12話 「姉たちの気持ち」
目が覚める。外はまだ暗い・・・まさか丸一日意識を失っていたわけじゃないだろうから、さほどの時間は経っていないのだろう
「・・・リュウトくん、勝手に出て行ったら許さないんだから」
そっと部屋の外に出ようとして聞こえた声にドキッとする
「姉さん、何もこんなところで寝なくても・・・夢の中でまで俺が出て行くのを止めているのか?」
こんなところで寝ていたのも全部俺が出て行かないようにするためだと分かっている。俺は一体どれだけ迷惑かけるんだろうな
「必ず戻ってくる。ただ、少しだけ外に行かせてくれ・・・話したい奴がいるんだ」
この時間ならばきっと森の入口で俺を待っていてくれる、もう一人の姉のところに
森の入口。そう、俺にはまだ入ることさえもできないこの危険な森の入口で俺は指笛を吹く。ガサガサと草が揺れて
「こんばんわ、リュウト! 今日は少し遅かったねぇ?」
「こんばんわ、ママナ姉ちゃん。今日はちょっとね」
ママナ姉ちゃんに引っ張り上げられた木の上に腰を下ろしながら俺はそう苦笑する。相談に来たというのにその相談内容を言うのは恥ずかしいとは難儀なものだけど
「ふ~ん、リュウトもそうやって悩む歳かぁ。もうすぐ私のことも姉ちゃんとは呼ぶ歳じゃなくなっちゃうんだね」
魔族であるママナ姉ちゃんは俺よりも・・・人間よりもずっと寿命が長い。だから成長もずっとゆっくりで
「迷惑かな? 俺みたいなのに姉と呼ばれるのは・・・」
弟として姉に相談しに来た身としてはこんなに大きくなったら弟じゃないって言われるのはかなり辛い
「ぶ~! 冗談でもそんなこと言っちゃ嫌だよぉ。確かにリュウトはもうじき私よりも大きくなるし、私のことを姉ちゃんと呼ぶのもどうかと思うよ? でもね、私はずっとリュウトのお姉ちゃん! それは絶対に譲らないよぉ!」
俺の言葉を遮るようなママナ姉ちゃんの声にうつむき加減だった顔を上げると、そこには涙目になったママナ姉ちゃんがいて
「ひょっとして、私たち同じ心配していたのかなぁ?」
俺の顔を見たママナ姉ちゃんは小首をかしげながらそんなことを言う。一体どんな表情を俺はしていたんだろうな?
「ママナ姉ちゃん、実は今日は相談があったんだ」
だから俺はそれを誤魔化す意味でも今日ここに来た本題を切り出したんだ
「ねぇ、リュウト? もしもね、私がマリアたちの立場でも同じ事を言うと思うよぉ?」
そして俺の相談を受けたママナ姉ちゃんは少し困ったような顔をしてそう言った
「私はリュウトがどんなことをしたのかは知らないぉ。でもね、マリアたちにとってリュウトは弟、もしくは兄だったわけでしょ? 自分を守ってくれた兄や弟を追い出すような人たちじゃないんじゃないかな」
「そう・・・なのかな?」
「それを知っているのは私じゃなくてリュウトだよ。私はただリュウトの家族がそんな人たちじゃないって信じているだけ。だからね、ちょっと寂しいけど相談する人が違うよ」
出て行くべきか、そうでないか・・・それを聞くのはママナ姉ちゃんじゃなくて
「そうか、そうだよな」
「あ、でも万が一のことがあったらいつでも私のところに来てね! リュウト一人ぐらいだったら私が養ってあげるんだから!」
両手をギュッと握り締めてそう言うママナ姉ちゃんにはなんて答えるべきか悩んだけれど
「お帰りなさい、リュウトくん」
「姉さん!? なんで起きているんだ?」
こっそりとみんなを起こさないようにと帰った孤児院の入口でかけられた声につい大声を出し、姉さんに静かにするようにジェスチャーで窘められる
「いつから気がついていたんだ?」
「どっちの意味かしら? あなたが出ていったのならば部屋を出た時から、あなたが会いに行った相手のことだったら多分最初の頃からね」
つまりどっちも最初からじゃないか。俺もまだまだってことなんだろうけど
「で、気持ちは落ち着いたかしら?」
「・・・結論が出たかとは聞かないんだな」
「結論は最初から決まっているわ。リュウトくんがここを出て行くのは誰も認めない。少なくても、あんなことのせいで、それをリュウトくんが気にして出て行くのなんて絶対に認めない」
そう笑っていう姉さんに本当に勝てないって心から思う
「俺はここにいてもいいのか?」
「当たり前よ、ここはあなたの家よ? そして、あなたが守った場所でもあるわ。不安だったら明日の朝にでもみんなに聞いてみなさい。一緒にいて欲しいって懇願する子はいても出て行ってくれなんていう子は絶対にいないから」
その言葉にふっと力が抜ける。あれ、なんか視界が・・・
「緊張で疲れてたのね。眠りなさい、ゆっくりと。今度こそは夢の中ならば私たちが助けてあげられるから」
そんな言葉が聞こえた気がした
というわけでママナとマリア2人の姉たちの気持ちでした
リュウト「今も昔も俺は迷惑をかけっぱなしってわけだな」
マリア「ん~、私は迷惑をかけられた覚えはないわよ? 姉っていうのは弟の世話を焼いてこそよ」
ママナ「私なんてろくに世話焼かせてさえもらえてないよぉ」
まぁ、世の姉がみんなこうなわけではないのですが・・・リュウトは世話を焼きたいタイプの弟なのでしょう
リュウト「・・・喜ぶべきか怒るべきか悲しむべきか、どれなんだろうな」
さぁ? というわけで今回はここまで。次回は・・・どうなることか。お楽しみに~




