街の中。Ⅱ
国教会の方は慌ただしかった。
「騒がしいなぁー。」
スティークは国教会前のドアへと向かう階段に腰かけていた。
教会の中では足音やら、声がガヤガヤしていて外で座ってるスティークですら、騒がしいと言うほどだ。
「………ふぁー、平和だなぁー。」
手を組み伸びをする。国教会の前の階段で座り込んでそんなことをしている人なんて一歩間違えたら、不審者扱いされてしまいそうだ。
無意味に座ってるわけでもない。スティークなりに見張りのつもりなのだろう。つまり中のことは他の二人、ユウとリノンに任せていることになる。
ちなみに中では演説に備えて慌ただしくて修道女と呼ばれる方々やら、神父が珍しく慌てていた。なにせエリスが演説することが決まったのが急だったのでそんなことになっているのだろう。
正直なところ騒がしすぎていたたまれなくなって見張りを理由に外に逃げてきた。
「寒いなぁーーー。」
朝より何故か気温が低くなり、朝の気温に合わせた防寒具を身につけていたので段々寒く感じてきた。今の温度は0度近くまで低くなっている。いくら大人といえど寒さには勝てないようでカタカタと震えていた。
「こんなことならもっと厚着してくれば良かった…。中入ろうかなぁーー。寒いしなー。」
スティークは外の見張りを諦めて中に入ることにした。しかし、あの慌ただしい中に入るのかと諦めきれないようで立ってからしばらく考えてしまう。
本当はラルク達が来るまで待とうと思っていたスティーク。来たら交代してそのまま祭りを見て回ろうと思っていてが、予想以上に寒かった為くだらないことを悩んでしまっている。
「うわぁー寒そう。あのお兄さんめっちゃ寒そうだよー!」
ついに言われてしまった。後ろから聞こえた声に反応し振り替えると、見覚えある顔と見覚えない顔があった。
想像以上に早く来てくれたのはありがたかったがこのタイミングで来られたのは残念だ。
「外でなにやってたんですか。」
「み、見張り的な…………。」
「外でですか?」
中が騒がしくてとてもいられる状況ではなくてここで見張りしてましたなんて言えない。
いい言い訳が思いつかないスティークは見覚えのない少女がなぜラルク達とともにいるのかという疑問をラルクにぶつけてみることにした。
「ところでその少女は誰なんだ?」
「ああ、この子はユエちゃん。ちょっとそこで出会った子供です。」
子供という表現が気に入らなかったのか、ほほを膨らますユエ。リーアは抑えながらもくふふと笑いながら、上下に回転している。
そのことには気づきもしないラルクは戸惑っていた。スフィアはユエの機嫌を直すの必至だ。
話についていけてないスティークは首をかしげるしかない。
「……とりあえず、ユエが国教会で知り合いと待ち合わせをしているということでここまで一緒に来たということです。」
話についていけてないスティークにリヨウが補足説明をするが、言葉が足らずスティークはまだついてけ行けてない。しかし、もっと詳しくと説明を頼むのもなんか嫌だなと適当相づちをうち、話を聞き流すことにした。
そうこうしているうちにユエの機嫌も治った様で、寒いことだし中に入りたい。
「中入らないか?外だと寒いからさー。」
スティークの提案を受け入れ、国教会の中に足を進める。
中はスティークが出て行った時より慌ただしくなっていた。
礼拝堂には市民が礼拝などに訪れていた。それに対応する神父様たちが忙しそうに勤めていた。
そんな礼拝堂を横目に見つつ、ユエと別れてラルクたちは関係者以外入れない扉を開け、入る。
入っていくときに後ろを振り返ったラルクの視界に入ったのはこちらに手を思いっきり振り、笑顔で何かを言っているユエの姿だった。いつもなら聞こえる距離なのだが慌ただしくて聞こえないが口の動かし方でありがとうって言っている事がわかったので笑顔で返し軽く手を振った。
ラルクの後から入ってきたスフィアもユエに手を振りそのあと悲しそうに前を向いた。
「……あんなかわいい女の子がうちの隊にも入って欲しいものです。」
「まだ言ってる。」
「だってかわいい女子がいた方がやる気でますよ?目の保養にもなりますし。」
黙っていれば真面目で律儀な子なのになと残念な気持ち半分、こうでなくてはスフィアじゃないなと安心感が半分。スフィアは男性には厳しく、女性には甘い。
個性といえばそこまでだが、普通の人とは少し変わっている様に思える。
「さーて、遊びはそこまでにして仕事にはいろうねー。」
仕事とは護衛のことなのだろう。流石に私服のままというのもというわけで、制服に着替えなければならない。
更衣室を借りて、持って来たり持ってきてもらったりした制服というか隊服に着替えて、気持ちもついでに切り替えてきた。
「まーそっちのが見慣れてて安心するよね。」
更衣室を出てすぐ言われたので何のことかわからなかったが、数分考えたら何のことか理解できた。
そんなことは気にせずラルクを含めて三人とも出てくるとさー行くぞと三人を連れて国教会の深部へと進んでいく。
一体どこに向かってるかは疑問なのだが、聞いたところで答えてくれるような人でもない。
大人しくついていくしかないのである。
長い廊下に左右に扉があるそんな風景がずっと続いている。
突き当たりの扉が見えてきたが、まだ道のりは長そうだ。
『あーもう。飽きた飽きましたぁ。いつまで続くのさ。』
「ついに喋った。」
いつもの通りリーアは喋らないことに飽きたようでお得意の空中での回転を始めた。
ラルクはそろそろこのマスコットの性格が、分かってきたように感じた。
『というかどこに向かってるのですか!?ながすぎますよーー!!』
「何の説明もなく連れてきちゃってごめんな。一応この突き当たりだから。」
スティークは振り向きもせず、そう答えた。
『そう言えば、後の二人はー?』
「今から向かうところにいるからね。」
この廊下は他に比べたらわりと静かで、少し離れてるだけならそれほど大声を出すことなく、話せる。
突き当たりの扉が近づいてくる。すると二人ほど人が立っているのが見える。
そのうちの一人がこちらにかけてくる。さらに言えば見覚えがある。
「あれ、兄さんなんじゃ……。」
呆れたように呟いた。
近くなるに連れてはっきりしてくる。確かにリノンだ。その後にユウが歩いてきている。
何か叫びながら、こちらに向かって来ているが気のせいだろうとリヨウは歩み続ける。そして、リノンがスティーク達をかわしてこちらに来る自分の兄が寸前まで近づいたところで横に避けて足を出すと思いの他すんなり引っかかった。そのまま音を立てて転ぶ。
「兄さん、廊下は走らない。」
うわーとリーアがリノンに寄る。痛ったといいつつ、立ち上がる。外傷はない。
ユウが笑いながら歩いてきた。
「盛大に転んだな。単純だなぁー。」
笑いを含みながらそう言った。
ラルクとスフィアは笑いを堪えていた。
さっきまでの沈黙とは違い空気が柔らかくなった。
リノンは立つなり、リヨウに抱きつき街は楽しかったのかと問っていた。鬱陶しそうに適当に返事して腕を掃う。
「ところで二人はここで何をしていたのですか?」
「ああ、エリス様がこの奥の扉の中にいるから外で待ってたんだ。」
指を指しつつ説明してくれるユウ。
なぁ?とリノンに同意を求めるが、適当な返事が返ってくるだけだ。
ここで止まってるのもあれなので扉を目指して歩いていく。
扉にたどり着くまでは談笑しながら歩いていたが扉の前まで行くと中から歌が聞こえて全員話すのをやめた。
アカペラでしかも微かにしか聞こえない。
「レクイエム。……鎮魂歌か。」
ラルクがぼそっと言った。扉越しに聞こえてくる微かな歌の曲名を良くあてられたなとスティークは感心していた。
「とりあえず、ここで交代するけど良いよな?なので後はラルク任せた。」
「えっ?説明なしなんですか?というか早くないですか?」
「うん。説明するような事なんてないからね。ほら、善は急げっていうしね!」
つまり、早く交代して面倒事をさけたいんですね。そして、スティーク隊長ことわざの使い方間違ってます。スティークに流された感じはあるが仕方ない、今度倍返しにしてやろうとラルクは心の中では思いつつ声に出すことはない。
そうなんですか。と了解し、ラルク達はスティーク達と別れまた三人になる。
レクイエムが終わるまで待つことにした。
扉の向こうはレクイエム、鎮魂歌を歌うところなのだろうか。でなければなぜ歌っているのか気になるところだ。しかし、共同墓地とかは国教会とは別にあるらしく、この扉の向こうが墓地ということはあんまりないだろう。
「綺麗………。」
リヨウはそう呟き、聞き入っている様。いつもならここで向こうの国とは違うのかと聞くところなのだが、それが聞けない雰囲気である。
やっとというか、あっという間というか歌が終わった。ラルクは礼儀正しくノックをして返事を待った。
中から、はーい、どうぞー。という声が聞こえて扉を開けた。
扉の中は植物が生い茂る空間だった先ほどいた建物の中とは思えないような庭園。
床は扉から1メートルくらいはタイル張りで、そこから先は段差があり土が敷き詰められていた。教会の中には室内庭園があることにまずは驚く。
背の低い木ばっかりだったり、噴水などは流石に置けないため本物の庭園を引き合いに出しては勝ち目はないが、室内庭園にしては上等だ。
その真ん中に大きく太く、室内における最大の木と言っても過言ではないぐらい大きかった。その木下にエリスはいた。
エリスの周りには木製の十字架が地面に刺してあった。
「もう、交代の時間になったの?早くない?」
「スティーク隊長に押しつけられました。」
「なるほど。まぁー護衛といってもやることはあんまりないから、好きにしててもいいよ。なんかあったら呼ぶしさー。」
今日はこの前と違ってテンションの低いエリス、演説のことが原因なのかそれとも……。
「…………その十字架ってもしかして。」
自分でも気づかぬうちに声に出していたのか、リヨウは自分の口をとっさに押さえた。
「うん。この十字架の下には死体が埋まっているんだよ。………仲良かった先輩方が。」
「………そもそも何でこんなことが起こったんです?聖女様たちがこんなに殺されるなんて事例今までなかったんですよ?なんでいきなり…」
スフィアが、しんみりと口を開き問う。
「何でこんなことになったのかは私が聞きたいよ。」
「そうですね。すいません。」
「謝るのはおかしいよ。私も言い方きつかったかも…………嫌だなぁー仲のよかった人が無くなるのは辛いよ。」
十字架を見ながら、しゃがみ悲しそうに呟くエリス。なんて言葉をかけていいか分からず沈黙がしばし続く。
「ごめんね。しんみりさせちゃって。それに先輩達の死が原因で私の護衛なんて頼むことになっちゃったしね。」
「その事なら大丈夫です。どうせ予定もなかったですし。」
「なら、よかった。」
立ち上がり手を後ろに組み、笑顔でラルクの方を見てそう言ったが無理に笑顔をしている気がして嫌だ。
下を向き何かを悩んでいるリヨウは顔をあげた。
「………ちょっと聞きたいのですが、いいですか?」
「うん。いいよ。」
「その聖女様たちの死体って見ましたか?死因とか聞きました?酷な事を聞いてすみません。でも、気になる事があって。」
えっ?と困った顔をして考えてリヨウの問いに答える。
「死因は不明で、死体は綺麗なままだったと思う。私血が苦手だから血は出てなかった。」
「そうですか。…………ありがとうございます。」
「気になる事って?」
「………なんて言い表せば良いのかわからないので、また後でいいます。」
結局よくわからないままこの会話が終わり。
エリスはまだここでレクイエムを歌うからと、三人に部屋の外で見張り的なものを頼み。
三人は言われるがまま、部屋の外に出てスティークと同様に二人部屋の前で一人が外ということにしようと、なったが外は寒いので一人は礼拝堂に行くことになった。じゃんけんの結果、ラルクとリヨウは部屋の前でスフィアは聖堂になった。
やっと仕事が始まる。