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Requiem  作者: 潤木一和
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街の中。Ⅲ 彼女の見る世界

 神を信じなくなったのはいつからだろう。

 望むことを諦めたのはいつからだろう。

 ただ、白い壁の中に籠り日々を送るだけ。

 出された食事をとって言われたことを作った笑顔でこなす。

 不自由もないし、文句を言ってなんとかなるものではないから言うわけがない。

 失うこともなければ増えることのない友達。

 聖女といわれ信仰の対象になって崇められる。

 その生活に慣れきってしまい想像以上に失うことは辛かった。

 失ってしまった悲しみは目から溢れ、そのせいで前が見えなかった。

 どうしようもない思いだけが募っていく。

 言い表しようのない悲しみ。

 私の大好きだった庭園に埋められた生きていたもの。

 埋められるときに見たそれはとても綺麗でとても息をしていないとは信じられなかった。

 埋められた次の日から私は毎日ここに来るようになってしまった。

 ここでレクイエムを歌っていた。埋められてしまった人に教えてもらったものだ。

 十字架の下で寝ている寝坊助さんに。

 十字架は全部で三本。綺麗なまま息をしなくなった人が下に埋められている。


 聖誕祭と呼ばれる行事がある。そこでは聖女の一人が舞台に立ち演説を行う。

 いつも演説を行う聖女が亡くなってしまったわけで、結局残ってる聖女は私を含めて四人。

 しかし、聖女は皆コアを保持し、さらに言えばコアの与える加護が強すぎて野放しにしとくには危険なため国教会と言う檻に閉じ込められている存在だ。

 そんな存在が大衆の前に易々と、姿をあらわしていい訳がない。

 そのため毎年決まっていた聖女だったんだ。そのため困ってるわけで。

 キシャルは大衆の前に出たら、他人の心の声が聞こえてしまうため取り乱すんだろうなー。

 エンリルは平気なのだろうがあまりやりたくなくていきなりボイコットしてしまいそうだ。

 後一人の方はとてもじゃないが頼めるお方ではないし、ということは消去法で私がやることになるだろう。


 腹をくくり聖誕祭に向けて頑張った。今日が演説の日だ。

 護衛を頼んだ知ってる人がいいからラルクたちに頼んだ。

 朝のうちから緊張で挙動不審だっただろうけど、庭園に来て歌を歌えばおさまるだろうと思っていたのに歌った曲のせいか寂しくなってきてしまった。

 演説まではここから出ることは今日中はないだろう。

 扉の外ではラルクとリヨウくんがいるんだっけ、もう少しだけここにいよう。


 そう思い十字架の前にしゃがんだ時だった気がする。


「うーーん。久しぶりに飛んだから変な感覚だなぁー。」


 後ろから確かに人の声が聞こえた。

 のんびりと中性的な声。

 私は勢いよく振り返った。


「やぁ。」


 のんきにあいさつ代わりに言われた。見ると声と同じく顔は中性的で髪は不思議な髪色で、髪型も不思議だ。

 と、いうか。何故、どうやって入ってきたのだろう。


「そんな怖い顔しないでよ。かわいい顔が台無しだよ?」


 へらへらとした笑顔を浮かべる相手に私はどんな表情をしていたのだろうか。

 相手の言う通り怖い顔をしていたのなら、驚きと混ざり酷い顔なのかな。


「………何しにどうやってここに来たの?」


 自分でも笑いそうになるくらい、変な声をしていた、そして何より声が震えていた。振り絞って出した声のように。

 驚きと困惑。その感情が私を支配している。

 なんなんだろう。よく分からない。


「飛んできたんだよ。扉の前に人が立ってたしね。入れないなぁーと思って飛んできた。」


 いっている意味が理解できない。飛んできた?どういう意味なのだろう?

 空を飛ぶのは物理的に不可能だとして、飛ぶとは。


「そんなに深く考えても君たちには理解できないから、悩むだけ無駄だよ。」


 笑みを浮かべ楽しそうに話す相手。

 こちらの困惑すら予想通りだと笑っているように思えて少し、悔しい。


「ねー君は今の生活に満足してるかい?」


 突然すぎて理解しろと言う方が無理だろう。…………生活に満足?そう言ったのかな?

 満足してるとは言えない。私はこの教会を檻としか思っていないのも確かだから口から満足しているなんて言葉が出ない。

 それを察したように笑い出した。


「君は、面白いね。ふーん、ちょっと予定変更。君にはここを壊してもらおうかなぁー?」


 聞こえた声は実に不吉だった。

 私にここを壊してもらう?相手が言っていることが突飛過ぎて何も伝わってこなかった。

 わけがわからない!

 確かにここには満足してないけど壊れて良いとは思ってない。


「やっぱり満足してないんだね。だよねー。こんな檻に閉じ込められて、嫌だよね。」


 真剣な顔でジリジリと近づいてくる。

 怖い。すごく嫌で怖い。

 威圧感とかじゃなくただの恐怖。

 後ろに後退しつつ泣きそうな顔してるんだろうな私。

 不意に見えた目は血で染めた赤色だった。

 赤い目は不吉だと聞かされた。地域によっては赤い目というだけで、それだけで迫害されたりするらしい。

 聞かされてた当時の同情もしくは哀れんでいたの自分が思い浮かんだ。

 今はその赤色に恐怖している。


「叶えたい夢が君にもあるよね?それを願ってみて、簡単だよ。ここに来る自分のことしか考えてない信者どもと同様に自己中心的な思いを口にするだけだよ?」


 相手の言ってることはほとんど理解していない。

 挑発と言うのが正しいのか、誘惑と言うのが正しいのか判断のつかない脳がおもむろに今まで言えなかった思いを浮かべてくる。

 私はいつしか後ずさりしてるうちに花を踏みつけていた。目に映った花びら、キク科のその花、頭の中が色んな思いに支配されてて何て名前だったかなんて覚えていないけれど、小さくて悲しい花言葉の花。

 友達がこの下に埋まっている人と私のために植えてくれたその花を踏みつけていしまっていた。友達がせっかく植えてくれた花を自分勝手な理由で踏んでいる。

 ああ、私は何て薄情なんだろう。何をしていたって結局自分のことしか考えていないじゃないか。



 どうせなら、頭に浮かんだ願いを声に出してぶちまけちゃおうか。

 今まで自分の願いは叶った事がなかった。

 願いに来た信者さんが願ったことは叶った。いや、私のコアが叶えた。

 私のコアは特殊なようで保持している人には加護を与えることはなく、周囲の一番願いの強い人に加護を与えるようで、無意識の間に人の強い願いを叶えてしまっているらしい。

 そういう事もあり、自分の願いが叶うことはないと思い込んでいた。

 だから、私は声に出してしまった。


「両親がいて友達がいる普通の幸せな暮らしがしたい。」


 声に出してしまった、震えたりかすれてしまっているであろう。

 声に出した後で気づいた。赤い目をしている目の前の人の言う通りに願ってしまったことにその人がなんで願ってと言ったのかはわからないが、相手の言う通りにしてはいけないような気がしていたのに言ってしまった。

 赤い目は髪の毛で見えなくなり、その人の口元しか見えないが確かに笑っていた。嘲笑。


 その光景を最後に私の醜い感情と今更私の願いに応えてしまうコアの加護の濁流と言ってしまっても良い様な流れに記憶と感情は吞まれた。



 この状況になってから思う、こんな愚かな自分を変えたい。

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