1話 「記憶を失った少年」
幸せのユートピアは竜神伝説の第0部
リュウトとマリアが出会った頃の話で本編を知らなくてもあまり問題はありませんが、1部3章ぐらいまで知っている方がより楽しめるかもしれません
「う~ん、今日も良い天気ねぇ」
快晴の空を見上げて大きく伸びをする私。私の名前はマリア=ストル、現在16歳のうら若き乙女で目下恋人募集中
そんな私の毎日は結構忙しい。掃除や洗濯・・・は別に毎日やる必要ないけど、畑を耕したり、狩をしたり、水汲みにいったり・・・生きるって大変なのね
周りに大人なんていないわ。たま~に冒険者を名乗る人がやってくるぐらいで。じゃあ、なんで私はここにいるのかというと・・・まぁ、私は所謂、孤児って奴で・・・この辺はどこの国にも属していない中立地帯だからね。かってに家作っても怒られないし、税金も払わなくて済むのよ、ここなら
その代わり、近くにある迷いの森には魔物がうじゃうじゃいて危険なんだけど、あいつらは森にさえ近づかなければ大丈夫・・・たぶん。たまに森を追われた魔物が襲ってくることもあるけど、そんなのに負けるマリアさんじゃないわ!
「・・・ぅぅ」
ん? 今、何か変な声が聞こえたわね?
「・・・ぅぅ・・・ぁ・・・た・・・けて」
こっちの方かしら? って子供が倒れてる!?
「ちょっと! キミ! 大丈夫! しっかりしなさい!!」
倒れていた男の子、年齢はたぶん10歳ぐらいだと思う。でもそれ以上に目を引くのは体中にある酷い火傷。森の魔物の中には火を使う者はいなかったはず・・・いえ、この怪我の感じだと雷かしら? いずれにしても、この子は一体どこからやってきたのだろうの?
「うう、うぁぁああ・・・。く、くろい・・・き・・・し・・・!」
い、いけない。今はそんなことを考えている場合じゃなかったわ。こんな大火傷にまで効くかはわからないけど、昔あった冒険者の人に教わった火傷に効く薬草をいっぱい摘んで来たんだから!
「しっかりしなさい! 私の、私の目の前で死ぬなんて許さないわ!」
そうよ! どこから来たのか知らないけど、ここまで逃げてきたんなら生き抜いて見せなさい! 死ぬんだったら元気になって私の目の届かないところまでいってから死になさい!!
そんなこんなで翌日の朝♪
・・・い、いけない。ついつい寝ちゃったのね。あの子は大丈夫かしら?
「う・・・こ、ここは?」
「!? 気がついたのね!? ここは私の家。大丈夫よ、ここは安全だから」
「あ、ありが・・・くぅ!?」
「だ、駄目よ! 無理して起き上がろうとしちゃ! とりあえず傷が治るまではここで寝ていること! いいわね!」
無理に起き上がろうとして苦痛のうめき声を上げた男の子を私は聖母のような優しい言葉を持って寝かしつける。そして、とりあえず全身に巻いておいた包帯を取り替えようとして眉をひそめる。たしかにまだ酷い怪我、でも一日でこんなに治るはずがない。・・・この子は人間ではないのかもしれない。そんな考えが浮かんだけど、すぐに追い出した。だってどっちでもいいことだから。この子が私を今必要としてる。大事なことはそれだけだと思った
「ん? これは? ペンダント?」
包帯を解いたことでこの子がはいているズボンの中にペンダントが入っていたことがわかった(※包帯は素肌に巻かないと意味がないんですよ、マリアさん?)。まるで鋭利過ぎる刃物で真っ二つにされたような・・・つるつると綺麗な断面をした半分だけのペンダント。見たこともない不思議な模様のペンダントだったけど、それ以上に興味がわいたのは
「リュウト=アル・・・途中までしかわからないけどこれがこの子の名前かな? リュウトくん・・・か。この下に書いてあるリデアってのは妹・・・なのかな?」
まぁ、そのあたりはこの子が起きれるようになったら聞けばいい。私は久しぶりに見た年下の男の子の寝顔の方を見ながら思うのだった・・・別に私はショタじゃないわよ? ・・・たぶん
「あ、あの~」
「あっ! もう起きても大丈夫なの!?」
そのさらに翌朝、洗濯物を干していた私におずおずと男の子が話しかけてきたから吃驚! やっぱりこの子は人間じゃないのかもね。・・・でもどうでもいいことだわ
「は、はい! あの僕にも何か手伝わせてください。あなたに随分とお世話になってしまったみたいですし・・・」
「いいから、いいから♪ 包帯グルグルのミイラ男くんに手伝ってもらうほど私は落ちぶれていないわよ? で、私の名前はマリア、マリア=ストルよ。そうねぇ、姉さんって呼んでもいいわ!」
一人っ子だと思う私にとってちょっと憧れだったお姉さん役、うう~なんかぞくぞくしちゃうわね
「え、えっと・・・マリアさん?」
「ちっが~う! ね・え・さ・ん! はい、言ってみて!」
「そ、その・・・ねえさん?」
うう~、なんかいい! 響きがいい! 声がいい! その顔が可愛い!! あれ? なんか違うのが混じっていたような? ま! 気のせいよね!
「良く出来ました~♪ で、キミの名前は?」
「僕の・・・名前?」
「そう、キミの名前!」
? どうしたんだろう? そんなに眉間にしわ寄せて考えてたら可愛い顔が台無しじゃない!
「すみません・・・わからないんです。僕は誰なんだろう・・・どこから来たのか、なんでこんな怪我をしたのか、何も・・・わからない」
えっ? これって・・・まさか噂に聞く記憶喪失って奴? あっ! そうだ! 悪いとは思っていたけど預かっていたペンダント! これを見れば何か思い出すかも!
「ねぇ、これ見て! このペンダントはあなたが持っていたものなの! ほら、このリュウトって名前、あなたの名前なんじゃない!?」
「ペンダント? 名前? リュウト・・・うう、頭が・・・いたい」
えっ!? た、倒れちゃった!!? でも、倒れても気を失っても、このペンダントはしっかり握り締めてる。やっぱり、これはこの子の大切なものなんだ。わからなくても覚えていなくても大事なものなんだよね? おっと、そんなことの前にベットに運んであげないとね!
「あ、ねえさん・・・ごめんなさい」
僕が目を覚ましたのはやっぱりベットの上で、ねえさんが手を握っていてくれた。その・・・凄く温かかった
「ほら! いちいち謝らないの! でね、キミは記憶がないってことは行く当ても場所もないんでしょ?」
「・・・はい」
今の僕には何にもわからない。僕の中身は空っぽだ・・・きっと行く当てもなく彷徨って、どこかで・・・がお似合いなんだと自分でも思う
「だからね、あなたはうちにいなさい!」
えっ? この人は何で・・・そんなに親切にしてくれるんだろう
「その・・・いいんですか? 僕なんかが、その・・・いても」
「私が良いって言ってるんだからいいの! 私も・・・寂しかったしね♪ じゃあ、これからあなたはうちの子! 名前もこのペンダントからリュウト・・・そう! あなたはこれからリュウト=アルブレスよ!」
「ありがとう・・・ありがとうございます」
「ほらほら、そんなにかしこまらないの! 私たちは家族なんだから! ・・・ほら、男の子が泣いたらみっともないぞ♪」
ゴシゴシと涙を拭いてくれる姉さん。ちょっと痛いけど、とても嬉しい。全てをなくしたと思った。何も知らずに死んでいくんだと思った・・・でも、ここが今日から僕の新しい居場所・・・
これは竜神伝説の話が始まる前、リュウトがマリアに会ったころの物語です。したがってアキもレミーもアシュラも出てきません。出てくるのは
マリア「当然、私ね。番外編は私の独壇場よ!」
ママナ「ぶ~! 私も出てくるよぉ~」
リュウト「無論、俺もだな」
とこの3人がこの物語の主役ですね。特にママナはリュウトに対する思い、その根本に関わる話ですから大事な話と言えますね。
ママナ「えへへ、この物語に関しては私がヒロインだよ~! アキじゃないんだから!」
???「い、いいもん! 私は本編で目立っているんだから! ・・・ママナの裏切り者~~~!!」
・・・え~、正体不明の人物が走り去っていきましたが気にしないで下さい。では、今のリュウトの始まりの物語を
マリア「楽しんでいってちょうだい。私がリュウトくんをいかに育てていったのかをね」
・・・マリアがいうと調教に聞こえるな。さらに過去の物語、失われた記憶の話やライオス・レーチェルの物語もいつかかけたらと思っています