応『兵』には違いないしね
「はぁ・・・」
もう何度目かになるかわからないため息をつく、部屋を埋め尽くすように置かれた色とりどりの箱たち。俺は別に甘いものはそんなに好きじゃないんだけどなぁ
「はい、リューくん! アーくんに作るチョコが余ったからリューくんにもおすそ分けだよ~」
と笑顔で持ってきたレミー。気持ちはとりあえずうれしいが、中身はチョコの見た目をした(その時点ですでに怪しい気もするが)毒薬だろう
「えへへ、リュウト~♪ 今年はコーリンさんに頼んで台所借りれたから作ってみたんだ!」
とちょっと恥ずかしそうに持ってきたのはママナ。確かにチョコは迷いの森の彼女の家で作るには設備が足りないからな。・・・いままであれだけのものを使ってうまい料理を作ってきたのがすごいんだが。とりあえず、味の方は一番期待できるんだが・・・何でこんなに作ってきたんだろう?
「せ、せっかくのバレンタインに寂しい思いをしてそうな兄さんの為にワタシが作ってきてあげたわ。べ、別に兄さんが好きとかそんなのじゃ・・・ってなによ!? この大量の箱は!! わ、ワタシの兄さんに一体どこの女よ!!!」
なんて大騒ぎして持ってきたのはリデア。まぁ、気持ちは嬉しいしよくわかるが・・・とりあえず片っ端から火にくべようとしたのはやりすぎだろう。だが、そうだな。リデアは100年俺を探したんだ。すこしはあいつが自慢できるような、好きとは言わないまでも納得できるような兄にはなってやらんとな
「リュウト殿にはいつもお世話になっていますから、これはお礼です」
と、持ってきたのはメイ。いつも通りにクールに淡々と渡していったが、普段よりちょっと顔が赤かったような? まぁ、気のせいだろう
そして、町や訓練中に会う女の子のほとんどに渡されたこの大量のチョコたち。・・・まぁ、有名人であることは間違いないのだろうが、こんな人気の出るようなことやった覚えがないんだけどな~。そして、こんな量を一体どうやって処理すればいいんだか
「はぁ・・・本当にどうしようかな」
再び、というよりは何度目かわからないため息が出る。きっと、1日でついたため息の数の記録はとっくに更新しているだろうな。と
コンコン・・・と響くノック。無論、この気配の持ち主を間違えることはない
「どうした? 開いているから入って来ていいぞ?」
「う、うん・・・。って! なに!? この大量の箱は!!」
何故か少し緊張気味に入ってきたアキが当然と言えば当然の反応を示す
「あはは、俺も同じことを言いたいよ。仲間たちはともかく、何故か今日に限ってよく女の子に会ってな・・・結果としてこうなった」
「フフフ・・・そうなんだ。多いだろうとは思っていたけど、こんなに多いなんて。それで、リュウトは律儀に全員から受け取ったんだ・・・」
あはは、アキ・・・なんかすごく怖いぞ。うん、はっきり言って俺をこんなに怖がらせることができるのはキミ以外にはこの世にいない気がする。もういっそのこと、絶対の死とやらに睨まれた方が楽なんじゃないだろうか?
「ああああアキ? それでこんな時間にどうした? まだ執務中じゃないのか?」
「あ、うん。ホントは終わってからと思ったんだけど、我慢できずに持ってきちゃった。私のチョコ・・・受け取ってくれるよね?」
頬を赤く染めて上目づかいに小首をかしげるその仕草は反則的にかわいい・・・じゃなくて!
「ああ、勿論! (気持ちだけは)他のどのチョコよりも嬉しいよ」
「そ、そうだよね! わ、私が・・・彼女・・・だもんね?」
ああ、他の誰にもその称号は名乗らせるつもりはない。だというのに酷く不安げで・・・なんで俺はアキにこんな表情をさせてしまうんだろうな
「勿論だとも! キミのチョコが世界で一番だ」
「・・・嬉しい。じゃあ、食べてくれるよね?」
「えっ? 今、ここでか?」
コクンと縦にうなずいた・・・普通に見たら可愛らしい仕草が俺にはまるで死刑宣告のように見えた
「よ、よし! た、食べるぞ?」
箱を開け、中身を取り出す。うん、見た目と匂いは問題ないな。あはは、なんでチョコを食べるのに手が震えて、死を覚悟しないといけないんだろう?
「りゅ、リュウト・・・どうかな? 美味しい?」
こ、ココが踏ん張りどころだぞ。リュウト=アルブレス!
「あ、ああ。美味しい・・・よ」
「良かった。・・・泣くほど喜んでくれるなんて! あ、私はもうすこし執務があるからもういくね。じゃあ、またあとで♪」
そういって笑顔でアキが出ていくのを見送って俺は部屋の中に倒れた
アキ・・・贅沢は言わない、頼むから生命体が食べられるものを作ってほしい・・・な
おまけ
「アシュラ様、レミーさんからお届け物が来ましたが・・・」
「コーリン、それは食い物ではない。早々に処分しておけ」
「・・・そうですね。味の感想は何か当たり障りのない文句を考えておきましょう」
リュウト=アルブレス・・・幸せな不幸を味わう男です。とまぁ、こんなところで僕からもプレゼントです。そろそろ、ママナがチョコをもって・・・?
レミー「サーくん♪ プレゼント用のチョコもってきたよ~!」
あれ? なんでレミーが? ママナの予定だったのに・・・。
レミー「ム~? めーちゃんとレーチェル様がわたしが持って行った方が面白いって。えっとね、一応作中の女の子の手ずくりチョコだよ。」
・・・ずいぶんいっぱいあるけど、どの箱が誰のものだ?
レミー「えっと・・・忘れちゃった♪」
え~、読者の皆様・・・どれでも好きな箱をお好きなだけお持ち帰りください。かなりのギャンブルになると思いますが・・・>< では次回も生きてお会いできることお祈りしております。
※内訳 100%安心なチョコ×2(ママナ、コーリン)、100%危険なチョコ×2(アキ、レミー)、たぶん大丈夫だが、サプライズがあるかもなチョコ×2(レーチェル、メイ)、未知数なチョコ×2(リデア、ルーン)となっております




