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Requiem  作者: 潤木一和
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街の中。Ⅰ

 聖誕祭当日。

 祭りと言うだけあって、街は騒がしたかった。

 いつもなら、祭りを楽しむ側であったラルク達は護衛の任務なわけだが、護衛が六人いても邪魔なだけなので、二班に別れることにした。

 スティークが公平にするためにじゃんけんで決める事になり、反論も出来ぬままラルク達はじゃんけんした。その結果、前半護衛に付くのはスティークとリノンとユウ。後半はラルクとスフィアとリヨウ。

 前半と後半どちらのが任務的に楽かと聞かれれば前半の方が圧倒的に楽なのだ。

 後半には聖女様の演説がある。今回はその手伝いもあるらしく容易な任務では無いらしい。常例ならば、いつも演説を担当してる聖女様が演説するのだが、聞いた話によると異常事態らしく最下位の聖女様であるエリスに回ってきたらしい。

 演説なんてしたことのないエリスにとって結構大変な事態であることは言うまでもなく、更にはその手伝いをするとなると容易でないことがわかってもらえるだろう。

 そんな大変な役をじゃんけんの勝敗によって担ってしまったラルク達は私服でのんびり街を見て回っていた。



 並んで道を歩く三人プラス一体。

 ラルクはフォーマルに近い服にブーツ。スフィアは女子らしいフリルの白いワンピースにヒール。リヨウはパステルカラーのパーカーとズボンとスニーカー。ざっと三人の私服はこんな感じだ。

 雪が降ってもおかしくない位に寒い時期なので、三人とも長袖の暖かい格好ではあるが、私服なだけあって個性が出てる。

 祭と言うだけあって屋台がちらほらある。午後からは演説が有るためか午前中は、屋台が混雑する。

 人混みの中をのんびり歩いていた。


「………白い。」


 第一声がこれであった。声の主はリヨウだ。

 回りをキョロキョロ見ていっていたので建物の事だろうとラルクは思い、特に何が白いのかと聞くことはなかった。ただ、エゼルスールの街並みと軍事国家の街並みはそんなに違うのかと聞いてみたくなったようで、若干そわそわしているが分かる。


「あっちとは建物の色とかが違うんですか?」


 スフィアに先を越された。ショックと共によく聞いてくれたと思うラルク。


「向こうはほとんど鉄とコンクリートが多いからね。機械的と言うか冷たい感じ、こういう真っ白な暖かいイメージの家は………少なくとも僕はあんまり見たことがない。」


 リヨウは国の違いを再確認しつつ、物珍しそうにキョロキョロしている。正直言って目立つ。

 こうしてるうちに9時を少し回った。ゆっくりと歩いて機関の建物から 30分ほど経っていた。

 まだまだ、街の中心には着きそうにない。中心には分かりやすく国教会がある。この前スティークが往き来した道を歩いてるのだが、30分でつく道が30分たっても着けていないのだ。

 今回の目的は国教会付近で護衛の時間まで時間をてきとーに潰す事なのだが、ゆっくりし過ぎてそこまでたどり着けていない。これはこれで時間は潰れているが、緊急時に対応出来ないため好ましくはない。


『ああーもーうー。ひまだよー!ぼく猛烈にひまだよー!』

「ついに喋った。」

『だって、祭りだよー?なんか美味しいものとか食べたいですー。』


 リーアというか、機械が食べ物を食べるのかと少々の沈黙。

 空中でくるくると横に縦に謎の回転を繰り返しているリーア。三人の頭の上を浮遊している。どういう仕組みで動いてるのかはロミカに聞かねばわからない。


「食べ物を食べるんですか。このマスコットは?」

「いや、僕も今知って動揺している。」


 持ち主のラルクもロミカから説明は受けていないらしく、動揺していてスフィアの問に自分の心境を述べてしまっていた。


『ぼく、結構食べるよー食べると電気がうまれて、電気がいつもより多くなりピッカーって光るですよー!』

「………これ以上光らなくてもいいかと。」

『光輝くのでーす。』


 特に食べたことによる機能的効果は光るだけらしい。やっぱり、このマスコット謎。


 屋台が多くなってきて甘い匂いが漂ってきた。


「まぁ、甘い匂いがしてきたわけだし、ちょっとだけだけど甘いものを食べようか。」

『わーい』


 嬉しそうに謎の躍りを踊り出す訳のマスコット。一通り躍り終わったのか、指……いや、腕をある方向に指して目をキラキラさせている。

 三人してそっちを見てみる。そこの屋台には赤く丸い球体がテカテカの液体に浸けられ串に刺され並べられていた。


「なにあれ初めて見た………」


 これがカルチャーショックなのだろうか、国の違いは日常生活においては当たり前に異なるのだろうが、祭りの時でさえその事を痛感するようだ。


「君は知らないのか?あれはりんごあめだよ。」

「へー。りんごあめ………甘いのかな?」

『カリカリのシャリシャリのあまあまなのですよー!』

「………美味しそう。」


 ちょっと興味が沸いたみたいで楽しみなのが声でよくわかった。

 そういう意味ではリヨウはとても分かりやすい。言葉で気持ちを示さない分、態度で示してもらえるのでありがたいと保護者のような目線で思うラルク。


「リヨウ君も食べたいようだし買いに行くか。」


 屋台の方へ向かうと何故か人魂りが出来ていた。

 目の前まで行くと理由が明確になった。

 屋台の男の人とリンゴアメを買いに来たのかはわからないが頭に付けた髪の毛の先っぽが跳ねている少女がもめていた。


「あれぇー?持ってきたのに………なんでないのかな…ボク絶対持ってた!おじさん信じてよー!」

「こっちも仕事でな。悪いが嬢ちゃんあげるわけにはいかないんだよ。」


 この会話だけで少女がりんごあめを買おうとしたらお金が無くて、でも、どうしても欲しいって事だろうということは察しがついた。

 少女はそんなに驚くほど幼いとかそういう感じではなく、13から15歳辺りだろう。しかし、ボクと言う一人称と頭の上のリボンがずいぶん幼いような印象を受ける。


 三人はしばらく眺めていたが、らちが明きそうに無いのでラルクが動いた。


「すいません。りんごあめを買いたいんだけどいいかな?」


 財布を出して人魂りの中でりんごあめを買う勇気。りんごあめを買うのにこんな勇気が必要になる状況を誰も想像していなかっただろう。

 ラルクは無表情で2つほど地味に戸惑っているおじさんから購入し、この状況の原因である少女に一言いい、二人しておじさんに謝り人魂りから出てきた。

 二人が出てきてから人魂りは何事もなかったように分散はした。


「リヨウ君。はい。」

「………あ、えっ?あ、ありがとうございます。」


 自然な流れでリヨウにりんごあめを渡す。戸惑いながらも目をキラキラさせて受け取った。

 ラルクは少女にもりんごあめを渡した、少女はいいの?とでも、言いたげな顔でラルクを見たがラルクは優しげに微笑んだ。それを見て少女の表情がぱっーと明るくなった。


「ありがとう!!!」


 可愛らしい笑顔で言われて少し照れそうになるラルク。

 ガリッとりんごあめを噛む音が聞こえた。少女は嬉しそうにそんな音を立てりんごあめを食べている。


「君は友達か家族と一緒に来たの?」


 少女は口に入った分のりんごあめを飲み込み、口を開いた。


「友達と来たんだけどね。気づいたらはぐれてたのー。仕方ないから、りんごあめ買おうとしたらあんなかんじなのー。」

「なるほどね。」

『マスターが出ていかなきゃ、あのままだったとおもいます。マスターに感謝してほしいよー。』


 今までスフィアの肩に乗ったいたリーアが飛び出てきてそうそう、何が気に入らなかったのかいつもよりうざい言い方をする。


「おお!!なにこれー!ふにゃふにゃしてる!!!」

 

 機嫌の悪そうなリーアの頬をツンツンする少女。興味津々の様子。


『何ですか。このリボンは!?初めて見るタイプの人間だよ!!』

「ボクはリボンじゃなくて、ユエだよー!ふにゃちゃん。」

『ふにゃちゃんではなく、ぼくにはリーアと言うちゃんとした名前があるのです!』


 この会話でわかったのは少女がユエという名前だということだ。

 ユエはりんごあめを嬉しそうに食べながらリーアをツンツンしている。

 ラルクはリヨウの方を見てみると、嬉しそうにりんごあめを食べていた。僕の周りには子供っぽい人が多いなと痛感した。

 そんなことを感じながらリヨウの方を見ているとそれに気がついたリヨウがりんごあめをかじるのを止めて口を開いた。


「………僕の顔に何かついてます?」

「……いや、幸せそうだな。」

「すごく美味しいです!この国にはこんな美味しいものがあるんですね!!」


 甘いものが好きなのかいつもより大分テンションが高いのが伺える話し方。

 まだ、何故か理由も分からず揉めているリーアとユエの方に目をやるとスフィアが話に加わっていた。


「ユエちゃんってここら辺の子なのですか?」

「ううん。とおーい所から今日の為に来たよ!」

「友達と二人で来たのですか!?行動力ありますね!」


 スフィアはいつもより楽しそうだ。

 年上が敬語の年下がため口な異様な光景であった。

 隣でリーアが拗ねているのがラルクの視界に入ってきた。


「で、何でリーアは拗ねているんだ?」

『…マスターりんごあめを買ってくれるって言ったのに………』

「大体理解した。でも、君にりんごあめを買うとは言った覚えはないけど。」

『いえ、マスターは確かにいっ……………てなかった………うにゅー』


 リヨウ君も食べたいようだし買いに行くか。そう言っただけなのだラルクは決してリーアに買ってくる何て言ってなかった。

 その事を思い出したリーアはさらに拗ねる。リーアの気持ちを表すかのように頭の電球が下に垂れ下がっている。

 そのまま、リーアはラルクから離れ一人りんごあめを食べていたリヨウの頭の上に乗っかる。


『いーなぁーいーなぁーりんごあめ。』

「………欲しい?」


 普通はそうなりますよね。とでも言いたくなりそうな光景。頭の上でいーなぁーと言われて分けてあげない訳にもいかないし、これで断ったらさらに拗ねそうだ。

 

「食べかけでいいなら、あげるよ?」

『いいの?』

「半分は食べれたから満足。」

『ありがとう!!』


 嬉しそうにリヨウからりんごあめを受けとる。

 幸せそうにリーアが、りんごあめを食べ始めた。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになったラルク。


「すまないな。」

「大丈夫です、半分食べれたので。………僕なんかに気を使わないでください。」


 気を使わないでくださいを独り言のように呟き。リーアを眺めていた。


「気を使うな、か………じゃあ、君も敬語をやめてくれないか?」

「敬語をですか?………年上の人にため口は…」

「ユウを見習ってみたらどうだ?」


 年上だろうと、誰であろうと基本的にため口のユウを見習ってしまうと後で取り返しのつかないことになりそうだが、ラルクはあえてユウを勧める。


「アイツは結構無神経だからな。基本的にため口でしかも分け隔てなく接している。あれになれとは言わないが、もう少し気を使わず人と接してみるのもいいと僕は思うのだが。」

「………そう、ですね。考えてみます。」


 遠慮がちになることは仕方ないと分かっているが、気を使ってギクシャクするのは嫌なので出来れば気を使わずに接して欲しい。そう思いつつ言葉にして伝えようか、どうしようかとラルクは悩んでいたが、結果的にラルクは言い方を変えて伝えることにした。


「……正直な話、君が気を使わないでもらえるとこちらとしても気を使わずに接しやすい。」


 この言葉をどう受けとるかはリヨウしだいなわけでラルクにはどう受けとるかなんて全く検討もつかない。

 ただ、いい方に傾けばいいな。そう思っていた。


「………確かに僕が気を使ってるのに相手に気を使わないでくださいと言うのは可笑しいですね。わかりました。」


 何がわかりましたなのか。聞いてみたいところでは有るがラルクはその気持ちを抑えつけた。

 リーアがりんごあめを食べ終えたようでラルクの方によってきた。


『マスター美味しかった!!リヨウ君ありがとう!!』

「良かったな。」

『うん!で、何を話してたのー?』

「………何でもないよ。」


 ふーんとリーアはリヨウの方に行き、ペコペコと頭を下げていた。頭を下げるといっても頭しかない奴なので、電球が上下しているだけだ。

 ユエの方にラルクが目をやると困ったような顔をしていた。


「どうかした?」

「10時に国教会?だっけ、そこに別れたときは集合だからお姉ちゃんたちとお別れしないと。」


 さっきからユエが友達と別れたのに平気だったのはそのせいかと納得がいった。

 両手で食べ終わったりんごあめの棒をしゅーんと落ち込んでいた。初め会ったときのように無駄にテンションの高い感じは消え去っていた。

 落ち込んでいるユエの頭に手を置きラルクは微笑む。


「僕らもそっちに行くから一緒に行こうか。」


 ラルクは落ち込んだ表情が明るくなる瞬間を見ることが多く、そういう瞬間はラルク自身もその瞬間が好きだ。


「ありがとう!!とにかくありがとう!!」


 とても、無邪気な笑顔。スフィアが口を抑えてユエの方を見ながら口を開いた。


「………か、かわいいです。我が隊に入れましょうよ。ラルクさん!こういうかわいい女の子を必要ですよ。我が隊にも華が欲しいです。むさい男子ばっかではなくてかわいい女の子を!!」

「………この子を戦わせる訳にもいかないでしょ?」

「…それはそうですね。でも!」


 なんの話ー?とユエが首を傾げる。スフィアはかわいいかわいいと言うばかりで話は進まなそうなので、道のりを急ぐことにした。

 リヨウとリーアを呼び、国教会に向けて歩みを進めた。

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